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切り取り風景物語

【あいつと俺】

今、空港に向かってる。
忘れ物をあいつに届けるために。
間に合うのはわかっているんだ。
でも気持ちだけが焦る。

 あいつとは、ついさっきまでルームシェアしていた。
 さっぱりした性格で短めの髪だったのもあって、異性として意識したことは、一度もない。
 お風呂上がりも下着でウロウロされても困ったことにはならなかった。
 おい!!下着でウロウロするなよ。俺、一応男!!
って言ったところで、

 え?なに?裸でウロウロしろってこと?それとも一応私も女として見られてるの?
って感じだった。
 それはないから。

 でしょ?
ってことで、それはもう注意しても無駄だと理解した。
 確かに履くだけでおしりの形がよくなる下着とか履いてたけど、確かにきれいなおしりではあったけど、
 へぇ〜便利だね〜
という会話で終わってしまった。彼女だったそうもいかなかっただろう。俺にとってあいつはそういう対象ではなかったのを改めて思った出来事だった。

 あいつ、料理は美味かった。
料理作るから部屋代を安くしてやった。

 え?いいの?好きなことしてさらにそんなお得にしてくれるの?最高~。
って喜んでた。
 本当になんでもリクエストすると作れたし、冷蔵庫にあるものでもどうしたらこんな食材がこんな素敵な料理に?って感じに本当に美味しかった。それが食べられなくなるのは残念だと今思う。
 それと一人で食べる飯と二人で色々話しながら食べるのとでは、感じる味も違ってたのも確かだった。
あいつとの会話も心地よいスパイスだったのは間違いない。

 恋人はお互いにいたりいなかったりなど。ここ最近恋人は作らないことにしてるって話してたな。

なんで?
って聞いたら

野暮だな。そんなこと聞くな。
って。

 どういう意味かわからない顔してたみたいで、
ま〜、色々めんどくさいから今は作らないだけ。
 モテるのはモテるけどね〜。
って。
え?誰からもてるの?
 
 不思議な顔してたみたいで、今日作ってくれた飯は強烈な激辛料理だった。
なんか怒ってたみたいだった。

 あいつはお酒は好きなようで、休みの前の日はあいつとつまみを作りながら遅くまで飲んでたな。
時々お互いの友達も誘ってみんなで雑魚寝とかもよくしたな〜。
 あいつはお酒はそんな強くないが、つまみを作るのが好きでみんなと過ごすだけで楽しそうにしていた。
 気づいたらいつも一番最初に寝てる。
 そんなあいつを部屋まで連れて行くのは俺の役割だった。

いつもいるのが当たり前だったから、今日もあいつの作ったホットサンドとコーヒーで朝食。

見送りとかしない

そんなのされても困るっ
って、笑いながら話してた。

 ちょっといつもと違ったのは美味しいコーヒーの入れ方を教えてくれたことだけだった。
 
じゃ〜行ってくるね
ってまたこの部屋に帰って来るようないつもの挨拶で出ていった。

 あいつが出ていったあと、あいつのいた部屋でぼんやりとしていたら、忘れ物に気づいた。
スマートフォン。
 忘れるか?
気づいたら届けなきゃいけないし、連絡とれないから慌てて部屋を出た。
 空港について、あいつを探した。
 すぐ見つかった。いつも見慣れた後ろ姿でわかった。
 あいつ、おしりがきれいだったから。
ちゃんと効果あるんだな〜ってしみじみ思った。

 何してんだよ。大事な物忘れてるぞ
って声かけたらら、
 
届けに来ると思ったからわざと忘れた〜
て笑ってた。
 
その笑顔はちょっと他のやつには見せたくないくらい勿体ないと思った。
 部屋空けて待ってるからと伝えた。

 わかった。
部屋に戻るときにはちょうど好みの髪の長さになってるよ。

 あいつが乗った飛行機をみながら、空を見上げた。
 いつぶりだろうか。
 こんなきれいだったかと思った。

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