息子が保育園から幼稚園に転園する。

保育園最終日。息子は目覚めると開口一番に「きょうさいご!」となんとも嬉しそうに言う。どうやら保育園に行かなくなったらママやパパとずっといっしょに遊んで暮らせると思っているらしい。「次は幼稚園だよ」と伝えてもまったく聞く耳を持ってくれない。

妻が「先生やおともだちとお別れするのさみしくないの?」と聞くと、息子は「うーん」と言葉に詰まり、じっと考えこんでから「うれしい!」と断言する。そして「もう終わりにしたーい!」と笑う。だめだこりゃ。

そんな息子だったが、いざ保育園の最後のお迎えでいつもいっしょに遊んでいたSくんとお別れする瞬間、そのちいさな腕で目元をぬぐった。「泣いてない!」と言いながら。その姿に不意をつかれたわたしは頭のなかで「きゅうりきゅうりきゅうり」と唱える。こうするとなぜか涙がひっこむのである。Sくんもさみしさをこらえるように自分のママのおっぱいをさわりつづける。こらこら。

おなじくいつもいっしょに遊んでいたTくんは息子と何度もタッチしたあとで「ぼくだけになっちゃうのかな」と首をかしげて泣きそうになる。「大丈夫だよ。みんないるよ」とわたしはなんとか声をしぼりだす。それ以上はもうなにかが噴きだしてしまいそうで言えない。でも、Tくんは泣かなかった。なにかをぐっとこらえるように保育園のなかを全速力で走りだす。

子どもたちはなんて強いのだろう。そんなことを思いながら後ろを振りむくと、いっしょにやってきた妻が号泣していた。やはり。想定内である。ズボンのうしろポケットに入っている靴下にしめしめと手をかける。「はい、ハンカチ」と渡せば「おまえの靴下やんけ」と場が和んでくれるにちがいない。そう思ってわざわざ忍ばせておいたのである。

ただ、よく見ると、これまでなんとか涙をこらえていた今の担任のN先生や前の担任のY先生までもがおもわず妻にもらい泣きしているじゃないか。きゅうりきゅうりきゅうりきゅうりきゅうり。またしても不意をつかれたわたしの頭のなかはどんどん「きゅうり」まみれになっていく。

結局、靴下は渡しそびれてしまった。ポケットのなかに靴下を残したまま、三人で保育園からの最後の帰路につく。いったい、わたしはなにをしているのだろうか。

息子よ、保育園からの卒業おめでとう。
2年間、本当におつかれさまでした。

くだらない父より。

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