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小田晃生 New Album 『いとま』全曲解説&インタビュー【vol.4】最終回

歌モノのオリジナル・アルバムとしては、6年ぶりのリリースだった前作『ほうれんそう』から、およそ1年ちょっと。小田にしては意外なスピード感で届いた新アルバム『いとま』。フォーキーでドメスティックな空気感と、練り込まれた言葉たちーーーこれまでの持ち味を存分に発揮しつつも、より深いところへ引きずり込まれるような凄みが漂う快作だった!アルバムや楽曲に込めた想いと、今ミュージシャンとして感じていること、未来のことなど、じっくりと語ってもらった。

インタビュー:皆野九

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レコーディングとアレンジの裏側 〜シンプルな作品…のはずが?


ーー曲ごとにフォーカスしたお話しを伺いました。いくつか、アルバム全体についてですが、楽器はどのくらいの種類を使用しているんでしょう?

小田:そうですねえ、どこまでを数えるかにもよってしまうので……うーん。

ーー数え方に係る楽器があるんですか?

小田:例えば「ドラム」ですね。ドラムセットとしてカウントするなら「1」なのかもしれないのですが、僕の宅録環境の都合で、ほとんどバラバラで録音しています。スネアとハイハットだけセットで録って、バスドラは足じゃなく、スタンドで立ててバチで叩いて別録りですし、シンバルも、タムっぽい音も、あとで重ねてます。シンセ音とかもそうですね。ひとつの楽器とすべきか、音色ごとで数えるべきか。

ーーそれはたしかに、だいぶ数が変わっちゃいそうですね。

小田:あとは「トラック数」でとなると、同じコーラスパートを2本重るとか、完全にコピーしたトラックを左右分けてちょこっとズラしたり、みたいなこともいろいろしてるので、うーん、すみません、単純に数えるのはちょっと難しいですね(笑)。ぜひ、皆さんの耳で数えてみて下さい。ついでに、楽器の重ねの話しをさせてもらうと、アルバムにしようと決めたときは、「ギターと歌と、ちょっとバスドラ代わりの低い太鼓の音くらいの、すごくシンプルな編成を基本につくれたら渋くていいなあ」と考えていました。結果、全然シンプルじゃなくなってしまったことで、ちょっと自分にガッカリしましたね。またいろいろ重ねちまったなあ、みたいな(笑)。

ーーそうだったんですか?跡形もない(笑)。じゃあ組み立て方としては、まずギター?

小田:そうですね。基本の伴奏楽器を何にするかだけアタリを付けて、録リ始めます。今回のアルバムはシンプル想定だったので、「フォークギター」か「ガットギター」か、くらいの判断でした。で、メインボーカルですね。これは、楽器足してから結局やり直した曲も多いですけど。

ーーそこに楽器を足してアレンジを固めていく感じですか?

小田:そうですね。今回は先にバスドラ代わりのパーカションを入れていきました。あとは必要だと思う楽器を足していきます。まあ、やっぱりリズム系が先かな。

ーーさっき、ドラムをバラバラに録ったとおっしゃってましたけど、打ち込みにも近いプロセスですね。

小田:そうですね、そう思います。一応、曲に合わせて生音を生身で叩いてるので、打ち込みとは違いますけど、編集段階で打ち込みっぽく整頓したりもしてます。「しゃっくり!」は、録音したものをトラックっぽく組み立ててたりとか。一部分だけ差し替えとかもできるし、ひとりでいろいろ試すには都合が良いですからね。

ーーどおりで全体的に手数が少ないなと思いました。

小田:ほんとはフィジカルなドラム、大好きなんですけどね。ドラムってすごい一杯マイク立てますよね。僕の持ってる機材だと2本しかいっぺんに録れないし、録音ミックス技術もそこまでスキル持ってないし、何より、テイクに自信が無い(笑)。出したいリズムに最小限必要な音だけ重ねました。で、そう言えば、全体的にこだわってみたのが、「シンバルに頼りすぎない」ということでした。

ーーあ、それも思いました。あまりシンバル聞こえてこないですよね?

小田:使ってる曲もあるんですけどね。最後の最後に判断することにして、なるべく抑えました。シンバルって、僕はセットだとすぐ叩いちゃうんですけど、乱発するとなんとなく強引に曲展開を前に押し進めちゃう感じがするよな、と思って、ここ数年、いかに減らすか研究中です。あと、シンバル的な機能を他の楽器に担ってもらうとか、重ねがうまくいくと楽しいですね。ドラムをセットじゃなく、分けて録音してると、「機能」で考えるようになってきたのが面白いなって思いますね。人間が欲しくなるパーカッションの「音要素」といいますか。同時に、ドラムセットってその「機能」の集合体なのが面白いな~、とも思います。

ーー音を重ねるとき、「この音要素を入れてみよう」というのは、どんな発想で思い付くんでしょうか?

小田:全部は当てはめられないですけど、反対の要素と感じるものをぶつけてみて、ハマったときは嬉しいですね。優しい雰囲気に激しい音とか、滑稽さにクールさとか。

ーー「灰色」のチャカポコした雰囲気に、ガンと入ってくるディストーションギターとか、良いですよね。

小田:ありがとうございます。僕もお気に入りです。あとは「しゃっくり!」みたいなテーマの朴訥さに対して曲調をカッコいい方向に持っていってみる、とかも同じような趣味です。「引っ張り合ってるもの」って、好きなんですよね。エネルギーが生まれる気がして。映画でもそうですけど。緊張感とか悲しさとか、可笑しさとか。「引っ張り合ってるもの」は僕の中で一番センスの良い表現だと思うので、他で良いものを観たり聴いたりすると感動しながら嫉妬します(笑)。

ーーそのお話しを踏まえて、過去作を聴き返してみると「お!」と気が付く部分出てきそうだなと思いました。

小田:ぜひとも!ずっと意識はしてるので、そうだといいなと思います。結果的にストレートな感情に寄り添う方法を選んだものもありますけど、センス良く引っ張り合いてえもんだなあ、と、いつも目論んでいます。

ーーちなみに、すんなりアレンジが決まった曲と、逆に最後まで迷った曲はどれでしたか?

小田:すんなりできたのは、「灰色」と「名無し」ですね。あとはほとんど苦心してつくりました(笑)。 特に手間がかかったのは、最初にお話した「そしれ」と、テイクに苦労したのは「本になる人」ですね。

ーーたしかに小田さんの作品の中でも「大作」な部類というか、なんとなく大変そうな気がしますね。ちなみに、どんな部分で苦労されたんでしょう?

小田:まず、これも当初は「シンプルに!」というのを念頭に置いてたので(笑)。ギターと歌で成立させたかったんですけど、後半の大きな曲の展開を力任せに弾いたギターと歌で演出すると、なんだかヒステリックな感じがしてしまいました。なので、別の方法で盛り上げようかなと。歌とギターと、あとは何がどこに入るのが適切かを探るために、ほんとにいろいろ試しましたね。

ーー最後に入ってくるシンプルなトーンチャイムが天才的だなと思いました。

小田:天才(笑)。勿体ないお言葉ありがとうございます。トーンチャイムという楽器が好きなのもあって、始めはもっと一杯入れてたのですけど、削って削って、結果これだけ残しました。他にも、エレキギター入れてみたり、ベースとか、バンジョーとか、2本目のアコギとか、オーケストラみたいな打ち込み音源とか、物凄いテイクを試しては捨てて、打ち込み音源のピアノをギターと寄り添った進行役にするアレンジに落ち着きました。でも、僕はピアノという楽器の「ルール」が分からないので、どんな音をどのタイミングで入れるといいのかを探る時間も随分かかりましたね。抜き差しと、音階選びはミックスしながらもどんどん修正してました。

ーー「ルールが分からない楽器」というお話しは興味深いですね。セオリー的なことですか?

小田:そうですね、いや、在って無いようなものなのかもしれないし、僕が勝手にそう感じちゃってるだけだとは思うんですけどね。それで言うとベースもまだまだちっとも分からないですけど、役割がはっきりしてる気がするので。逆にピアノは何でもできる印象があるから、誰かに弾いてもらうときも指示が難しいなって思います。『発明』(2008年)の録音のときに鍵盤をお願いした野村卓史くんにも、アレンジについてはかなり丸投げしてしまってた気がします。なので、この曲のピアノは、弾く人から聴いてどうなのかは気になるけど、怖くて、見なかったことにしました(笑)。

苦労で言うと、この曲はさらにエピソードありまして…。自分の曲ながら歌が難しくって、結構頑張って録ったんですけど、どうもミックスしてみると、なんかえらい音痴に聴こえるんですよ。で、なんだろなんだろって、よくよくチェックしてみたら、最初に録ったギターがほんのすこーしだけチューニングのピッチが低かったと判明しまして……。

ーーえ……(笑)。そうなると、どのくらい作業を遡るんですか?

小田:本来だと、かなり。まず歌とコーラスはギターに音程を引っ張られてるので録り直し。あとは、テンポが決まってて、ガイドのクリック音に合わせて録ってればそこまで問題無いんですけど、この曲はガイド無しでギター弾いたので、そうなるとリズムは自然と揺れてて、他の楽器もそれに合わせて重ねちゃってるから、土台を差し替えるのが難しくなっちゃうんです。だけど「とりあえずダメ元で!」と思って、ギターの差し替え録音にチャレンジしてみたら、意外といけちゃったんです(笑)。自然な感じで。

ーーそれは幸いでしたね。

小田:昔ならたぶん無理だったんですけどね。自分のリズムの「揺れ感」にも、その場限りじゃない一定の何かが生まれだしてるのかもしれないです。でも、ピッチの低いボツテイクのギターを片耳で聴きながらそれに合わせてチューニング直したギターを弾くのは、なかなか気持ち悪かったです(笑)。苦労という点では、この「本になる人」が一番かもですね。アレンジの紆余曲折と、そのギターのチューニングの凡ミスによる立て直しと、歌も相当テイクかかったかなと。大変だったぶん、向き合った曲でもあるので、お気に入りですね。

ーーアルバム全体でのお気に入りもこの「本になる人」ですか?

小田:歌うのが楽しいのは「名無し」ですね。スルッと自然に書けて、スルッと自然にアレンジが定まって録れたので、たぶん僕にとって「無理のない」曲なのかなと。「本になる人」は好きですけど、万人向けじゃない気がしてて(笑)。ライヴでやるかは迷っちゃいます。

ーー楽曲としても、この「名無し」からでき上がっていった感じですか?

小田:たぶん……そうだったかなあ、と。でも僕は、1曲1曲仕上げてくというより、いくつかの歌詞を同時に進めて書いてましたね。気分で書き始めて、アイディアが止まったら、別のテキストファイルを開いて、みたいな。何年も前に書きかけて寝かせてたアイディアの原型を掘り起こして、今現在の気持ちでつくり直したものもあります。メロディにしていくときも、一気にガッとつくれることはあんまり無いですね。だから、はっきりした順番は分からなくなっちゃいました。

ーー割と気持ちを切り替えながら、気軽につくるスタンスなんですね。

小田:ですけど、「最後の1行が!」とかになったときは、ずっとそのこと考えちゃいますけどね。でき上がってくればくるほど、切り替え先はどんどんと失くなっていくので。

ーーあ、「つくる」ですね。

小田:そうですね(笑)。「つくる」ができたのは、きっと順番真ん中へんか、最後らへんですね。




次回作とこれからの展望 〜やりたいこと、できること、すべきこと


――さっき「これからは、どんどんつくる」とおっしゃってましたが、もうすでに次回作についても考えてるんでしょうか?

小田:やりたいこと、ありますよー。5つくらいアイディアあります。

――これまでのリリースのペースを思うと、驚きですね!

小田:僕もそう思います(笑)。配信で音源出せるのは、すごく腰が軽いです。CDつくるのはハイリスクでしたからね。

――配信のみに振り切ったのは、やはり予算の問題が大きいですか?

小田:そうですね。後ろ盾がないので、毎回家族を巻き込むギャンブルになっちゃうし。在庫抱えるのも怖い。あと、つくったらつくったで、今度はそれを売るために、「お祭り化」しなくちゃいけなくなっちゃうのに心が疲れちゃう、っていうのもありました。
レコ発とかツアーとかライヴ自体は楽しいんですけど、それに伴って事務的なことも増えますし、お客さんが入るという確証もない。そのほかプロモーションするにもいろんな経費がかかるので、ソロでも、バンドでも、やっぱりそこがいちばんしんどいところです。

――やりたいことの為にやらなくちゃいけないことが雪だるま式に膨れ上がってしまう、という感じですね。

小田:きっと、やってることがうまくいってたらもっと楽しいし、売れる見込みが立ってれば強気で予算使ったり企画も打てるんでしょうけどね。やっぱりソロではそう易々とはCDでの音源制作に踏み出せませんでしたね。何年か掛けて、徐々に自分にフィットする方法を探ってましたけど、サブスクのハードルがだいぶ低くなってきた今なので、『ほうれんそう』(2020年)を配信に振り切って出しちゃえたのはすごーく気が楽になりました。これならいろんなこと出来そうだなと感じてます。

――「CDが欲しい」という意見もありますか?

小田:ちょくちょくそう言ってもらいます。すごくありがたいですけど、残念ながら、僕の状況じゃまだ無理なので……。でも、長い目で見て、音源を出せてるほうが絶対メリットあると思うので、すみませんが次も配信だけの予定です。

――メジャーレーベルでも、徐々にCDリリースしないアーティストがでてきてますね。

小田:そうみたいですね。いよいよそうなってきましたね。

――ちなみにですけど、小田さんは「メジャーデビュー」とか、ご興味は無いんでしょうか?

小田:メジャーレーベルと契約とかは、もうあんまり考えないですね。少なくともソロは向いてない気がします。でも、インディーレーベルに所属するのとかは、ほんとは興味ありますね。レーベルメイトとか、シーンがある場所がうらやましい。混ざれたらなって妄想することはあります。

――妄想まででいいんですか?(笑)。

小田:うーん、すごいうらやましいんですけど、今更受け入れてくれるような、相思相愛になれるレーベルがあるかな?って、ちょっと弱気にはなりますね。あと、長期的に見て、リリースした作品がそこまで売れなくなったときに廃盤になっちゃうとか、いろいろと難しい体験もあったので、慎重になっちゃう気持ちはあります。とりあえず、「孤高のシンガーソングライター」とか紹介されだしたらマズイなと思ってます。違うよ!って(笑)。

――もうそう思われてるかもしれませんよ(笑)。

小田:マズイですね。どんどん孤立しちゃう。とりあえず、メジャーとインディーの違いもだんだん瓦解してきてる感じしますけど、メジャーでやるとなると「音楽以外のポップさ」も持ち合わせてないといけないだろうし、どっちかというとインディーのチームプレイっぽいほうが楽しそうだなという気がします。語れるほど「レーベル」というものを知らないから、勝手な想像ですが。

――出会い方次第かもしれませんね。

小田:そうですね。なんかちょっとだけ、「結婚する or しないか」、みたいな話しですね(笑)。今のところ、地道に無所属で次回作も頑張る所存です。でも、いつかもっとファンが増えて、ニーズも高められたら、とっておきのフィジカル盤も出したいです。これも、さっきお話した「やりたいこと」のうちの一つです。

――今やCDやレコード、カセットテープなど、グッズ的な立場で出される感じもあるので、モノとしての魅力を追求するのは良さそうですね。

小田:ですよね。もうそのときは予算とか、原価とか、後先考えない感じでつくってみたいもんですね(笑)。でも、まだ無理です。4年後目指したいです。

――4年後は、「20周年」ってことですか?

小田:10周年も15周年も逃してるんで、20周年はそろそろ何かしたいですね。気持ちはあるので、それを目標にいろいろと積み重ねられたらと思ってます。

――「積み重ね」と言えばですけど、毎晩インスタライヴでやってらっしゃる「よるのおつとめ」も、積み重なってきましたね。1年超えましたね。

小田:はい、やりましたねー。お休みも少しありましたけど、300日以上はやってるのかと思うと、結構な回数だなと。でも「これは家事の一環なんだ」っていうレベルまで落とし込みたいと思ってたので、だいぶいい感じでルーティンになってます。

――企画タイトルの「よるのおつとめ」の由来も、ご実家の寺の習慣が元ですよね。

小田:毎朝、本堂でお経を読む「朝のおつとめ」っていう短い朝練みたいなのがあって、僕も中学生くらいのときは祖父とやってました。

――まさに音楽家バージョンの「おつとめ」ですね。「面倒くさいな」とか、「今日嫌だな」とか、そういう日は無いんですか?(笑)。

小田:うーん、ありますよ(笑)。めちゃくちゃ眠い日もあるし、ちょっとお酒飲んじゃったときとか「もう歌いたくねえ~」って思っちゃいます。でも、この1年はグッとこらえてがんばってみました。配信にしてるのも大きいですね。淡々としてて、エンタメ度はかなり下げてしまってるのに、それでも毎晩、数名でも付き合ってくれる人がいてくれるのはすごく支えになってます。あとは、なんでしょうね、そもそも決まったことを続けるのはわりと得意な方ではあるかもしれません。

――モチベーションの保ち方に秘訣があるんでしょうか?

小田:僕は自分が「つまらない人間だなー」と思うのが、なんでもかんでも「自分サイズ」に落とし込もうとするクセがあって、奥さんにもよく「やることがちっちゃいな!」とか言われるんですけど(笑)。そのぶん、続けられる状態にさえ出来れば、続けちゃいますね。モチベーションはすごく大事ですけど、あんまりなんでもモチベーションを理由にし過ぎるのはカッコ悪い気がしてるのもあります。だったら「やる!」って言っちゃダメじゃないかと思っちゃう。逆に言えば、「やれなそうなことはやらない」という思考にもなっちゃうので、COINNとかロバート・バーローでも、足を引っ張ったような意見を出しがちなところもあります。

――「慎重」とも言えるかもしれませんけどね。でも実行力と持続力は、意外と別物ですもんね。

小田:ですねえ。なので、モチベーションは「保つ」というより、ちょくちょく使い果たすけど、続けてるうちにまた「貯まる」と信じてる、感じでしょうか。「よるのおつとめ」は、今後もなるべく続けますけど、「自分の為にならないな」と思ったときに辞めるかもしれませんね。他に優先すべきこととか。まあ、ライヴもリハもほとんど無い生活だから、アルバムつくってても毎晩出来ちゃいましたけど、今後もしいろいろと慌ただしくなってからだと、こんなにリズムよくは無理になるかもしれないですからね。

――ちなみに次回作も、今回のようなホームレコーディング主体の作品の予定ですか?

小田:そうですね。さっきお話ししたような色んなことを試しながらの制作は、スタジオ借りたりエンジニアさん付けたりするのはゴージャス過ぎて無理なので、自宅は心も楽です。最後まで自分の面倒に付き合えるのは自分だけだと思うので。ただ、家族の協力の元に成り立ってるので、相談しつつですね。あと季節ごとの鳥、虫、動物、郵便に宅急便などなど、いろいろとかいくぐりながらながら録ってます。

――ライヴがあまり無い中で、リリースで初めて新曲を披露することが増えたかと思いますが、つくり方としてはどうですか?

小田:今回は確かに、ほとんどライヴで聴いてもらわないまま直で音源化に向かったので、それぞれの曲が「良い曲」かどうかにけっこう不安もありました。内容がこれまでになく内向きだったりもして。
ただ、ソロに関しては「自分が描きたいと思えたものはつくろう」と思ってるので、ライヴでの披露がなくてもあまり変わらないです。人前に出すのをためらうほどに自信の無いものは、どこかにちゃんと問題があると思うので出さないけど、自分の中での「ゴー」が出せるものは、出してみないと分からないなと思います。これまでもそうでした。

――これまでにもリスナーの反応が意外だった曲はありますか?

小田:例えば、「コンティニュー」や「夜道」は、僕の中では「ゴー」って思ってはいましたけど、想像以上に好きになってくれる人が多くて、「あ、これ良い曲だったんだ」って、出してみて分かりました。

――それは意外ですね。今やライヴの定番曲ですもんね。

小田:「ほうれんそう」も、リリース前の試聴アンケートで評判が良かったのは意外でした。今回で言うと「魔法使い」ですね。自分の作品の中で何が「名刺」になっていくか、いつも分からないなと。僕はホントに見る目が無いなと思わされますね。

――でも、つくり手と受け手で感じ方が違うのはおもしろいですね。

小田:客観視ってのは、ホントに難しいなあと。なので、事前試聴会企画は、作品ごとに今後もやりたいです。それと僕のライヴは弾き語りが多いので、曲によってはそれだけじゃ足りてなくて、アンサンブルを脳内補完して聴いてもらわなくちゃいけない曲もある気がしてます。そういう意味でも、先に音源に触れてもらえてるほうが良い気もします。



ファンへの感謝とお願い ~音楽が「語られる」ことの大切さ


――小田さんのファンの皆さんへ伝えたいことや、お願いしたことはありますか?

小田:まずは応援に感謝したいです。いっぱいある音楽の中から僕を選んで聴いていただき、ありがとうございます。そして、さっきも話しに出た通り、これを読んでくれてる方は、僕や作品に「一歩踏み込んで」興味を持ってくださっているということだと思います。それがうれしいです。ぜひもう一度「いとま」を聴いてもらえると、新しい発見や楽しみ方が増えてるんじゃないかなと思います。これからもご愛聴よろしくお願いします。

「お願い」については、ご無理のない範疇で作品や僕の活動の「口コミ」に繋がるようなことをしてもらえると嬉しいです。宣伝ツイートのRT、作品のシェア、ご家族やご友人へオススメなど、すごく助かります。あと、もしもこの『いとま』という作品に向き合っていただけるなら、レビュー文の投稿などもありがたいです。

ーーミュージシャンや創作する人には、心の栄養ですよね。

小田:すごく大事だと思います。個人的に、この歳になって、「誰にも何も言ってもらえなくなるのが一番怖いな」と思うようになったのと、やっぱりシンプルにうれしいです。
あとは、作品が生き残るために最も大事なことが、「語ってもらえる」ことだと思うんです。いくら作者発信で訴えても、結局響かない人には響かないけど、友達とか信頼してる詳しい人とかが一言薦めるだけで「じゃあ試してみるか」って思えることありますもんね。

ーーそうですよね。「あの人が言うなら」みたいなこと、どんなジャンルでもよくあります。

小田:映画でも、すごい予算かけた立派な広告見ても、興味の扉を開くのは結局は身近な映画仲間だったりしますからね。なので、音楽を言語化するって難しいし照れくさいかもしれませんけど、自分なりの言葉でいいので、感じたことを外に出してみて欲しいですね。「レビュー」も聴き手とつくり手を育てる文化の一部じゃないかな、とも思います。特にインディーの音楽には、なかなか評価してもらう場が少ないので。

――「言語化」ってなかなかエネルギーがいるものですよね。ハードルを感じる方もいらっしゃるかと思いますけど、確かに、映画とか書籍の世界ではレビュー文化が豊かですよね。

小田:たしかに、アルバムを作品として書くってハードルでしょうけど、「1曲単位」でも充分と思います。
書籍の世界はあまり詳しくないですけど、映画だと、「肯定派」と「否定派」が両方いるのが当たり前なレベルになってるのが、なんかうらやましいですね。感じ方やその理由が個々の立場や経験で違うこと自体を楽しむエンタメになってるんだと思います。
音楽もそうなればいいのになあ、と。作者を傷つける目的じゃ無ければ、ネガティブな意見もあってもいいし、自然なことだと思いますし。

――否定的は評価を気にしたり、落ち込んだりはしなそうですか?

小田:いや、酷評されたら「ガクッ」とくるでしょうね(笑)。だけど、本気で相手にしてもらえるならその方が嬉しいと思ってます。それらが積み重なることで、作品は一瞬のものじゃなく、価値が「育つ」ものなんじゃないか、とも思います。そんなチャンスが僕は欲しいです。マイナーな作品は、たった数ヶ月で語られる場を失っちゃいますからね。

――「本になる人」に通じるお話しでもありますね。「ほうれんそう」にも連なるような。

小田:ホントそうですね。あんまり言ってる人がいない気がするので他のミュージシャンの気持ちはわからないですけど、僕は反応とか評価がすごく求めてる人です。こんな気持ち、面倒くさがられそうだし、表に出すのはカッコ良くはないかもしれないけど、そこの大事さも込みで伝えられてるといいなと思います。

ーー同時に、ここまでの2作で、小田さんの暮らしや音楽へのスタンスなど、「リアルな現状」そのものを伝えるような作品にもなっていると感じます。知れば知るほど、良い意味で受け取り方に影響が出そうですね。

小田:そうなっていると、とてもうれしいです。僕はなんだか「なんの心配もいらない生活を送ってる」ように見られがちなんですよね。これは僕の普段の発信の仕方のせいもありますし、田舎暮らしとか、家族の様子とか、いろんな理由もあるんでしょうけど、一度思い込まれると言葉が届かなくなるというか。つくるもの全て「牧歌的」とか、とりあえず心地よいもの程度に受け取られちゃう。これがどうも苦しかったですね。

ーー聴いてるようで聴いてないような状態ですね……正直、それは自分もよくあるかもしれません。

小田:僕もあると思います(笑)。もちろん、しょうがない部分はあると思います。だから僕のほうで、もっと不安や弱さを直接的に、だけど「表現」として出すことを意識した2作でした。自分のキャリアにも、生活にも心配だらけだし、焦りとか、嫉妬とか、悔しさとか、僕の中身はそんなものばかりでムギューと潰れてしまいそうになるけど、それをかたちに残せたので、次やりたいことに向かえる気持ちです。

ーーいろいろ踏まえて、すごく突飛な質問かもしれませんが、小田さんは今、「幸せ」ですか?

小田:うーん……。そうですね、音楽とか仕事に関しては「不幸せ」ですね。まだまだヤバいし、このままじゃ未来がないと思ってます。少なくとも、今この日本で暮らしていくための基準に、自分はまだ達せれてないんだなと思わされることもあるし、それは金銭的なことでもあるし、心の問題でもありますね。だけど、子どもとか奥さんと話してるとき「楽しいな、幸せだな」って感じる自分はウソじゃなくて、それはそれで「幸せ」で良い気がします。つまりは、どっちでしょうね……。変なお返事になっちゃいますけど、まぜこぜにしてしまわないほうがいいこともあるのかなあ、と思いますね。

――なるほど。いや、すみません、こちらも変な質問でした。幸も不幸も、どっちも認めながら立ち向かうような姿勢という感じがしますね。

小田:ありがとうございます。音楽について「不幸せ」って言っちゃいましたけど、あくまで「現状に満足は出来ないぞ」ということですね。多くはなくても、せっかく曲や自分を「いいね!」って言ってくれる人がいてくれるんだから、「作品や自分自身の生き方がまるっきりダメで、だから売れない」とは思わず生きていきたいし、信じられることを磨き続けたい。だけど、はっきり「今より良くなりたい」と思います。その先で、自分を超えて返せるものや、残せるものに、辿り着きたいですね。


〈終わり〉
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小田晃生「いとま」
2022/04/14
TORCH-007

《収録曲》
1. そしれ
2. つくる
3. 灰色
4. 名無し
5. しゃっくり!
6. 魔法使い
7. 本になる人
8. そしれ

カバーアートデザイン:木下ようすけ
歌詞英訳協力:Fumiko

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