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【1分で読める小説】 その8 試合前の瞑想

6オンスの赤のグローブをつけ終わると、俺はいつものようにロッカールームのベンチに横になった。試合をイメージし、集中力を高めるための瞑想に入るのだ。俺は八度目の防衛に臨むミドル級の絶対王者であり、相手はランキング12位の無名選手。だが油断は禁物だ。

———左ジャブと見せかけて左フック。奴のガードの後ろをガツンと通す。怯んだ隙に、俺は右ボディを放つ。奴もジャブの連打で反撃。俺がフェイントで距離をつめた瞬間、奴の高速ワンツーが火を吹く。今だっ。0.5秒差でかわし、渾身の右ボディ カウンター!!

と見せかけて、俺の拳は軌道を大きく上方修正し、ガラ空きとなった奴のアゴを必殺の右ストレートでぶち抜いた。折れた歯が宙を舞い、大歓声がリングを包む。———俺はゆっくりと目を開け、ベンチから上体を起こした。「会長、準備できました。行きましょうリングへ」

「もう終わったよ」え? 会長の言葉が理解できない。「記憶、飛んでるな」まだ理解できない。「1ラウンド、KO。お前の負けだ」「そんなバカな…」言いかけた俺の口から血が溢れ、折れた歯が数本床にこぼれた。「最後にお前がくらったのは右ストレートだったよ」

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