見出し画像

【ネタバレなし】2023本屋大賞ノミネート作全部読んだ【感想】

こんにちは!

今年も読書好きの祭典、本屋大賞の時期がやってまいりました。
私も本好きの血が騒ぎまして、全作買って読みましたので感想などまとめていきたいと思います!ネタバレはせずに書いていくので、どれを読もうか迷っている方の参考にもなれば嬉しいな〜と思います。
結論から言ってしまうと全部面白かったです。レベル高い!それでいて全部の面白さの方向性が違うので、大賞の予想が難しいですね……

これはちょっと余談ですが、本屋大賞ってどうやって選考されてるかご存知ですか?
本屋大賞はその名の通り、書店員さんの投票のみで決定する賞です。全国の書店員さんが1年間のうち「これは売りたい!」と思った本に投票することでノミネート作品が決まり、さらにそれを全部読んだうえでの二次投票を受けて大賞作品が決定します。
これって即ち、新刊で売り出される小説に目を通し、かつ期間内にノミネート作を全部読む書店員さんが全国にたくさんいるから成り立っているということですよね。本って1冊読み切るだけでもそこそこの時間はかかりますし、ハードカバーの小説は値段だって張ります。それでも出版業界を盛り上げたい!という熱意と愛があるからこそ、毎年本屋大賞が成り立っていると思うと感慨深いものがありませんか……?
大好きな出版業界が少しでも潤ってくれたら私は嬉しい……そう思いつつ私は今日も本屋を徘徊する……

閑話休題!
さっそく各作品の話をしましょう!

結城真一郎「#真相をお話しします」

子供が四人しかいない島で、僕らは「YouTuber」になることにした。でも、ある事件を境に島のひとたちがよそよそしくなっていって……(「#拡散希望」)。日本の〈いま〉とミステリが禁断の融合! 緻密で大胆な構成と容赦ない「どんでん返し」の波状攻撃に瞠目せよ。日本推理作家協会賞受賞作を含む、痺れる五篇。

これ、売り出された時点でめちゃ推されてましたよね。本屋徘徊してるとだいたい目につく場所に平積みされてたので気になってました。
今回のノミネート作の中では薄めかつ短編集なので、普段読書慣れしていない人が手に取るならまずはこれがオススメかも。

んでこの作品、「どんでん返し」が一番に売り出されてる印象だったのですが、正直ミステリー好きの方であれば「やられた!!!!!!!!!!」とまではいかないんじゃないかな……
や、これが面白くないとか意外性がないとかそういう訳じゃ全くないんです。どの作品も綺麗にオチが回収されるし驚きもある。これは単純に今までインパクトの強すぎるミステリーたちを読んできてしまった個人的な弊害……ミステリー慣れしてない方であれば素直に驚いて楽しめると思います……

個人的にどんでん返し以上にこの作品を特徴づけていると思ったのは、テーマの時代性。
扱う題材がYouTubeやリモート飲み、マッチングアプリなどリアルタイム性があるものばかりなので、古くならないうちに読めてよかったです。今の時代に読むからこそ、もしかすると現実世界でこんなことが起こってるんじゃないか?という感覚を味わえるんだと思います。そういう意味で、是非題材自体が古くならないうちに読んでいただきたい作品ですね!

凪良ゆう「汝、星のごとく」

ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。

風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。
ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。

すっかり本屋大賞の常連作家となった凪良ゆう先生。「最高傑作」の名に相応しい、切なく苦しくも美しい物語でした。一気読み。

『流浪の月』も読了済みなのですが、『汝』にも共通しているのが「"理解ある人たち"が本当は何も理解していない故の苦しみ」「ふつうから逸れて生きることの難しさ」だと思います。
少し他の人とは違う生き方をしていると勝手に憶測で語られてしまったり、決めつけられてしまったり。そんな葛藤を描くのがとてもお上手だな……と思います。

この作品は、『流浪の月』に比べるとストーリー自体はより劇的です。『流浪の月』がもどかしくも静かに進行していく物語だったのに対し、こちらは主人公2人の境遇もどんどん変わっていくし、大きな出来事もたくさん起こります。根底に流れるものは変わっていないけど、よりドラマチックな小説に仕上がっているな〜という印象。
主人公2人が色々なものに悩みもがきながら生きる様は、切ないというよりもはや読んでいて苦しかった。そんな中で、自分自身の幸せ、本当に望むものは何か、彼らが出す答えを是非見届けてもらいたいなと思います。読み終わった後、人生を一周終えてしまったような満足感がもたらされました。
恋愛小説ではあるけど、これは壮大なヒューマンドラマ。あと情景描写がとにかく綺麗……


夕木春央「方舟」

大学時代の友達と従兄と一緒に山奥の地下建築を訪れた柊一は、偶然出会った三人家族とともに地下建築の中で夜を越すことになった。
翌日の明け方、地震が発生し、扉が岩でふさがれた。さらに地盤に異変が起き、水が流入しはじめた。いずれ地下建築は水没する。
そんな矢先に殺人が起こった。
だれか一人を犠牲にすれば脱出できる。生贄には、その犯人がなるべきだ。ーー犯人以外の全員が、そう思った。
タイムリミットまでおよそ1週間。それまでに、僕らは殺人犯を見つけなければならない。

これも2022年の超が付く話題作ですね。読書垢界隈のザワつきっぷりが半端なかったのが記憶に新しい。乗るしかない、このビッグウェーブに……と思い、すぐに買って読みました。

この作品に関してはとにかくトリック!ラストの衝撃!に全振りしているので、文章自体は淡々としているな〜という印象です。次々と密閉空間で殺人事件が起こる緊迫した状況なんだけど、それを綴る文章がかなり客観的なので、読んでいる感覚としては割と冷静でした。エピローグまでは。

正直この手の作品は内容に触れる話が何一つできないのであまり語ることもないのですが、とりあえずネタバレを喰らう前に気になるなら読め!!!!!!!とだけでも言っておきます。ミステリーに大事なのはとにかくトリックと驚きだ、トリックこそが全てだという方にはまず間違いなくオススメできる作品です。迂闊に検索するとネタバレを踏んでしまうかもしれないので気をつけて……黙ってとりあえず読んでくれ。未読でしか味わえない衝撃を逃さないでくれよな……

一穂ミチ「光のとこにいてね」

古びた団地の片隅で、彼女と出会った。彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。
彼女に惹かれたその日から、残酷な現実も平気だと思えた。ずっと一緒にはいられないと分かっていながら、一瞬の幸せが、永遠となることを祈った。
どうして彼女しかダメなんだろう。どうして彼女とじゃないと、私は幸せじゃないんだろう……。

――二人が出会った、たった一つの運命
切なくも美しい、四半世紀の物語――

去年の「スモールワールズ」に引き続きノミネートの一穂ミチさん。いや、この作品も本当良かったなあ…… せつなくて儚いんだけど、何よりも優しい物語。

帯やあらすじを見る限りだと、女性同士の恋愛を描いた作品のように思われるかもしれません。でも、この2人の関係って友情とも恋愛とも形容できないと思うんですよね。ただただひたすらに相手のことをかけがえなく思う気持ち。家族愛とも恋人同士の愛とも違うけれど、紛れもなく純度の高い愛、だと思わされます。

個人的に素晴らしいと思ったのはやっぱりタイトル。いやいや、秀逸すぎるよ……!
序盤から幼い頃の何気ない言葉として登場するのですが、最終的に違った本当の意味が重ねられたとき、あまりの切なさと美しさに胸がいっぱいになりました。生きるのに正解なんてないけれど、どうか歩き出した彼らの人生が幸せなものでありますようにと願わずにはいられない。派手じゃないんだけど、大切なものを手渡されるような、胸に小さな灯りをともされるような感覚がある作品です。


呉勝浩「爆弾」 

些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。

あらすじからしてとんでもなく魅力的なこの作品。結構なボリュームがあるんだけど、面白すぎて一気読みでした。翌日朝から予定あるのに止められなくて、睡眠時間を削ってまで読んでしまいました。

この作品はミステリーなので、事件の謎解きはもちろんなされます。ただそれ以上に、リアルタイムで進行する爆破事件の展開と、取調室での手に汗握る攻防戦がとんでもないエンタメ性を備えているのがこの作品の魅力だと思います。終始ハラハラドキドキしっぱなし。なんかよくわからん脳汁が出てるのを読みながら感じてました。こりゃ途中で止めることなんてできないですよ……

個人的に好きだったポイントが、個性あふれる警察たちの描かれ方。容疑者・スズキタゴサクの巧みな話術に引けを取らない頭脳派刑事に、若くて熱くてかつ危うさを感じさせる若手警官。事件に向き合う彼ら一人一人の血の通った姿にグイグイ引き込まれました。
この作品に関しては一気読み必至なので、まとまった時間がある時に読んでほしいな〜〜!


青山美智子「月の立つ林で」

長年勤めた病院を辞めた元看護師、売れないながらも夢を諦めきれない芸人、娘や妻との関係の変化に寂しさを抱える二輪自動車整備士、親から離れて早く自立したいと願う女子高生、仕事が順調になるにつれ家族とのバランスに悩むアクセサリー作家。つまずいてばかりの日常の中、それぞれが耳にしたのはタケトリ・オキナという男性のポッドキャスト『ツキない話』だった。月に関する語りに心を寄せながら、彼ら自身も彼らの思いも満ち欠けを繰り返し、新しくてかけがえのない毎日を紡いでいく―。

3年連続本屋大賞ノミネートの青山先生。嫌でも気が滅入るようなニュースばかりが目につく世の中だから、人の温かさや優しさに触れられるような作品に触れたくなるのかもしれないですね。
刺激的な作品ももちろん好きだけど、これは日常にちょっと疲れてしまった時に手に取りたくなるような作品でした。

この作品も青山先生お得意の連作短編集という形を取っているのですが、登場人物それぞれが知らない所で繋がり、支え合っていることがわかる構成が本当に巧い。
新月のように「見えなくても確かにあるもの」が大きなテーマにあると感じたのですが、身近な人の優しさや思いやりに留まらず、気付かないうちに自分によって支えられている人の存在も描かれているのがすごくよかったです。

もちろん「単なるほっこり小説」で終わらないのもポイントで、きっちり意外性のある展開も用意されてます。最後に明かされる"あの人"の正体には、思わずウルっときてしまったな〜。
極端に登場人物が不幸になったりするわけではないので、誰にでもオススメできるタイプの作品です。


町田そのこ「宙ごはん」

物ごころがついた時から育ての「ママ」と一緒に暮らしてきた宙。
小学校入学をきっかけに産みの「お母さん」、花野と暮らすことになるが、彼女は理想の母親像からほど遠く……
愛し方がわからない花野。
甘え方がわからない宙。
‟家族”を手探りする二人には記憶に残る食卓があった。

こちらも驚異の三年連続ノミネート、町田そのこ先生。
個人的にはめっちゃくちゃ好みでした、これ……。

町田作品はこれに限らずそうなんだけど、生きることのままならなさや人の心の揺れ動きをしっかり描くからこそ、読んでいて苦しくなるような場面も多いです。『宙ごはん』も一見するとほっこりした作品をイメージさせますが、読んでみると想像以上にヘビー……(他作品みたいな生々しいDV描写とかは控えめなので読みやすいほうではあると思う)
でも根底に流れているのは人の温かさや善性なので、読後感は決して悪くなく、むしろ温かな涙とともにスッキリとした気持ちにさせてくれます。

作品を通して何度も描かれるのは、大人なのに心が未熟な人たち。そんな大人たちに振り回される子供の姿を見るのはやっぱり苦しかったです。
でも、宙の母親・花野をはじめ、そんな大人たちの成長まできちんと描かれているのがとってもよかった。そして料理人・やっちゃんのカッコ良さが最後まで際立ちますね!
読み終わったあと、いつもの食事もちょっと丁寧に作りたくなるかも。温かいごはんみたいに、優しい栄養として心に染み入る作品でした。


小川哲「君のクイズ」

生放送のTV番組『Q-1グランプリ』決勝戦に出場したクイズプレーヤーの三島玲央は、対戦相手・本庄絆が、まだ一文字も問題が読まれぬうちに回答し正解し、優勝を果たすという不可解な事態をいぶかしむ。いったい彼はなぜ、正答できたのか? 真相を解明しようと彼について調べ、決勝戦を1問ずつ振り返る三島はやがて、自らの記憶も掘り起こしていくことになり――。

直木賞も受賞した話題の作家・小川哲先生の作品です。
不可解な「ゼロ文字回答」の謎を解くというストーリーに乗せて、クイズプレイヤーの思考に迫るというあらすじだけで垂涎ものの一冊。

とにかくこの本、知識欲をゴリゴリに満たしてくれるので読み物としてシンプルに面白い!
クイズはただ単に知識をたくさん持っているから解けるのではなく、「相手よりも速く正解する」ために、信じられないような高度なテクニックが使われていることが知れる作品でした。あんな短い時間で、とんでもない情報量を処理しているとは……凄すぎてため息出るわ。
作者の小川先生が、徹底してクイズについて調べ上げて書いたんだとよくわかります。ものすごく頭のいい方なんだろうな。

非常に論理的な文章でグイグイ引き込んでいくのもポイント。流麗な文章の美しさを楽しむというタイプの作品ではなく、個人的にはそこだけちょっと物足りなかったのだけれど、展開の面白さで一気読みさせるだけの力を持った作品でした。
「君の」クイズっていうタイトルも読み終わって見ると秀逸だなあ!


安壇美緒「ラブカは静かに弓を持つ」

少年時代、チェロ教室の帰りにある事件に遭遇し、以来、深海の悪夢に苛まれながら生きてきた橘。
ある日、上司の塩坪から呼び出され、音楽教室への潜入調査を命じられる。
目的は著作権法の演奏権を侵害している証拠をつかむこと。
橘は身分を偽り、チェロ講師・浅葉のもとに通い始める。
師と仲間との出会いが、奏でる歓びが、橘の凍っていた心を溶かしだすが、法廷に立つ時間が迫り……

「音楽」×「スパイ」っていう、美味しいにきまってる題材を掛け合わせた作品なんだからそりゃ面白いわな!!でも、それ以上に物語を通して、人と人との信頼関係について改めて考えさせられる作品でした。
絶賛されるのもよくわかる。

この作品ではテーマとして「音楽教室での著作権」が扱われています。なんか聞いたことある話だな?と思って調べると、実際にヤマハとJASRACの間で法廷沙汰になった問題が下敷きになっているみたいですね。それもそのはず、私自身も昔ヤマハ音楽教室に通っていた時に聞いた話でした!
当時はよくわかっていませんでしたが、今になって何が起こっていたのかを知ることになるとは……個人的な驚きでした。

主人公の橘が組織の命令と割り切りつつも、次第にチェロや音楽教室の人々に惹かれ葛藤する様子が丁寧に描かれています。全体に暗く静謐な雰囲気がただよう作品で、正直第一楽章は読むのに結構時間がかかったんだけど……後半に進むにつれて、どうか崩れてしまわないで、と祈るような気持ちでどんどん引き込まれました。
橘の演奏する楽器にチェロが選ばれているのも、作品のイメージぴったり。
音楽好きな人なら共感できるポイントもたくさんあるんじゃないかな?


寺地はるな「川のほとりに立つ者は」

カフェの若き店長・原田清瀬は、ある日、恋人の松木が怪我をして意識が戻らないと病院から連絡を受ける。
松木の部屋を訪れた清瀬は、彼が隠していたノートを見つけたことで、恋人が自分に隠していた秘密を少しずつ知ることに――。
「当たり前」に埋もれた声を丁寧に紡ぎ、他者と交わる痛みとその先の希望を描いた物語。

初読み作家の寺地はるな先生。
誤解を恐れずに言えば、これ、今回のノミネート作の中で一番「わかりにくい」作品だったかも。安易な売り文句や端的な感想を受け付けないというか、伝えたいメッセージはけっこう明確なんだけど、読後の感情を言語化するのが難しい。だからこそ、じっくり読んで余韻に浸りたくなりました。

タイトルにもある「川のほとりに立つ者は」というフレーズ、これがまさに主題でもあります。何を意味するのかはぜひ読んで確かめてほしいので言いませんが、この言葉を忘れずに生きていきたいと心から感じました。
他人がどんな事情を抱えているかはそう簡単にはわからないし、だからこそ人間関係は難しい。善かれの行動が相手にとっても善であるとは限らない……そんなことを改めて感じさせてくれる作品だったと思います。

私が「いい小説だな!」と思う作品はいろいろありますが、凝り固まった自分の考え方をほぐし、全く違った視点を教えてくれる作品は特に印象に残ります。価値観を揺さぶる作品はいい作品、だと私は思う。
これはまさにそんな作品で、主人公の清瀬を通じて自分自身の未熟さや無理解を突き付けられもするんだけど、曇った視界を晴らしてくれるような感覚がありました。
ラストで出される結論も、あれは一つの正解だと思う。


おわりに

以上、本屋大賞2023ノミネート作品の感想と紹介でした!
最初でも書いたけど、全部しっかり面白かったです。正直ここまでくると好みの問題だと思うけれど、個人的なトップは「汝、星のごとく」と「宙ごはん」が同率かなあ。

今回初めてノミネート作を全て読んでみたけれど、いや、想像以上に楽しかった……
普段の自分では選ばなかったであろう良作にたくさん出会えました。本屋大賞、ありがとう。そして書店よ永遠なれ。
皆さんも気になる作品があれば、ぜひ!お手に取ってみてくださいね!

お読みいただきありがとうございました◎

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?