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5/29 mon [surrealism: 破壊と再生によって深化する意識]

 人は何かを作り、それを破壊する生き物である。純真無垢な幼い子供でさえも、積み木の城、砂場の山、自ら作り上げたものを壊したくなる衝動を時に抑えられなくなる。万人に当てはまるとは言い難いが、狂気を内に秘めながら日々を生きている。それが膨れ上がって戦争が起きたり、または、新しい芸術が生まれる。

 20世紀初頭、激しい筆致と強烈な色彩により野獣派と呼ばれた【フォーヴィスム】、原初的な造形を取り入れた【プリミティヴィスム】、対象や空間を多角的に捉えた【キュビズム】と、ヨーロッパの近代美術の流れは加速し、社会においても政治体制やテクノロジーが進化し絶え間なく移り変わっていった。具体的な物から本質的な何かを抽き出す【抽象美術】も生まれ、「表現主義」の幕開けとなった。

 そのような時代の渦の中、1914年、第一次大戦が勃発する。機関銃や戦車、毒ガス等、初めて大量殺戮兵器が本格投入され、約4年もの間、多くの命と美しい自然を奪っていった。進化を遂げてきた文明と科学技術によって長引いてしまった戦争の悲惨な結末。人々は、人間の[理性]はどこまで正しいものなのか、疑念を抱くこととなる。この疑念こそが【ダダイズム】【ダダ】という芸術運動を生んだ。これまでの「芸術作品とはこういうものだ」という考え方、「既成概念としての芸術」を徹底的に否定した。あらゆる方法を駆使して非合理的なものや非理論的なもの、そして混沌を目指した。

 第一次大戦が終結し、ダダの中から、芸術の破壊や否定に留まらない、新しい芸術を創り出そうという動向が見られるようになる。「人間の本性は[理性]や[意識]ではなく、[無意識]にある」というジグムント・フロイトの理論に基づいた【シュルレアリスム(超現実主義)】だ。オートマティスム=予測不可能な言葉やイメージの連鎖によって人間の無意識にアクセスしようとした彼の思想は、ダダのメンバーの一人であったアンドレ・ブルトンによって唱えられ、常識に縛られることのない自由な芸術が生まれることとなった。絵画という平面にとらわれず、オブジェやコラージュといった様々な素材を組み合わせる技法も用いられるようになる。

 戦争においての勝利と敗北、善と悪、是か否か。対極する二つの答えに留まらず、この時代の「芸術とは何か」という問いを放つ作品たちは、多様性と柔軟性を持ち合わせ、不透明でありながら鮮烈な印象を残す。「自由」を求める人間の本質を垣間見ることができる。無惨な戦争の歴史を受けても、この世界から戦争は無くならない。もし第三次世界大戦なるものが起きたとき、この地球は塵となり、人も芸術も、無意識の世界で再生するのではないだろうか。無論、死後の世界など誰にも分かり得ないが、破壊と再生により繰り返される人間の意識は、私たちの操作できない場所で今もなお生まれ変わっている。

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