ハンバーガー屋にアイツがいた。
アイツ。黒くてひらべったくてかさかさ動くアイツ。「好きと嫌いは紙一重である」という言説を最も簡単にひっくり返せるほど全人類から嫌われているアイツ。
初めて行ったハンバーガー屋で、ちょうど食べ終わるころ、木製の明るい色の壁を動き回るデカ目のアイツを見つけた。
1.背筋に来る
いったいぜんたいなんで嫌いなのかはわからない。アイツに危害を加えられたことは人生22年で1回もないし、目撃自体も10回あるかないかだろう。2年に1回しか見ないのになんで嫌悪感を抱いているのか、そんなことを深く考えたくもないほど嫌いだ。遺伝子に組み込まれているとしか思えない。
パッと黒い点が視界に入り目線をそちらに向けた瞬間、寒気を超えた何かが背筋を駆け回った。「うわ」という声とともに友人に存在を伝え、静かに、それでいて素早く店を後にした。友人が親切心で店員さんにさりげなく知らせると、同い年くらいの店員さんは「ひえっ」という反応をしていた。なんて正直。そのあと討伐隊が結成されたかどうかは知らない。
奴らはきっとどこの飲食店にもいる。格好のエサが集まるのだから当然だろう。もうそれは仕方ない。店の衛生体制を糾弾する気など全くないし、ハンバーガーはびっくりするくらい美味しかった。
ただ、なんというか、こう、アイツの不快感は尾を引く。
2.人間の明確な"敵"
攻撃もせず、脅迫もせず、ただ登場するだけで相手にあれだけの恐怖と戦慄をもたらせる悪役はそうそういない。いってしまえば逸材だ。
クッパなんて可愛げが溢れてるし、ジョーカーにも同情の余地はあるし、名前を言ってはいけないほど恐れられているヴォルデモート卿も「過去の悪行」があるからこその恐怖だ。
黒い流線型のアイツは、過去になにをしでかしたわけでもなく、(多分)世界征服の野望があるわけでもなく、武器をちらつかせてくるわけでもないのに、震えるほど恐ろしい。
全くもって認めたくはないが、生まれ持ったカリスマ性がアイツにはある。"1匹見たら100匹いると思え"なんて言葉ですら怖い。そんな人類の明確な"敵"を相手に1,000人やそこらの総従業員数で真っ向勝負を挑んでいるアース製薬には本当に頭があがらない。
あれからと言うものの、地面にある黒い点、夜飛んでいる謎の虫、全てがアイツに見える。本当に、お願いだから、黒いゴミのポイ捨てを条例で禁止してほしい。怖いから。
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