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#2 こどもと家族の病院環境を考えよう ゲスト:小中 大地さん

 第2回チア!ゼミのテーマは、「こどもと家族の病院環境を考えよう」。アーティストとして小児病棟でのワークショップを実践し、その研究にも取り組む小中大地(ゴブリン博士)さん、重症心身障害のあるここねちゃんを出産し、子育てした経験から、患者家族会を主催する五十嵐純子さんのお話を伺いました。そして、病気や障害のあるこどもや家族にとって、病院の環境やアートはどうあるべきなのかを考えました。本レポートでは、小中大地さんのお話を編集してお届けします。

チア!ゼミとは?
 チア!ゼミは、医療福祉従事者、クリエーター、地域の人々、患者さんやその家族、学生など様々な背景を持つ人たちが集まり、参加者同士の対話によって、医療や福祉におけるアート・デザインの考えを深めるプラットフォームです。実践者や当事者の方に話題提供していただいた後、参加者同士で対話しながら、異なる視点や考えを共有します。多職種の方が集まって話し合うことで生まれた発想や新しい視点を、参加者のみなさんがそれぞれのフィールドに持ち帰ることで、医療や福祉環境を変えていく社会的なアクションへ繋がることを期待しています。

こどもたちとの関わりから生まれるゴブリン

小中 大地/アーティスト, 筑波大学大学院人間総合科学研究科 博士後期課程

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森羅万象に宿るゴブリン
 「ゴブリン」には、人間にいたずらをする妖精というような意味があるのですが、僕は、顔のついた生き物に変身させることで、さまざまな対象に宿る妖精、ゴブリンをつくり出す活動をしています。例えば、《鉛筆ゴブリン》や《ビー玉ゴブリン》、島根県の山にも顔をつけたり……。「物」だけでなく「空間」にもゴブリンはいるよ、どの部屋のコーナーにも見出せるよと「隅っこ」のゴブリン。あとは紙を破るという「行為」に注目した、《びりびりゴブリン》なんかも。僕自身はそれらゴブリンの制作活動を行う「ゴブリン博士」と称し、さまざまな場に立ち入り、そこにいる人たちと一緒につくっています。

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島根県雲南市の閉校を迎える小学校を背景に制作した《山ゴブリン》(2010)

筑波大学附属病院での滞在制作
 最初は、大学内のアトリエで1人、小さな二頭身のフィギュアのような作品を制作していました。2005年、初めてその小さな作品を「ゴブリン」と名付けて小学校に展示しました。鍵盤ハーモニカなど小学校のゴブリン97体を教室いっぱいに潜ませたんですが、それがすごく評価されたように感じました。でもそこからしばらくの間、先が見えなくなってきたというか、エネルギー不足というか、うまくいかない時期があって。

 数年経って公開制作みたいなスタイルが見えてくるなか、2009年に、今度は筑波大学附属病院内で制作する機会を得ました。学生チーム"アスパラガス"のサポートのもと、初めて病院という現場に入っていったんです。2ヵ月間、渡り廊下に通って滞在し、通りかかる患者さんやご家族、職員さんたちとおしゃべりしながら、計61体の病院のゴブリンをつくっていきました。これからの可能性を感じる時間でした。そして、これは近年の活動につながる出来事なんですが、滞在制作中に出会った子どもがいて。その子の退院を見届けることができたんですが、企画が終わってから、しばらくして僕のもとに手紙が届いたんです。封を開けると「私もゴブリンをつくってみました」って、手紙と一緒に作品の写真が入っていました。滞在制作では、ワークショップのようなかたちにはしてなかったんですが、もしかしたら子どもたちにもゴブリンをつくりたい気持ちがあるんじゃないかなって、このとき感じました。

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筑波大学附属病院での滞在制作《ゴブリン博士の病院ゴブリン》(2009)

小児病棟でのゴブリンワークショップ
 そんなこんなで、小児病棟での活動がはじまりました。週に一回くらいのペースで通って、5年以上経ちます。参加者は、赤ちゃんくらいの幼児から小学校低学年くらいの子が中心で、高学年の子や中学生が行うこともあります。1回1時間半くらいで活動をしています。

 身体的に、気分的に元気がなかったりで、病棟内のプレイルームに来られない子に向けて、呼ばれればベッドサイドまで行くこともあります。10月のその日は《10月ゴブリン》をつくるっていう内容だったんですが、ゆっくりと起き上がって参加してくれた子がいました。途中、その子は10月生まれだと聞いたので、日のほうの数字パーツをつくってあげたところ、即興的に《誕生日ゴブリン》ができ上がりました。完成したときにその子は微笑んでいて、ちょっとでも起き上がる活力になったんじゃないかなと嬉しく思えました。

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筑波大学附属病院 小児総合医療センターでのワークショップによる作品《10月ゴブリン》(2018)

 子どもたちや保護者との交流から活動のアイデアをもらって、それを実現させているというサイクルを感じています。例えば、粘土を握ってできる《ゆびあとゴブリン》は、身体の自由が利かない子との関わりから生まれたものです。特に小児病棟で意識しているのですが、こちらからそんなにつくり方や完成形を押し付けることはしないほうがいいなって思っています。ゴブリンづくりが好きなゴブリンさんが材料を持ってきてくれたよ、くらいの感じでも。つくらない子がいても、そこで遊んでたり、あいさつしてくれたり、そういう関わりが大切だと思っています。

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筑波大学附属病院での夏祭り(小児患者保護者のおしゃべり会主催)で行なった《ゆびあとゴブリン》づくり(2019)

病院職員との関係性づくり
 それから、サポーターさんの存在は重要です。小児病棟の活動だと、病棟保育士さんたちやボランティアスタッフの方、時々看護の実習生たちにも入ってもらって。その人たちとのコンビネーションで、一緒に企画を動かしているイメージです。

 職員さん達の日々の忙しさってすごく伝わってくるので、そのお仕事の領域に、活動が踏み込み過ぎないように意識しています。そのなかでも看護師さんや医師の先生には、いいタイミングがあれば、子どもたちがさっきこんなのをつくって、こんな工夫をしてたんですよみたいに様子を伝えるようにしています。そういうことは少しでも医療に役立ててもらえるかもしれないと思って。時間はかかりますが、そうやって並走する意識で、少しずつ職員さんたちとの信頼関係を築いています。

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小中大地/アーティスト、絵本作家、筑波大学大学院人間総合科学研究科 博士後期課程
筑波大学附属病院の小児病棟でゴブリンワークショップを2014年より継続的に実践。筑波大学大学院 博士後期課程に在籍し、コミュニケーション型アートの研究にも取り組む。https://konakabeya.exblog.jp/

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第2回 チア!ゼミ「こどもと家族の病院環境を考えよう」
日程:2019年7月27日(土)14:00-16:00
場所:Biviつくば2F 筑波大学サテライトオフィス
主催:特定非営利活動法人チア・アート https://www.cheerart.jp/
共催:筑波大学芸術系
助成:いばらき未来基金第3回テーマ助成「アドボカシー助成」


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