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大学生自転車日本一周旅十七日目:福井駅から敦賀市を通って近江舞子駅(滋賀県大津市)まで

本編

 この日はなかなかにビビっていた。近畿に入ることが出来そうで嬉しいという感情をビビりが押さえつけていた。なぜなら、二回も山を越えなければならないからだ。まず、敦賀に行くまで。次に、滋賀県に入るまで。逃げたい。かといって他にいい選択肢があるわけではない。気合を入れて自転車を漕ごう。覚悟を決めなければ。

 もともと雨予報ではあったが、空は何とか粘っていた。雨が降りそうな顔はしていたけど、まだ降ってはおらず、午前中は何とか切り抜けられそうと必死に伝えてきた。「ほら、俺が耐えているうちに早く行ってしまえよ」と背中を押してくれていた、ということにする。疲れを取ることが出来る風呂の入り方もなんとなく分かってきていたので、今の自分ならなんてことはないはずだ、と希望をもって一日をスタートした。

 まずは比較的平地の市街地を抜けていく。そして、2時間ほど進むと、いわゆる登りメインの山道へ突入。なかなかに危ない道が多かったけど、てか、歩道は無いし大型車はガンガン通るしめちゃ危ないけど、午前中で体力が余っていたおかげで、敦賀までは自転車を押すことなくたどり着けた。自転車を降りて押してしまうと、体の分と自転車の分の両方を合わせた横幅が必要になるので、車通りの多い道路ではより危なくなる。自転車に乗っていても危ない道だったからなおさら。漕ぎ切れてよかったし、漕ぎ切らないといけなかった。体力がもし尽きてしまっていたら、、、と考えると、ああなんて恐ろしいんだ。

 敦賀市の市街地に入る手前のコンビニで昼ご飯を食べながらゆっくり休憩。雲行きはどんどん怪しくなっていたけれど、正直雨には降られる前提だったから問題はなし。地元の爺さんに「どこまで行くんだ」とか「雨降るから気を付けろよ」とか言われたけど、滋賀に行くから山を越えるなんて言ったら面倒臭くなりそうだし、雨が降ることぐらい知っとるんじゃい!優しさなんだろうけど、まずは自分の心配しろよっていう身なりだったから、そんな人に言われるのはなんかプライドが許さない。全然溶けない冷凍カットフルーツを口に押し込んで、さあ、第二の山へ向かおうじゃないか!

 足の疲労は結構来ていた。午前中は山をこぎ切ったものの、午後もまた越えるとなると、やはりしんどい。仕方なく自転車から降りて押し歩く。さっきも書いた通り降りた方が狭い道では危ないんだけど、ふらふら漕ぐのも危ないから正直仕方がない、と開き直って進んでいく。道はひたすらに登り基調。試練が幕を開けた。

 ついに雲が耐え切れなくなったのか、雨粒が落ちてきた。最初は一粒、二粒と。しかし、5分もたたないうちに、雨脚はどんどんと強まって強雨になった。まただよ、天気予報の何倍をも超える規模。一度地下道に入って渡る場所があったから地下で雨宿りしようとしたけど、一向に止む気配がない。雨雲レーダーもまだまだ止まないと言っている(雨雲レーダーだけは信頼できる)。観念。諦めてこの雨の中進むことを選択した。

 てか、なんでよりによって山登ってるときに降んのよ。ただでさえ危険なのに、ドライバーの視界を遮りやがる。死のリスクを自然現象によって高められながらも、どうしようもないから歯を食いしばって自転車を押す。ただ、残念なのが押したってちょっとしか進まないこと。漕ぐのに比べてペースは3分の1以下になると思っていい。だから全然頂点までたどり着かない。早く下りたくて頑張って自転車にまたがるも、100mも漕げずに引きずり降ろされる。でも、心は折れずに。車が来たら必死にガードレールに寄って、最大限の努力はする。漕げなくても、必死に押して一歩でも速く進めるように。

 予想以上に時間はかかったが、やっとのことで頂点を越え、滋賀県に突入した。待ちに待った近畿だ。下りの気持ちよさと相まってテンションは急上昇。雨で危険ということも踏まえつつ、一気に駆け下りていった。

 下りきると、今度はびわ湖が近づいてくる。だが、いったん焦らしプレイ。マキノにあるメタセコイア並木を見に行く。思った以上に田舎だったけど、山のふもとだしそんなもんか。車通りが少ないことに感謝しながら進むと、並木ゾーンに到着。ほんとはダメなんだけど、スマホ片手に撮影しながらその並木道を優雅に通った。こういうことが出来るのは自転車の特権よ。観光客は歩くか、車の中から眺めるかしかできないけど、自転車なら気持ちいい風を切り裂きながら景色も楽しめる。目的地まで到着するのに苦労はするけど、到着してしまえばこっちのものになる。そうやって一人優越感を感じながら並木道を走った。

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 ただ、並木道を抜けるとあたりの景色は表情を変えてしまって、普通の田舎に戻ってしまい、並木道にはいた観光客の姿も一切見られない。ついさっきまでとは切り離され別世界にいるような感じがして、それがすごく違和感だった。作られた観光地。人口の景色。そんな印象が頭を埋めた。

 少し気は落ちてしまったけど、琵琶湖のほとりまで来ると話は変わる、はず。これが日本一の湖か、と感動するだろう。実際、最初はそう思って喜んだ。ただし、それしか感想はなかった。なんてったって、これまでさんざん海は見てきたわけで、湖とはいえ新たな感動なんてそうないのだ。ただ琵琶湖のほとりであるという事実に、何とかモチベーションを引き上げさせて先を目指した。琵琶湖では、天気があまりよくないにもかかわらずマリンスポーツに勤しんでいる人が散見された。てか、湖でやるマリンスポーツもマリンって使うのかな、海じゃないのに?とかどうでもいいことを道中考える。

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 足元には自転車のコースも書いてあって、初心者や上級者などのレベルに応じて道が分けられていた。書いてあると歩道の無い道でも堂々と通れるから有り難い。でも、一つ問題が。上級者の定義が分からない。だから、どこに行くのが最適なのかが分からない。上級者に行って、もっと自転車を極めているような人に嫌な顔されながら抜かれるのは嫌。だけど、おっそい老人等ばっかりがいそうな初心者コースで抜きまくるのも面倒。せめて1キロ何分以内とか、時速何キロ以上とかで区切ってくれないと分からないよ!そこは改善お願いします。

 途中からは国道の側道を通らされた。川にぶち当たるたびに上り下りがあったりと面倒臭さはあった。だが、その分車通りはほとんどないから安心して漕げた。しかし、一時は止んでいた雨もまた降り始め、しかも結構強烈になってきた。景色も特に面白くない場所だったのは不幸中の幸いだったかもしれない。目的地の宿泊施設に全集中。日本海側に雨雲前線がかかっていたから、近畿まで抜ければ、その影響も小さくなるはず。つまり、明日以降雨からはおさらばできるはず。そう思って前を向く。

 我慢し続けていたら、やがて国道本道に合流でき、琵琶湖沿いの道に。ここでは、上級者のコースしか書かれておらず、土曜日ということもあって車道は交通量が多かった。こういうときに一番困るんだよ!道自体も狭いし。ほんとの上級者が後ろから来た時に追い抜けなくなって迷惑がかかるかもしれないじゃん。でも、ここまで来た以上いちいち考えても仕方がないし、自分は走行距離だけ見たら立派な上級者だからと洗脳。

 途中白髭神社というものがあり、湖にも鳥居があったから記念撮影しておいたが、本堂みたいなのは道路を挟んだ向かいにあった。近くに横断歩道がなく、移動が危険なうえに面倒。だけどせっかく来たわけだしと思って、横断禁止にはなっていたが渡って行った。車が来ていなかったので許してください。

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 ここからは、宿泊予定の施設が近い近江舞子駅を目指す。途中道が狭かったり、トンネルが自動車専用だからと追い出されたりしたけど、時間に余裕があったおかげで無事到着。あとはチェックインまでの時間をつぶすことに。1時間以上まだ残っていた。

 しかし!ここで問題発生。なんと、俺の確認不足で女性用のドミトリーを予約してしまっていた。その施設には男性用と共用のドミトリーもあって、そこの部屋にまだ空きがあったから何とかなったけど、なかなかにやばいミスを犯してしまっていた。あぶねー。ただ、フロントの人たちには変態かもっていう目で見られるだろうことを想像したら、気持ちが浮かばれなかった。実際にそういう目で見られるかは分からないけど、テンションがた落ち。好青年感を出してそうじゃないアピールはするけど、それも虚しすぎる、、、。一人で勝手に疎外感を感じていた。

 しかも、その施設は共用スペース以外飲食不可。え?寝る前のどが乾いてもいちいちラウンジみたいなところに飲みに行かなきゃいけないの?寝ることが出来る以外は非常に面倒くさいのに、そこそこの料金を持っていかれていたから、さらにへこんでいた。これだったら野宿でよくね。てか、そもそも旅出発前は野宿しまくる想定だったのに。逃げすぎじゃん。そりゃ雨ばっかで野宿できなかったっていう事情もあったけど、当たり前に泊ってね?

 もともと翌日は京都の友達の家の予定だったけど、予定が合わずバラシになったことも相まって、野宿をしなければならないと強く感じ始めるようになった。すると不思議なことにワクワクし始めてきた。旅を始める前の心を取り戻したというか、野性的な部分が目を覚ましたというか、とにかく希望で心が満ち溢れ始めた。

 ということで急遽翌日の野宿が決定。やはり、居心地の悪いほうが旅らしくなるし、自分や人生と向き合うなと考えながら、早めの眠りについた。

ルート

 福井駅から県道229号線を走って南下し、国道8号線に合流して山を越え日本海側へ。そのまま敦賀まで下りていった。敦賀からも国道8号線を走り、山に入った後の分岐点で国道161号線に乗り換え、琵琶湖の西側のマキノ駅付近まで下りた。そこからは基本的には国道161号線を走ったものの、ところどころ近道をするために琵琶湖沿いの道を走ったりもした。


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