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アーサー・ケストラー『日蝕』(旧『真昼の暗黒』)を一緒に読んだ

ロシア(ソ連)、東欧に関する本を次々読む演習で学生さんが選んだ一冊、アーサー・ケストラーの小説『日蝕』(三修社 2023年)を私も一緒に読みました。

これまで『真昼の暗黒』として翻訳されていた作品です。長くドイツ語の原稿が失われたと思われていて、英訳が「原作」として流通していましたが、数年前にドイツ語の原本が発見され、そこから直接訳した日本語版が発刊されました。

スターリンを彷彿させる「ナンバー・ワン」のライバル的存在だった大物政治家がでっち上げの罪状で捕らえられ、粛清されそうになります。

独房での孤独な時間とかつての仲間による尋問を通して自分の来し方行く末を思考する主人公は、党のため、革命のためと見殺しにしてきた人たちへの呵責の念にかられた主人公は信念の揺らぎと、どう折り合いをつけるのか。

実際にあった見せしめ裁判(モスクワ裁判)の犠牲者をモデルにしており、そのなかにはケストラー自身も交流がある人物がいたとのこと。

なぜ処刑されることがわかっていながら、公開裁判の場でまで、でっちあげられた罪を認めてしまうのかという疑問から生まれた作品のようです。

そして、ケストラーも、スペイン内戦に関与して投獄されたことがあるそうで、その経験が、独房生活や尋問のリアルさに色濃く反映しているようです。以前、見学したことのある、旧東ドイツやラトヴィアのいわゆる秘密警察の拘置所を思い浮かべながら読みました。(文末に見学記のリンクあり)

主人公が逡巡し、思いを巡らす部分は、非常に哲学的というか観念的で、わかりやすいとは言えませんが、どうなるんだろうとハラハラしながら読み進めてしまう吸引力?のある小説です。

万人が面白いと思うかというと、そうではないと思いますし、なぜ見せしめ裁判で罪を認めるのかという疑問が解けるか、納得できるか、というと、そう単純なものではありません。

人というのは、こうしてあれこれ悩み、考え、誘導されながら、不可解な結論を出してしまうものなのかもしれないな…と思ってしまうような、いやでもやっぱわかんないわ、と思うような、面白い読書体験でした。



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