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選手が街にやって来た。

ミャンマーの蹴球といえばチンロンである。竹で編んだボールでバトミントンくらいの高さのネットを挟み得点を競う、サッカーとバレーを合わせたような伝統的な競技だ。オーバーヘッドのアクロバティックなシュートとともに歓声があがる風景を街でみかける。
元英国領であるミャンマーはサッカーも人気が高く、かつてアーセナルを買おうとしたことがあるとまことしやかにウワサされるほどだ。(さすがに英国がことわったという。)

そのような街へ、W杯の日本代表選手がやって来た。街の声はさまざまだ。揺れる気持ちはこちらに詳しい。

サッカーと政治、曖昧な境界 / NNA
https://www.nna.jp/news/2666574

行く人、控える人、テロを警戒する人、日本のTVに顔が映ったらレピュテーションリスクが・・と日本人も三者三様だが、とある方の一言で動いた。
代表選手は世界各国に散らばっており、日本ではお金を出しても観られないドリームチームが 5,000 チャット (350円) でみられるのだという。
本来ならスタッフたちと社員旅行のように行ったら楽しいだろう。しかし、アウェイの席で自国ではないチームの点に歓声がわいたら微妙かもしれない。

「ユニフォームを買う?」

サムライブルーが出回っているらしい。応援すると決めたものの、そっと行って、さっと帰ってきたい。水色の服で行くことにした。かわりに、二つの国旗のフェイスペイティング・シールをつくろう。

フタを開けてみたら、千人ほどの日本側観客席はサムライブルーのユニフォームに染まった。両ほほには、ミャンマーと日本の国旗。

「ニッポンということは普段はないと思いますので練習しましょう。」
各国を巡る応援団による手拍子のリハーサルがはじまる。実に、日本らしい。となりの晩御飯は、印度のサモサ。試合前の腹ごしらえだという。

ゲームがはじまると、観客席はどんどん人で膨れ上がった。アウェイ側の通路も階段もミャンマーの若者でいっぱいだ。フランス語やポルトガル語まで飛び交い、どちらのゴールに迫っても歓声が上がる。

応援リーダーは時折、拍手が揃っているかを振り返る。スミマセン。拍手がだんだんと高度過ぎてサボってました。コーナーキックはかたずをのんで見守りたい。

恒例のゴミ拾いまで参加し大満足。だんだんと浜辺の貝殻拾いのように夢中になってきた。ミャンマーの席だけ汚すわけにはいかない。世界各国の邦人がライバルだ。

・・・

今回の代表選によって、もたらされたものが三つある。

第一に、日本からミャンマーへ足を運ぶ人が増えた。これまで足が遠のいていた出張者がタイ、シンガポール、そして日本から集まったのだ。かれらは皆、一様にモジモジと気まずそう。YGNへようこそ!
きっかけは何でもいい。「百聞は一見にしかず」がこれほど似合う国もないのだから。自分の目で直接みて今のミャンマーを知るのが一番だ。

第二に、若者に夢と希望を与えたこと。家族の都合によりミャンマーでくらす日本の子供たちのみならず、ミャンマーの若者にもだ。会場では「ニホンジンデスカ?」と繰り返し声をかける男の子がいた。雨季のむし暑さの中、おろしたての長袖シャツを着ている。
ネット時代、日本の代表選手はミャンマーの若者にとっても憧れのスターであり、あちこちで写真をねだられている。そのキラキラした瞳は次のようにいっているかのようだった。
「(コロナ後、楽しめることが長らくなかった僕たちに喜びをくれた)あの、ニホンジンデスカ?」

もちろん、右へ。

第三に、ハレの機会を与えたこと。
くう ねる あそぶ。人間は仕事だけ、三食だけに生きるにあらず。ハレの日もケの日も必要だ。水祭りのお正月さえイデオロギーにまぶされ、祝え、祝うなと板挟みになってきた一般の人が屈託なく声をあげ、喜べる機会がようやく訪れたのだ。上も下も、右も左も関係なく応援できることはすばらしい。
立ち上げから二年、はじめて熟睡した気がする。

「2019年の代表戦は土もみえて、ひどいものだったのですよ。」

青々とした芝生をみて、在住歴の長い方はいう。人工芝は当然、輸入品でドル高、輸入ライセンス、ロジスティクス、施工の技術者と、我々が直面するビジネス課題と同じことをクリアして今日を迎えている。
この日を無事行うために、いったいどれくらい前から、どれほどの尽力がなされたのであろう。そして、第三国で開催するという選択肢もありながら、いくつもの逡巡、決断、リスクテイクが行われたことだろう。消化試合といわれながらも、戦術を試し課題を洗い出す機会とした、モデルのような選手の皆さんにも一礼したい。天は二物を与えるのですね。

並んで登場した選手は明らかに体の大きさが一回りちがい、マラソンと違って、サッカーは社会情勢や練習環境にも左右されるのだということが分かった。

代表監督は胸に手をあてて、歓声にこたえると、インタビューが終わっても一人たたずんで青い芝生をみていた。いったい何を想っていたのだろう。

翌朝、朝礼で、皆で目指すこと、今優先すべきこと、スタッフへの想いを語ってみた。普段1対1では声をかけているが、全体に対して話すことはまれだ。忙しい日々の中、皆の目がキラキラを取り戻したようだ。

昨日の監督に影響を受けたことはナイショだ。


Nausicaae of the Valley of the Wind / オルゴール
https://youtu.be/N9EAzqIIxCc





































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