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自由詩

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リーディングや投稿・寄稿で発表済の作品を掲載します。
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#spokenword

花束

花束

僕たちはまだ互いに優しくなるやりかたを知らない
月曜朝8時13分発 特急京王線新宿行き 満員電車
脱毛サロンのモデルが口を半開きにしてこちらを見ている
誰かの舌打ちが聞こえる
サラリーマンの肩越しにライブ配信アプリの画面が見える

僕らは互いの心臓のありかさえ知ろうとしないのだ
夜道をこちらに向かってくる人の
左胸が白く発光していたのを覚えている
それは左胸のポケットに入れたスマートフォンの画面

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キッチンで物語を聞かせて

キッチンで物語を聞かせて。
逆立ちをして話を聞かせて。ケチャップもマヨネーズも、わさびのチューブも、みんなさかさまになってきみの話を待っている。

キッチンで物語を聞かせて。
頭をしめつける悩みをゆるめて。ジャムの瓶も佃煮の瓶も、お湯につければ蓋がやさしく開いてくれる。

ひかる
ひやす
みがく
みたす
きざむ
ひたす
にがす

ゆげのゆらりゆくえ

光るフォーク
冷やすミルク
みがくシンク

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鱗(2018 On-beat ver.)

瞳の表面で強い風を受け止める
透きとおるまで磨かれた大気に歩みを浸しながら
石畳に刻みつけるようにかかとをわざと高く打ち鳴らす
今日も身体は鼻先と耳の縁から冷えていくらしい

輪を描いてめぐるものは等しく時を刻み 
青空に高くそびえる時計台は
真昼間の学舎の円居の真中 
定まらぬ足取りは戸惑いの最中
人の名前は呼ぶほどに遠ざかり 
表情は思い出すほどに薄らぐ
またすぐにめぐってくるはずの
菜の花の

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