タクシーがくれた青春

その昔。
終電で帰ってきて、行きつけのお店で空腹を満たし、
26時を過ぎた頃、タクシーで帰る生活を送っていた。

運転手さんに、言い慣れた自宅までの道順を伝えた後も、よく喋った。

今日は何時までの勤務か
どこに向かう予定だったのか
この後、お客さん捕まるといいですね
天気ネタ
時事ネタ
最近のタクシー業界事情

たわいもない話を、いくらでもした。
初対面の人と緊張しないで話せるスキルは、
タクシーの中で磨かれたのかもしれない。

私にとって運転手さんは、1日の終わりに会う人。
運転手さんにとって私は、1日のお客さんの内の1人。

結構な回数乗ったけど、同じ運転手さんと再会した記憶はない。
たった10分間の、一期一会。

家族でも同僚でも友達でもない、赤の他人の運転手さんと過ごした時間が、
もしかしたら本当の、素の自分だったのかもしれない。

Suicaをタッチしてレシートをもらう度、
またタクシーに乗ってしまったという罪悪感に苛まれていたけど。
今思い返せば、間違いなく、私にとって大切な時間だった。


仕事内容や、生活リズム、住所が変わって、タクシーで帰ることはなくなった。
あの10分間はもう、お金を出しても戻ってこない。

だけど、今は。
運転手さん以外の人にも、たくさん素を出せるようになった気がする。
あの頃の自分も愛おしいけど、
今の自分の方が、自信を持ってより好きだと言える。

ここまでやってこれたのは、たった10分間だけでも、
素に戻れる時間があったからかもしれない。

きっともう、再会することはないだろうけど。
ありがとう、タクシーの運転手さんたち。

#日記 #エッセイ #タクシー #青春 #自分を元気にするnote #とは

この記事が参加している募集

読んでくださりありがとうございます!