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【インタビュー】元看護師に聞いてみた

ボンチノタミ、ジョーカーです。

今回は、定年退職した元看護師さんへのインタビューです。
約40年間の看護師生活を終えた現在も、看護師資格を活かせる職場で働いています。

Q.どうして看護師になったのですか?

女性が自立できる仕事だと思ったので。

Q.看護師にならなければ、何になりたかったですか?

声優になりたかったです。
※当時は声優という職業は今ほどメジャーではなかったため『声の出演の人になりたい』と思っていたそうです。

Q.看護学校時代に印象的だったことはありますか?

解剖の立ち会いです。
寮生は夜中でも解剖があると立ち会わせてもらえたので、何度か夜中に立ち会ったことがあります。
中でも小児の解剖は「こんな幼い子が亡くなってしまった」という事実や「解剖しないと死因がわからない難しい病気なのか」ということが衝撃的でした。
解剖医が小児科の先生で、小さな体をとても丁寧に解剖していたことを今でも覚えています。

Q.他にほっこりした話はありますか?

寮の炊事場のガスが22時までしか使えなかったため、22時までにお湯を沸かしておいて、夜中にお腹が空いたら『ラップラーメン』を食べていました。
美味しかったです。
※ラップラーメン:インスタントラーメンをどんぶりに入れ、お湯を注いでラップをかけて作る方法だそうです。

Q.よく『病院の怖い話』なんてありますが、実際に恐怖・不思議な体験などをしたことはありますか?

あります。
誰もいない病室からのナースコールがありました。
先輩とふたりで確認に行き、ナースコールのコンセントがきちんと抜けていることだけを確認して戻ってきました。
子どもが産まれてからは夜勤はしていないので、夜勤の思い出とかはあまり多くないですね。
あと、霊安室近くで何かを感じたとか見たという話はいくつか聞きました。

Q.就職後はどんなところで働いていましたか?

最初は一般外科(術前・術後の管理)→耳鼻科→泌尿器科の各病棟で働き、その後、第一子の出産時に育児休暇が取れなかったため退職しました。

出産後、別の病院に再就職し、内科病棟→外来→人間ドック→内視鏡検査室→回復期リハビリ病棟と働きました。
そこで回復期リハビリを専門にしたいと思い、それができる病院へ転職することを決めました。

それから回復期リハビリ病棟療養病棟で仕事をし、最後は回復期リハビリ病棟で退職まで働いていました。

Q.どうして回復期リハビリを専門にしたいと思ったのですか?

病気による身体障害や高次脳機能障害の患者さんひとりひとりと向き合うことにやりがいを感じた、というんでしょうか。うまく言葉にできないのですが、そういう部分に魅力を感じたのだと思います。

医師、看護師、リハビリセラピスト、ソーシャルワーカー、患者さんの家族など、多くの人たちと協働することで、患者さんが少しずつ元の生活ができるようになっていく、という部分が自分の目指す看護観に合っていたように思います。

改めて、言葉にしようとすると難しいですね。言葉にできないたまらない想いがありました。

Q.回復期リハビリで印象に残っていることはありますか?

高次脳機能障害の方は、認知症と違って、子どもに教えるように繰り返し教えることでできるようになることが増えていくんです。
時間がかかっても、何かができるようになったときはとても嬉しいです。

たくさんの患者さんに出会って、ひとりひとりの患者さんといろいろな思い出があるので、ひとつに絞るのは難しいですね。

※いくつかエピソードを聞かせてもらったうち、わたしが印象に残ったものふたつを、簡単にですが以下にまとめさせてもらいました。
※インタビュー内容を元に、一部抜粋したり表現をぼかしたりしている部分があります。

年越しそばが食べたい

嚥下障害の患者さんが、ある年の年末に「年越しそばが食べたい」と担当ST(言語聴覚士)に訴え、STさんから、なんとか方法はないかなと相談を受けました。
固形であるそば自体をすすることはできず、汁もさらさらだと噎せてしまうので、普通のそばを食べることはできません。
そこで、STのトップや医師、栄養士らと相談し、ペースト状になったそばのようなものを試行錯誤の末完成させ、いつものゼリー食の代わりに用意しました。
ペーストを作り上げるのに、味の濃さやどのくらいの粘度が良いかなど2〜3週間悩みに悩み、試作を繰り返し、それを患者さんに食べさせるという許可を得ることも大変でしたが、患者さんは当日喜んで食べてくれたそうです。
自分は別の仕事をしていたので見られなかったのですが、とてもいい笑顔を見せてくれたとSTさんから聞き、嬉しかったですね。
医師や栄養士も一緒になって「やろう!」となってくれたことも嬉しかったです。

『おとうさん』の手

どうしても忘れられない、同世代の女性の患者さんです。
脳腫瘍による嚥下障害があり、病院食を食べても噛み続けてしまって飲み込むことが出来ませんでした。
旦那さん(おとうさん、と呼んでいました)は県外から毎週通っており、娘さんもよく病室に足を運んでくれていたので、自然と仲良くなりました。
旦那さんは「どうしても固形のものを食べさせてあげたい」と言っていたのですが、病院食を嚥下できない状態で固形物を食べさせるというのは難しく、それはできないと断り続けていました。

ある日、旦那さんが持ち込んだおにぎりを小さくして、彼女の口に運んでいるところを発見しました。
「気持ちはわかるけど、それは危険です」と止めたのですが、旦那さんは「でも、飲み込めるんですよ」と言うのです。
確かに、あのドロドロの病院食を噛むだけで飲み込めなかった彼女が、旦那さんが口に運んでくれた小さなお米のかたまりを、しっかり咀嚼して飲み込んでいたのです。
これは、わたしたち看護師にはできないことだと思いました。彼女の旦那さん『おとうさん』だから、できることです。

それから、担当医師などと相談して、旦那さんが来ているときは看護師の監視下であれば、旦那さんが少量の固形物をそのようにして食べさせることに許可がおりました。
相談と一言でいうと簡単ですが、本当に何度も話し合いを重ねました。
医師としては、誤嚥性肺炎などの危険性があるため許可はできない、旦那さんは何が起きても自分自身の責任で、万が一そのせいで命を落としたとしても、食べたいものを食べさせてあげたい。
本当に、何度も何度も話をしました。
見守る側としては何か起きやしないかと当然心配もありましたが、おとうさんの手から固形物を食べる彼女は、とても嬉しそうでした。

彼女はその後、他の病院への入退院なども繰り返し、徐々に病状は悪化していきました。
そうして彼女が自分が勤めていた病院に戻ってきた頃、自分は別の病棟に移っていました。
ただ、同僚や別病棟のスタッフたちも自分が彼女や彼女の家族と仲良くしていたことは知っていたので、ときどき病室へ顔を見に行ったり、近況を教えてくれたりなどということがありました。

それからしばらくして、早朝、家にいた自分の携帯電話が鳴りました。
彼女が亡くなったという連絡でした。
その日の夜勤担当だった看護師が、わざわざ連絡してくれたのです。
始業時間よりずっと早い時間でしたが、慌てて病院へ向かいました。あれはもう、仕事ではなく、友人を亡くしたような気持ちだったと思います。
旦那さんや娘さんと一緒にお見送りをしました。
今でも彼女のこと、彼女の家族のことは、忘れられません。

Q.現役看護師さんやこれから看護師を目指す方に伝えたいことはありますか?

『その病気になった人』ではなく『その人が病気になった』と捉えて欲しいなと思います。
同じ病気にかかる人はたくさんいます。けれど、患者さんはひとりひとりがみんな違います。
病気だけを看るのではなく、まずは患者さん自身がどんな人なのか、その人を看て欲しいです。
患者さん自身を看ることで、その人自身を知り、病気の原因や、どんな関わり方をしていくか、どんな看護をしていくか、など、わかってくることがあります。
看護』とはその文字が表すように『手と目と言葉で護る』ということです。
さわって、観察して、優しい言葉をかけて、まもる。
もちろん、その優しさの中には、厳しさも必要です。

ですが、献身的なだけでは自分自身がつらく苦しい状況になってしまうこともあります。
まずは、自分自身を大切にしてください。
自分が穏やかでなければ、穏やかな看護はできません。
自分に余裕がなければ、自分が豊かでなければ、人を看ること、人と向き合うことはできません。
だからまずは、自分自身を大切にして、患者さんと向き合える人であってください。

特に、今のご時世で現場で働く方たちは本当に大変だと思います。ひとりひとりと向き合う余裕がないくらい、追い詰められている現場もあると思います。
どうか、まずは自分自身を大切にしてほしいと思います。

ありがとうございました。


他にもいろいろなエピソードを聞いたのですが全部は書ききれませんでした。
本当に、いろいろな患者さんがいて、そのひとりひとりと向き合ってきたのだなあと感じました。
また、きっかけが「女性が自立できる仕事だと思ったから」ということでしたが、働くうちに自分なりの看護観を見つけ、それを目指していったというのが印象的でした。
40年間、看護の仕事に責任と誇りを持っていたのだな、ということが伝わってきました。

現役看護師として働いていた約40年の間に、医療現場も多くの変化があったことと思います。
そんな中でも『患者さんと向き合うこと』『人を看ること』というのは、看護の変わらない部分なのだろうなと思いました。

今も、流行病で医療現場は大変だろうと思います。
どうか、現場で働く皆さんが少しでも心穏やかに過ごせますよう、わたしも祈っています。

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