論理的なのはカナデだった。北宇治吹奏楽部の鬱憤を考える
シーズン3。北宇治高校吹奏楽部には多くのトラブルがありました。特にエピソード9から10(夏合宿から関西大会)にかけては生徒どうしの悩みや愚痴や言い合いも多く、議論にこだわる私としては記事ネタとして「どれを取り上げようか」と迷うほどです。
が、たしかに生徒どうしの言い合いが多くはありましたが、すべて一つの基準で解決できたはず。
それは……論理。
論理ですべて解決できたのです。黒江マユの悩みも、滝先生への不満も、サファイアの疑問も、レイナとクミコのケンカも。北宇治高校吹奏楽部に渦巻く負の空気をすべて。問題として表面化する前に防げたはずなのです。なぜなら、論理は納得を引き出すものだから。
この記事では、どうして論理的であれば、北宇治高校吹奏楽部のトラブルはこじれずに済んだのか、その理由を説明します。
1.論理が納得を引き出す
「論理」には論理法則や推論など多くの側面がありますが、その中でも「理屈」という側面が、ここで必要なものです。言葉によって説明する理屈っぽさにより、悩みは腑に落ち、モヤモヤ感は解消します。
説明も無く、ただ「〇〇しなさい」「〇〇でしょう」と言われると、北宇治吹奏楽部員でなくともモヤモヤします。
人間は不思議なもので、少しでも不満を解消する手がかりがあると、足りていないものは自分で勝手に補います。たとえ説明が拙いものでも、きっかけさえあれば、後は自分で納得に必要なものをかき集め推論するのです。
部員それぞれの鬱憤を、一つ一つ見ていきましょう。
2.滝先生が皆んなに説明してくれれば…。北宇治吹奏楽部の鬱憤を考える
(1)怒ってるよね。私がソリになって
怒っているのかもしれませんが、怒っているのは不満が解消されない事によるものです。この場合の不満とは、どうしてソロが部長ではなく転校生なのか。北宇治吹奏楽部は「全国金を目指す」という、根本の活動原理を部員が共有しています。(どの程度目指すか、という部員ごとの差はあれど)。ですので、お互いが全く理解できないわけでは無いはず。説明という取っ掛かりがあれば、価値観の共有(不満の解消)に向けて、考えを進められたのです。
(2)どうも納得できないっていうか
惜しい。不満の解消に手が届きかけていました。「納得」という言葉が出てきているのだから。その納得に必要なのが説明というのに至っていれば、不満も解消できたはず。例えば
このような説明をすることで不満は解消できたのです。
(3)一番の原因は滝先生な気もします
これは良い線いってました。確かに一番の原因は滝先生です。ただし「変えすぎ」だからではなく、「説明がなかった」から。部活後にドッと疲れたり大変だったりするのは、不満が解消されない中での活動だったから。はじめから滝先生が説明していれば……。滝先生が論理的であれば、このような部員の不服や鬱憤はでなかった可能性が高いのです。
(4)どうしてその判断になったのか、理由がわからないことが多いだけで
「理由がわからないことが多いだけで」と言っているのだから、理由を求めればよかったのです、滝先生に。確かに自分で理由を考えるのも必要ですが、ゼロから考えることは難しい。できるかもしれませんが、正解にたどり着くのは至難の技でしょう。滝先生の選考基準がわかってこそ、正しく「だから〇〇さんは合格」「ゆえに〇〇さんは不合格」がわかります。疑問を抱くのは結構なこと。疑問を抱いたのだから尋ねればよかった。
滝先生も、ここまで火種がくすぶっているのだから、説明して火消しに努めればよかったのです。でもって、はじめから選考基準を公開していればよかった。そうすれば、各部員同士がアレコレ推測の域で思案することもなかったのに。
それと、レイナの「そんな言い訳や文句が大半でしょ!」は良くありません。言い訳はよく聞くべきです。というのも、「言い訳」は「理屈」と同義なのですから。「理屈」を悪意をもって呼ぶと「言い訳」となります。「言い訳」は、論理的でない人が理屈(っぽい人)を嫌って吐き捨てる際に使う言葉です。
(5)ソリに黒江さんを選んだ理由を教えて下さい
ここですよね。
ここのクミコのナレーションに一番もどかしさを感じました。聞けばよかったのに。飲み込む必要なんか無かったのに。ただ一言「どうしてでですか?」と聞けばよかった。それで説明を受ければ、納得への道が開けていたのです。
おそらくクミコは「理由を聞くのは失礼ではないか」と考えたのだと思いますが、これが私たちの現実社会でも渦巻く、非論理の元凶でもあります。どうして理由を聞いてはいけないのか。なぜ理由を聞くことが失礼に当たるのか。実は私も仕事をしていて聞きづらさを感じます。けれど、「聞いたら失礼じゃないか」と頭をよぎったとき、「ここは聞かなきゃ。論理的に考えろ!」と頭を切り替えます。「失礼じゃないか」と感じるのは、非論理性ゆえにです。非論理的で、深く考えられない人が、理由を尋ねることに後ろめたさを感じるのです。
どうして「非論理的で、深く考えられない人が、理由を尋ねることに後ろめたさを感じる」のか。
まず、歩み寄りは双方がしなければなりませんから。確かに理由を尋ねることは、先方の判断に納得していないことの表明です。納得していないことを自分で解消せず、解消の手立てを先方に乞う姿勢です。けれど、納得しないことは双方に原因があるはず。説明する側と説明を受ける側が歩み寄ることで納得が生まれます。どうして説明を受ける側のみが思案し、一方的に気を使って歩み寄らねばならないのでしょう。説明する側も、より詳細なわかりやすい説明を心がけねばらない。双方が歩み寄らねばコミュニケーショントラブルは解消できないのです。
それから、人と論を混同してはいけませんから。「説明がわからない」と相手に聞いたとしても、それは相手の人間性を否定したわけではありません。「わからない」のは今現在テーブル上に上がっている問題の話であって、先方の人間性を含めた全てが「わからない」と言っているわけでは無い。とりあえずは俎上に乗っている議題が不可解なのであって、その範囲でのみの話なのです。器量や才能など、すべてを否定しているわけでないので、失礼には当たらないはず。
一般的に、人と論は別物です。その人がどういう人かと、その人の話がどういう内容かは別に考えなければなりません。例えば人と論を混同するとは、こういうものです。
警察が悪いことをしているからといって、違反者の違反行為が無くなるわけではありません。たとえドロボーが「盗みは良くない」と言ったところで「お前が言うな」とは思いますが、盗みが良くないことに変わりないのと同じです。
点数稼ぎが、交通違反取締りのきっかけだったとしても、だからといって交通違反が免責されるわけではありません。それとコレとは別問題なのですから。
「他にもいるじゃないか」も良く聞きますが、それには「そうですね。だから?」と答えるしか無いでしょう。他に違反者がいるとしても、それでも違反者が違反行為をしたことに変わりないですし。
でもって、たとえ警察組織自体が腐っていたとしても、違反者を取り締まろうとする警察官の言動が間違っているわけでは無いんです。
人と論は別に考えなければならないんです。
このように、理由を聞くことは失礼なことではありません。
まず、コミュニケーションが上手くいかないのは双方に原因があるのであって、相手の意図がわからないからと言って卑屈になる必要はない。
それから、人と論は別である。
だから、クミコは一番聞きたことを飲み込まずに、聞くべきだったのです。
(6)滝先生が皆んなに説明してくれれば
そのとおり、滝先生が説明していればよかったのです。レイナは「部長としてやることが滝先生に説明してほしいってお願いすることなの? 誰かに頼ることなの?」と非難めいて言いますが、これは滝先生がするべきこと。滝先生しか出来ないことです。演奏を聞いて選考したのは滝先生なのですから。説明責任は滝先生にあります。たとえどんなにクミコやレイナが選考結果を考えたところで、憶測にしかなりません。
(7)そこまで納得しているなら、慰めなくてもいっかあ
場面はエピソード9に戻りますが、カナデは選考結果に落着いて対処できていました。これは、カナデが選考結果に納得していたからで、理屈がわかっていたからです。
「久美子先輩と黒江先輩でユーフォは十分。その分、後藤先輩が抜けて不安のあるチューバに人数を割く。編成のバランスですよ。一人増やそうと思えば、どこかは減らさないといけないですから。」
これほど納得し得る理屈がありましょうか。もしこの説明が、カナデ自身の推測でなく、滝先生の口から出ていたなら、カナデはさらに納得できていたはずです。推測でなく真実だったと明確になるのですから。同じような理屈が部員全体にも必要だったのです。納得するだけの説明が。
3.まとめ
というわけで、「北宇治吹奏楽部に必要なのは論理だった」という話でした。もしも部員や滝先生に論理性があったなら、北宇治吹奏楽部にわだかまっていた不満や鬱憤は、形にすらならなかったでしょう。奇しくもアニメを見る限り、もっとも論理的だったのは、頻繁にクミコに皮肉を言うカナデでした。自身で理屈を見つけ、納得していたのですから。
もしかしたら「カナデは納得などしていなかった。悔しかったはず」という意見もあるのかもしれませんが、あとは気持ちの整理の問題です。「理屈でわかっていても気持ちの整理が追いつかない」こと往々にしてある事ですから。でもって、彼女なら気持ちを整理できていたでしょう。「編成のバランスですよ」との理屈に至ったのであれば、十分に論理的な考えを備えているのですから。
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