【file1.授乳婦のお薬】薬学知識編【leap of faith】

 仕事から帰った私はそのままの勢いで大学時代の資料を引っ張り出した。六年間で勉強するカリキュラムの中での授乳婦に関する勉強はほんの一部分だ。さすがに乳汁トラップなんて単語くらいは覚えてはいたが、授乳婦の資料のサイト名は、そんな記載があった程度で名前までは覚えていなかった。

LactMed
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK501922/

これだ、こんなサイトがあった。すかさずスマホで開くと案の定中は英語だらけで目が回る思いだった。

これでは手も足も出ないではないですか、そう思ったが講義資料の中になんと検索方法が記載されていた。大学教授(?)様様のナイスアシストだ。
さてここからは薬学英語のお時間

・Because of the low levels of sertraline in breastmilk,
母乳中のセルトラリン濃度は低いので
・amounts ingested by the infant are small and is usually not detected in the serum of the infant,
・幼児により摂取される量は通常その血清に検出されない
・although the weakly active metabolite norsertraline (desmethylsertraline) is often detectable in low levels in infant serum.
しかしながら、弱い活性代謝物のデスメチルセルトラリンはしばしば血清の中に低い濃度で検出される
・Rarely, preterm infants with impaired metabolic activity might accumulate the drug and demonstrate symptoms similar to neonatal abstinence.
稀に、代謝に不備のある早産の子は薬を蓄積し、新生児薬物離脱症候群に類似する症状を示すかもしれない。
 新生児薬物離脱症候群:妊婦が抗うつ薬を長期間服用している新生児が分娩によ抗うつ薬の暴露がなくなり発生する離脱症状と抗うつ薬の直接作用の総称
・Most authoritative reviewers consider sertraline a preferred antidepressants during breastfeeding.[1-9]
多くの権威のある評価者は授乳中優先される抗うつ剤はセルトラリンとしている
・Mothers taking an SSRI during pregnancy and postpartum may have more difficulty breastfeeding,
妊娠中にSSRIを摂取した母親や産後は授乳の一層のむずがしさを抱える
・although this might be a reflection of their disease state.[10]
しかしながら、恐らくこれは彼女らの病状を反映した状態である
・These mothers may need additional breastfeeding support.
これら母親には一層の授乳の援助が必要であり
・Breastfed infants exposed to an SSRI during the third trimester of pregnancy have a lower risk of poor neonatal adaptation than formula-fed infants.
妊娠後期の間にSSRIに暴露した授乳児は粉ミルクの幼児に比べて新生児の不適応のリスクは低い
・Sertraline is metabolized to norsertraline (desmethylsertraline), which has antidepressant activity of about 10% that of sertraline.
セルトラリンはデスメチルセルトラリンに代謝され、抗うつ剤としての働きはセルトラリンの10%になる
・Maternal Levels. In a pooled analysis of serum levels from published studies and 4 unpublished cases,
公式に発表された調査や4つの調査を基にしたプール解析では
・the authors found that 15 mothers taking an average daily dosage of 83 mg (range 25 to 200 mg) had an average breastmilk sertraline level of 45 mcg/L (range 7 to 207 mcg/L).
平均にして83mg/日のセルトラリンを摂取する母親15人は母乳中平均して45mcg/Lのセルトラリンが検出された
・Using the average dosage and milk level data from this paper,
この平均投与量と乳汁中の濃度を使用して
・an exclusively breastfed infant would receive an estimated 0.5% of the maternal weight-adjusted dosage of sertraline.
母乳のみで生育されている幼児は、セルトラリン投与量の母親の体重調整されたものの0.5%を授乳すると見積もられる
 The maternal weight-adjusted dosage:RID(相対乳児用量)のこと
 
相対乳児用量(RID)は、母乳を介した乳児の薬物曝露比率。 RIDは既知の乳児の薬物摂取量を使用し、乳児の治療用量または乳児の用量が十分に確立されていない場合の母親の薬物摂取量(mg/kg/day)と比較する。一般的に10%以下なら問題なく授乳を継続できるとされる数値
 

Twenty-six women who were an average of 15.8 weeks postpartum (range 5 to 36 weeks) and receiving an average of 124 mg sertraline daily for at least 14 days for severe depression
平均して産後15.8週で14日間毎日平均124mgのセルトラリンを摂取した26人の女性
were studied while breastfeeding with extensive milk and serum sampling over a 24-hour period. 
24時間にわたって血清やミルクを授乳期間中調査された
・All milk samples had detectable sertraline (average 129 mcg/L; range 11 to 938 mcg/L) and norsertraline (average 258 mcg/L; range 20 to 1498 mcg/L).
すべてのミルクでセルトラリンやデスメチルセルトラリンが検出され、
・Drug concentrations were higher in the hindmilk than the foremilk.
薬物濃度は前乳に比べて後乳の方が高かった
・Analysis of milk sertraline data from 15 mothers who submitted complete sets of milk samples
ミルクのサンプルを提出した15人の母親の乳汁中のセルトラリンの分析では
・indicated that the peak concentration of the drug and metabolite occurred 8 to 9 hours after a dose. In these women,
薬物と代謝物のピーク濃度は、投与後8〜9時間で発生することが示されています。

・the concentration in milk correlated with serum concentration, but not daily dosage.
母乳中の濃度は血清濃度と相関していましたが、1日量とは相関していません
・The authors estimated that an exclusively breastfed infant would receive an average of 0.54% of the maternal weight-adjusted dosage and that pumping and discarding milk 8 to 9 hours after the mother's dose would decrease the infant's daily dosage by 17%.[11]
著者らは、母乳だけで育てられた乳児は、母親の体重調整投与量の平均0.54%を授乳し、母親の投与後8〜9時間でさく乳廃棄すると、乳児の1日あたりの投与量が17%減少すると推定しました。

なるほど、つまりセルトラリンは乳児の相対的な薬物摂取量は約0.5%で授乳している人には優先して使用されるべきお薬とのこと

翌日出勤した私は早速患者様にお電話でこの事実をお伝えしたところ(もちろん後からお伝えするかはとても迷うところであったが)、根拠のある説明に安心して授乳できますとの回答をいただいた。これで私は漸く自分の仕事を完遂できたのである。
この一件から、医薬品のジェネラリストとして走り続けるために誰よりも知識を多く拾い、走り続けることがこの仕事には必要だと肌身で感じた。

ところで筆者の好きな映画、スパイダーバースにこんな一場面がある。
未熟な少年スパイダーマン、マイルスが本当のヒーローになる場面

Miles Morales : When will I know I'm ready?(僕はいつスパイダーマンになれるの?)
Peter B. Parker : You won't. It's a leap of faith. That's all it is, Miles. A leap of faith.(分からないが、信じて飛ぶだけだ、必要なのは勇気だけだ。)

この後マイルスは自身のスパイダーマンとしての力を開花させ、街へ繰り出し美しい夜景、ビル群を舞うシーンがある。スパイダーマンとして一皮剥けようという少年が華麗にビル群を飛び抜けるシーンはBGMも相まって背筋がゾクゾクするワクワクを与えてくれる。

a leap of faith:直訳では確信の跳躍というとこらしいが意味するところは結果が不確実でも、出来ると信じてやるということらしい。

言葉は正しく使うもので、本当の意味は異なるかも知れないが当時の自分にとって
「薬剤師としては1年目かもしれないない、先輩に知識などで劣るかもしれないが、そういった条件は取っ払う勢いで学び、躍進しろ」
と促されている、そう思えた。

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