ソリシチュ映画への興味と警戒

スペイン映画「プラットフォーム」がスゴく面白いんです。
そんな話題をウチの奥さんとのポッドキャストでしていたら、「あ、自分、久しぶりに“ソリッド・シチュエーション・スリラー”って言ったな。」と気が付いた。奥さんとの会話でこのキーワードを言ったのは初めてかもしれない。いつかハヤクチコトバにしてやろうと思ってた。

思えば、このタイプの映画に向き合うのがちょっと久々だったような気がする。ソリッド・シチュエーション・スリラーとは...
【ある固定的な状況に置かれた登場人物達が、怖い思いをしながら謎を解いたりその状況からの脱出を目指す作品】
...と、大体こんな特徴のものをそう呼ぶかと思います。僕は昔からなんだかんだ気になって観てしまうホラーやサスペンスの中の小ジャンル。でも鑑賞してみると、かなり大きくガッカリするものも多い。それはなぜだろうか?と、以前少し考えてみたことがありました。

このジャンル、いかに主人公達がおかしな状況に陥っているかがキモになるからか、『舞台設定の奇抜さ』が一番の売りになる作品が多い傾向があるなと僕は思うのです。もちろん宣伝で興味を引くのは大事でしょう。だからこそ、なんだかんだ気になって観てしまう。
だけど、たぶん「ソウ」以降くらいから、そのことが目的化してしまい奇抜な舞台設定合戦みたいな感じもあった気もするのです。
『主人公が目覚めるとそこは〇〇... 手には〇〇... ルールは〇〇... 果たして〇〇出来るのか?!』
なんだかんだ気になるヤツだ!と、ワクワクDVDを借りてくる。いざ鑑賞してみるとドラマの中身が希薄だったり、出だしのアタックが強すぎて尻すぼみな結末になったり。
映画でハズレがあるのは当たり前だし、それもまた面白さなのでそれは全然構わない。のだけど、お金もかかっているわけだしむざむざ失敗しそうな方針で選びたいとは流石に思わない。故に、ある時期からパッケージに「ソリッド・シチュエーション・スリラー」という売り文句を見付けると、なんだかなあ...と、すっかり信用出来なくなり、警戒するようになったのです。

しかし性分は簡単に変えられない。警戒しつつも、新作情報が入ってくるとやはりつい気になってしまう。
スペイン映画「プラットフォーム」も、実に奇抜な舞台立て。

階層に分かれた“穴”のあいた建物
各階層には二人
食事は降りてくるプラットフォームがある間だけ
何でも1つだけ持ち込める

...これは果たして奇抜な舞台設定合戦の続きなのだろうか...?しかし今やサブスク。NETFLIXです。DVDの頃のように慎重になりすぎず、思い切りよくトライ出来るのは贅沢だなと思います。

ところが、これが深い深いっ!ジャンル映画の期待にも応えながら、ただの怖いもの見たさショーに留まらず、食料を巡る過酷な社会構造をとてもわかりやすく落とし込んで伝えようとする為の舞台設定になっているのです。そのバランス感覚と随所に感じる工夫。なんという離れ業だろう!僕がすっかり信用出来なくなってしまっていたソリシチュの世界が、こんなに躍進しているっ!!!と、大きく感動したのです。

後半、僕はポン・ジュノ監督「スノーピアサー」を彷彿としました。「スノーピアサー」も好きなのだけど、僕がこの作品で一番胸が熱くなったのは、底辺の人間が下剋上していく直線的な戦いの話にならず、革命のために自分より低い階層を説き伏せ、場合によっては力でねじ伏せなくては救いと訴えを届けられない!という展開。ほんとにほんとにこれが現実なのだろうなと思う。主人公ゴレンが、壮絶な体験と出会う人々との会話の向こうで、それらを解釈して、彼なりの非常に勇敢は決断に至るラストはちょっと泣ける。

人は簡単に疑心暗鬼になるし、視野が狭くなるし、現状にしがみつこうともする。自分を正当化してしまう。さあ、今の自分はどうだろうか。ちゃんと誰かの話しを聞けてるだろうか。とても他人事には思えないところがとってもスリラー。
そして、強烈な社会勉強映画だなと。ドキュメンタリーも大事なジャンルだけど、フィクションかつスリラーだからこそ響く部分がある気がしました。この映画を子どもに直接見せるのはまだ憚られるけど(R15指定だし)、構造だけを抜き出してみれば、学校の授業とかにも出来る気がする。立場を変えながらどんな気持ちになるか、どうすれば問題が解決に近づくか、考えてみる為のツールになりそう。
それか、ボードゲームとかすごく向いてそうな気がするな!

ちなみに、その他にオススメのソリシチュ映画では、スキー場のリフト上に取り残される「フローズン」が心底恐ろしく、もう二度と観たくない。
あと、変わってるけど個人的にものすごく好きな「ジェラルドのゲーム」は、ベッドに手錠でさあ大変。
「プラットフォーム」とも併せて、ぜひぜひ観てみてください。


大人になってから観た「ホーム・アローン」は、泥棒側の視点で観ると、めちゃくちゃ恐ろしいトラップだらけで、やってることは、ほぼ「ソウ」だった。



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