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クリエイティブ制作のプロセスを心地よく/Project & Process Management

2011年から続けているクリエイティブのプロデューサーやPMの仕事。改めて振り返った時、私がこの仕事を好きな理由は「完成したその時」だけでなく、みんなで試行錯誤する「ものづくりの過程」そのものだと思い至りました。なので今後はクリエイティブ領域専門のPMとして「ものづくりの過程とその時間」をもっと大事に扱い・より良くするためのことをしていきたいと思っています。

PMは現状(特に制作会社において)進行管理役に比較的新人が割り当てられたり、雑務のように捉えられがちです。仕事自体もまだ分からないうちに、お手本もなくPM業をやらされて辛い気持ちになっていく若手もたくさん見てきました。幸い私自身はPMであることの意義深さややりがいを理解できたので、ものづくり自体を楽しく続けられています。
この部分を掘り下げていくことで、もっと楽しいクリエイション現場が増やせるのではないかと考えています。

あらためて私の専門領域を「Project & Process Management」と定義し直し、私個人の経験だけでなく体系的に仕組みをつくるために、プロジェクトマネジメント・スペシャリスト(PMS)の資格も取得しました。今後具体的には、クリエイティブ領域におけるプロジェクト実行支援と付随するいくつかの取り組みをはじめます。それらのコンセプトについてお話しします。


Project & Process Managementとは

Project & Process Managementは「Processを重視/特化したProject Management」という意味を込めた造語です。例えばサッカーの「攻撃的MF」というポジションでいうと「MF」=Project Management(役割)、「攻撃的」=Process(性質)のイメージです。
「プロジェクトマネジメント」と「プロセスを重視すること」を分けて、順番に考えを述べていきます。

「プロジェクトマネジメント」は汎用的な“実行推進スキル”

多くの業種で頭文字「P」+「M」=「PM」という職種の方がいます。同じ肩書き「PM」でも、そもそも意味が違ったり、業種や会社によって全く定義が異なったりするのが現状です。ややこしいですね。
知っている限りの「P」がつく役職でも、

・主にCM系映像業界「PM」=プロダクションマネージャー
・メーカー、システムサービス「PdM」=プロダクトマネージャー
・コンサル、システム開発「PM」=プロジェクトマネージャー、「PL」=プロジェクトリーダー、「PMO」=プロジェクトマネージャーオフィス

などなど。

人材のポジションの定義となると、それぞれのプロジェクト領域によって求められる商習慣の経験、規模感、技術的な知識は大きく異なりますが、根本的に必要な“実行推進スキル”としての「プロジェクトマネジメント」はどの制作でも変わらないのではないか、というのが私の考えです。

制作種類ごとの実行推進業務を担っている職種例

クリエイティブ業界のPMはスキルが言語化されてこなかった

私の知る限り、特にクリエイティブ業界に於いてこのプロジェクトマネジメントスキルはあまり言語化されてきませんでした。

原因のひとつには、ある制作を完遂するのに複数チーム(あるいは複数の個人クリエイター)が関わることが多く、責任の所在を一点に集めにくいことが考えられます。大きなプロジェクトだと幹事会社としての広告代理店の制作担当営業が担うケースもあるかもですが、あくまで営業調整業務の延長と捉えられている印象です。

また多くの制作会社がプロデュース部とクリエイティブ部にキャリアを二分する中で、PMはプロデューサーの下位互換のような立ち位置でキャリア形成されることが多いという点も、PM業務の言語化が後回しにされている一因だと考えています。
プロデューサーの必要条件にPM経験があることは間違いないですが、プロデューサーとPMは根本的に役割が違います。

プロジェクトマネジメントってどんな役割?が言語化されてこなかったことによって、実行推進の業務は必ず発生しているにも関わらず、見積り項目に乗せにくいという事態が起きていました。
多くの見積りでは、PM個人のスキルや能力に関わらず全体に%をかけて「進行管理費」という間接費の中にまぶされていると思います。

値段がつかない=価値が認知されないことで、そこに専任の人材を充てられない→ナレッジが積み上がらずPMの人材育成も進みにくいというスパイラルが生まれています。

私は「ものづくりの過程とその時間」を心地よくする役割として、PMは大きく貢献できると考えています。そのためにも間接費としてではなく、スペシャリストとして価値を出すことにトライしていきたいと考えています。


プロセスを重視する3つの理由

近い未来にクリエイションの現場でもプロジェクトマネジメントが体系化されると、その次には必然的にPMごとの個性が生まれてくるはずです。その一種、私の取り組み方(芸風のようなもの)として「Process Management」をスローガンにしていこうと思っています。

プロジェクトは本当に“終わりよければすべてよし”でしょうか。特に近年のクリエイティブプロジェクトでは、良いプロセスを踏まえなければならない理由が生まれています。

1. そもそもプロジェクトに終わりはあるのか

プロモーションとブランディング、またブランディングと経営・事業が一体化していく中で、納品ベースの「終わり」では終われないプロジェクトが増えています。当たり前ですが、たとえば広告はクリエイティブが完成して公開してからが価値を生むターンであり、社会の反応によっては臨機応変に形を変えることもあります。作品を発表してそこで得られた評価を元に次の作品につながっていく足がかりとしてのアートプロジェクトもあるでしょう。

すべてのプロジェクトは事業や人生のタイムラインの中にあり、つまりプロジェクトそのものが地続きな未来へのプロセスであると言えます。成果物を点で捉えてその一点のみで価値を最大化する方が却って困難なこともあります。

2. 新規性の高いプロジェクトでは、プロセス自体がクリエイションの本番

開発以外のクリエイションでも主流になってきた「アジャイル」や「スパイラル」の手法は、新しく不確実性の高い現場で用いられる手法です。

社会の複雑性が増しどんどん加速していく中で、事前に企画した一つの仮説に基づいて悠長に制作している間に、環境の側が変化して事前の仮説が陳腐化してしまいます。
つくりながらクオリティを上げて走り続ける手法ではないと不確実性に置いていかれてしまう時代に新しい発明を具体化するには、走っている時間=制作のプロセス自体がむしろ“本番”であると言えます。

3. 何かを傷つけながらつくった作品はサステナブルではない

3点目は倫理的な観点です。
現在、映画・舞台劇場文化でのme too運動が起きています。作品が良ければその制作過程で誰かが・何かが傷ついていても気にならないでしょうか。少なくとも私は、関係者の人格が無視された作品を知らずに鑑賞して少しでも心を動かしてしまうのは自分の人生にとって嫌だと感じました。そして素直に感動しても後ろめたくない倫理的に安全な作品を選択したいと思いました。これはクリエイティブやエンタテイメントにもエシカル消費の観点を持ち得るということだと考えます。

実務上も「あの人の企画はハラスメントが横行しているから」という評判が広まったら良いチームと良い制作ができないことは明らかです。
たとえば取引条件をクリアにしたり、スケジュールをコントロールして徹夜を無くしたり、配慮されて正しいリスクヘッジが為される制作プロセスはハラスメントを未然に防ぐことに役立ちます


こんなことから取り組みます

●クリエイティブ進行の型をつくり、実践する

まだ世の中に無いアイディアを実現しようとしているプロジェクトにとってルーティンの業務はほとんどないでしょう。しかしそのトラブルが人類史上初めての事態ということも同じく無いはずです。私は先人たちの事例や構造化されたフレームワークを良い塩梅に使っていくことで、プロジェクトマネジメントの型をある程度作っていけると考えています。

事実、業界横断でのプロジェクトマネジメント(プログラムマネジメント)は既に体系化されており認証機関もあります。クリエイティブ業界のPMにもこの体系を適用できると考えており、その実践を広めるためにプロジェクト実行支援(PMスペシャリストとしてのプロジェクト参加)を行います。

●はじまりを大事にする

(仮に終わりはなくても)すべてのプロジェクトにはじまりは必ずあります。“はじまり”を丁寧にすることは、お互いの信頼関係の基盤をつくり、その後のプロセスの透明化にとっても大変有効です。
私はプロジェクトオーナー向けにはRFP作りをお手伝いできます。プロジェクトに参加するクリエイター向けには事前の条件確認や交渉をお手伝いできます。これらをKickoff Consultationと称して、スムーズなプロジェクトのはじまりをサポートできるようパッケージサービスを提供していきます。

●ナレッジをシェアしてスキルを言語化する

上述したとおり、プロジェクトマネジメントの業務が言語化されていないことがPMスペシャリストの育成が進まない一因だと考えています。
PMスペシャリストの仲間が増えれば、お互いに業務のシェアができるだけでなくそれぞれが専門性の中で更に個性を発揮する余地も出てきます。
例えば、スピード重視案件ではスピード型PMを/大規模案件では大規模が得意なPMを等と、(単なる人手としてではなく)プロジェクトとPM間で得意と個性のマッチングが起きる世界になれば、私にとってもそれほど楽しいことはありません。

具体的にはクリエイティブ業界PMに特化したスキルアップコンテンツや勉強会を通して、クリエイティブ制作におけるプロジェクトマネジメント業務を体系化していきます。ゆくゆくは、基本スキルの上に(グラフィックデザイナーやUIデザイナーがいるように)得意を可視化したPMが増えるといいなと思っています。


世の中にまだ見ぬ新しいモノ、作品を生み出すために実行推進の役割はきっと必要です。“善いPM”が増えることで、楽しいプロジェクトがどんどん実現する世の中になったら良いなと思っています。

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