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クリストファー・ノーランと私

こんばんは、チェ・ブンブンです。

遂に今週の金曜日からクリストファー・ノーラン最新作『TENET』が公開となります。本作はタイトルにラテン語を持ってきており、尚且つ時間を巡る話ということで原点回帰の集大成だと思われる。コロナ禍でハリウッド大作が長いことお預けとなっていたため、映画ファンはウズウズしている。現に、池袋グランドシネマサンシャインのIMAXチケット取りは争奪戦となっていた。

そんな希望の星クリストファー・ノーランですが、自分の中では、なかなかホームランを打ってくれない曰くつきの監督という位置となっている。『TENET』への期待を込めて自分とノーランとの変遷を振り返っていこうと思う。

衝撃的『メメント』の思い出

今となっては、日本未公開の謎映画やマニアックな映画ばかり紹介する私ですが、私の映画ファンの変遷は王道である。当時中学生だった私は、英語の授業で趣味を答えられず、外国人先生にめちゃくちゃ怒られた悔しさから映画観賞を趣味にし、有名どころを片っ端から観ていた。『2001年宇宙の旅』、『ブレードランナー』などといった作品を追っていくうちに『メメント』へとたどり着いた。

10分しか記憶が持たない男が犯人探しをする話なのだが、話がどうなっているのか分からない。前へ進んでいるようで妙な感覚に包まれる映画に困惑した。観賞後に調べてみると時系列が逆向きになっているという事実に衝撃を受けたのだ。この頃『シックス・センス』や『ファイト・クラブ』、『マーズ・アタック!』といった衝撃的な映画に触れることが多く、一気に映画好きとなりました。ただ、このインパクトが強すぎて『イムソムニア』や『プレステージ』といった作品にはピンとこなかった。あの『ダークナイト』ですら、ヒース・レジャー演じるジョーカーこそ魅力的だったが、世間が絶賛する程には嵌まれなかった。

『インセプション』事件

さて、私とクリストファー・ノーラン映画の変遷を語る上で最大の事件が2010年『インセプション』事件だ。本作は公開前から世界中で話題騒然だった。画面がぐにゃぐにゃと蠢く映画にもかかわらず、VFXが少ない作品だったからだ。カフェでの爆発シーンや、回転する廊下のシーンは、実際に撮影されたものだった。2010年代といえば、2000年代にもてはやされたVFXがリアリティを奪ってしまい、映画ファンは少しフラストレーションを抱いていた。それこそ『スター・ウォーズ』プリクエル・トリロジーは特撮の面白さを奪ってしまった。そんな2000年代からの変化をクリストファー・ノーランは2010年代の宣誓として真っ先に掲げたのだ。

だが、公開当時六本木のTOHOシネマズで親父と行った私はガッカリした。当時の感覚で「今敏『パプリカ』のパクリ」だと思ってしまったからだ。なんと、その数日前テレビで『パプリカ』を観賞し、あまりの面白さに感動したばかりだったのです。それを踏まえて『インセプション』を観ると、鏡が割れる場面に始まり、エレベーター、廊下の空気感、何よりも記憶に入り込む設定全てにおいて『パプリカ』だったのだ。今の私が観ると寧ろ実写版『パプリカ』として愛あるオマージュに満ち溢れ、創意工夫が施された本作は評価に値するのだが、高校生の私には観る時期が悪かった。

パリで観た『ダークナイト ライジング』

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さて、そんな私が再びクリストファー・ノーランと会ったのはパリであった。高校3年生の夏、私は3週間かけてフランス、イギリス、ドイツを放浪していたのだ。この頃の私は、いわゆる「意識高い系」であった。大学受験しなくても大学進学できる学校だったので、周りの高校生みたいに部活や勉強で最後の夏を過ごすのに抵抗したかった。今しかできないことをしたいと思い、今まで貯めたお小遣いとニキビの治験で得た資金を元手に一人旅をしたのです。

そしてセーヌ川沿いにある映画館MK2 Bibliothèqueにたどり着いた。そこで、『ダークナイト ライジング』を観ました。フランスの映画料金が安いことは『フランス映画どこへ行く: ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて(林瑞絵)』で知っていたのですが、実際にその料金を目の当たりにすると衝撃的だ。日本では高校料金1,500円(今は1,000円らしいが当時はまだ高かったのです)に対して、学生料金600円程度で観賞できるのです。

1FにはDVDショップがあり、ウディ・アレンやジャック・タチのDVD-BOXが宝の山のように積まれていました。そこで大島渚『愛のコリーダ』無修正版のBOXを見つけ、童心の好奇心で即買いしました。

さて、このMK2 Bibliothèqueは特殊な設計をしている。入り口と出口が分かれていました。後方からスクリーンに入り、映画が終わると前方から外の連絡通路に出るという仕様です。金を払わずに映画をハシゴする不正を阻止する仕組みのように思えます。

それ故、エスカレーターも一方通行になっています。一度、『ホーリー・モーターズ』を観る際に、スクリーンを間違えてしまったことがあります。エスカレーターは非常に長く、逆走は不可能なので潔く裏口から降りて再入場しましたが、フランス語が全然分からない状態で店員に説明するのは骨の折れる作業でした。なので、もしこの劇場を訪れる際には、スクリーンの場所を間違えないようご注意ください。

閑話休題、『ダークナイト ライジング』は大盛況でした。開場前から、多くの観客がウズウズしながら門が開くのを待ち望んでいました。私のその仲間の一人でした。しかし映画の方は、ベインに囚われているはずのブルース・ウェインことバットマンが次のシーンで、都市に帰還している雑な展開が際立ち、かなりガッカリしました。飛行機アクションは好きですよ。飛行機アクションは。

遂に大傑作『インターステラー』現る

さて、2014年『インターステラー』である。この時、私はフランスに留学中であった。フランスでは、世界の話題作がいち早く観賞できる。それこそ、たまむすびで町山智浩が紹介するのと同時期に、また彼が紹介しない作品を楽しめる快感がありました。丁度、町山智浩が『インターステラー』のドラマティックな物語を解説していた頃、バカンスでチェコのプラハに来ていました。そこにはIMAXの劇場があり、なんと『インターステラー』が上映されているというのだ。どうやら公開初週だったらしく、CINEMA CITY
FLORAは大盛況。350席以上あるスクリーンのほとんどが売れており、最前列しか空いていませんでした。学生料金約750円という破格さに驚きつつ、いざ劇場へ。最前列は、まるでプラネタリウムや科学博物館のインスタレーションのような大きな作があり、見上げるようにしてノーランの世界へ飛び込みました。

そこには宇宙がありました。マシュー・マコノヒー演じるクーパーがワームホールを抜けようとする瞬間、まるでニール・アームストロングが月へと降り立つ時のような興奮が身体を支配しました。そして、生きるか死ぬか分からない緊迫感が、白銀に覆われた惑星に到達し、少し癒えていく。そして、伏線が一箇所に収斂していくカタルシスに涙しました。既に観ていた友人は、「クリストファー・ノーランのマスターピースだよ」と語っていたが、その通りだと思いました。『メメント』以降、5年以上ガッカリさせたクリストファー・ノーランとようやく和解した時でした。

社会人一年目『ダンケルク』

映画好きを10年近くやっていると、数年のサイクルがあっという間に感じる。つい先日まで、「クリストファー・ノーランの次回作は戦争映画だよ」と映画ファンの集い界隈で盛り上がっていたと思ったらもう公開日になっていた。社会人1年目、荒波に飲まれる私はTOHOシネマズららぽーと横浜という素晴らしい劇場を見つけて歓喜していた。そこで『ダンケルク』が上映されたのだ。当然観るは、IMAX。通路挟んだど真ん中でホイテ・ヴァン・ホイテマの世界を堪能する。『メタルギア・ソリッド』的修羅場に『エースコンバット』的空中戦。2010年代は、映画がゲームの要素を取り入れて来た時代だが、その時代性を汲み取り、手汗にぎるアクションをチェックポイントまで繋げていく演出は新鮮であった。

もうこの頃になると、自分なりのクリストファー・ノーラン映画との向き合い方が確立されている。彼は、理論とハッタリの監督だ。かつてヒッチコックは、自分のサスペンスに対して、「主人公の行動原理が気にならないぐらいに展開を次から次へと展開していくことが重要だ。」と行った論を語っていたがそれと同じである。彼の作品は長尺になりがちだが、体感時間はあっという間である。それは観客を飽きさせない、怒涛のストーリー展開をユニークな職人芸で魅せてくれるからだ。小難しく考えるよりも、世界に身を任せ、帰り道に反芻しじっくりと彼の知恵の輪を解くのが一番楽しい見方だと思っている。

というわけで『TENET』楽しみだ。繁忙期だけれども金曜日は午後休を取ることにしました。果たして、今回のクリストファー・ノーランはどんな世界を魅せてくれるかな?

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