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ウィリアム・キャッスル「STEP RIGHT UP!」感想

おはようございます、チェ・ブンブンです。

みなさんは、ウィリアム・キャッスルをご存知だろうか?

ウィリアム・キャッスルは映画に様々なギミックを持ち込んだ監督である。13ゴーストでは赤いセロファンが貼られた3Dメガネをかけると幽霊が浮かび上がり、青のセロファンが貼られた3Dメガネをかけると幽霊が消えるギミックを導入した。『第三の犯罪』では映画が怖くて途中退場した場合に全額返金されるキャンペーンを行った。

彼の考案するギミックの数々は、テクノロジーを使って様々なスペクタクルを生み出せる今にも有効なものが多いと考えている。当時は物理的制約があり1回限りの演出となってしまったものも、応用すれば映画の興行やVTuberの配信演出、音楽ライブの演出に活用できるのではないだろうか。

今回、ウィリアム・キャッスルの自伝本「STEP RIGHT UP! I'M GONNA SCARE THE PANTS OFF AMERICA」を読んだ。洋書を通しで読むことはあまりないのですが、簡単な英語とマーティン・スコセッシ映画ばりの軽妙な語りが面白く読破することができました。

軽く感想について書いていく。

軽妙な語り

ウィリアム・キャッスルはオーソン・ウェルズと関係を築くため、ドイツ語もできないのにドイツ語劇「Das ist nicht für Kinder(お子様向けではございません)」があると語り、急いで脚本を作らなくなる。

その時の文章をみてみましょう。

 "I'll tell you what, Mr. Castle," he said politely. "This is Friday, You bring in the play Das Ist Nicht für Kinder on Monday at noon, with a cast of forty, tailored especially for Miss Schwanneke, and I'll take it before the board of directors."   
 "Yes, sir, I'll be here with the play."
 Now, all I had to do was write the goddamn thing! It was 3:00 P.M. and there was no time to lose. Racing to my one room on Riverside Drive, I tried to figure what kind of play could be written by 12:00 Monday.
 Four P.M. I started to write. One hour later, the title was completed-Das Ist Nicht für Kinder, written by Ludwig von Herschfeld. That name sounded as good as any. A new German playwright was born.
 Six pots full of coffee and forty-eight hours later, the play was written. It had the forty characters.
訳:
「こうしましょう、キャッスルさん 」と彼は丁寧に言ったんだ。「さて金曜日だ、月曜の正午に戯曲"Das Ist Nicht für Kinder"を持ってくるんだ。40人のキャストでだな、特にシュヴァンケ嬢を立ててくれよな。そしたら理事会前に出すぞ。」  
「了解です、お芝居を持っていきます。」

 さて、あとは原稿を書くだけだ! 今や午後3時、残された時間はわずか。リバーサイド・ドライブにある私の部屋に駆け込み、月曜日の12時までにどんな戯曲が書けるか考えてみた。 
 午後4時、私は書き始めた。1時間後、タイトルは「Das Ist Nicht für Kinder(ルードヴィヒ・フォン・ハーシュフェルド作)」に決まった。新しいドイツ人戯曲作家の誕生だ。 
 ポットいっぱいのコーヒー6杯と48時間後に、この戯曲は書き上げられた。40人の登場人物がそこにいた。

「STEP RIGHT UP! I'M GONNA SCARE THE PANTS OFF AMERICA」p20より引用

ウィリアム・キャッスルの人生は、突然の閃きと修羅場が疾風怒濤駆け抜けているのだが、文章から刻一刻と迫るタイムリミットが伝わってきており、読んでいて手汗握るものがある。英語も比較的ライトな単語を使っているので、スルスル読める。楽しい。

観客投票型映画『ミスター・サルドニクス』

『ミスター・サルドニクス』

ウィリアム・キャッスルはミスター・サルドニクスにおいて、エンディングを観客に決めさせるギミックを取り入れた。観客に紙を配る。終盤に、ウィリアム・キャスルが観客に劇場で配布された指を突き立てた紙の説明をする。サルドニクス氏にハッピーエンドをもたらすかバッドエンドをもたらすかを観客に決めさせるのだ。

このギミックは、ラストシーンを巡ってコロンビア社と揉めたことで考案された。ハッピーエンドを望むコロンビア社に対してバッドエンドで行きたいウィリアム・キャッスル氏は、投票システム”The Punishment Poll”を採用し、結末を観客に委ねた。そして観客はウィリアム・キャッスルの味方をしたのだ。

ウィリアム・キャッスルは逆境やトラブルに見舞われた時に「これは新しい挑戦のチャンスだ!」と考える。決して、映画会社の言いなりになるのではなく、制約の中でどう面白い演出ができるのかを常に考えているのである。

これはビジネスマンとしても重要なことである。サラリーマンをしていると様々な修羅場を迎える。それをどのように面白いものへと変えて、唯一無二なものを生み出していくのかをウィリアム・キャッスルから学ばされる。

結局、彼は映画史から忘れ去られてしまった。「死ぬまでに観たい映画1001本」には彼の映画は掲載されていないし、映画監督名鑑にも載ることはない。しかし、『Zotz!』で観客に映画の魔法を信じてもらうために魔法のコインを配布したり、『13 Frightened Girls』では日本を含め、世界中から若い葉女優を集めて各国バージョンの映画を作ろうとした。当時は、その映画限りの演出に終わってしまったが、映画の応援上映やライブビューイング、参加型の子ども映画が当たり前となった今、ディズニー映画で各国版の主題歌が作られたり看板が各国版に差し替えられたりする今を先取りした演出を発明した。だからこそ、今ウィリアム・キャッスルを再評価する必要があると感じた。

『ローズマリーの赤ちゃん』 裏話

本書を読むと、ロマン・ポランスキーの名作『ローズマリーの赤ちゃん』をウィリアム・キャッスルが監督する予定だったことを知った。映画会社の意向で、彼はプロデューサーとして製作に携わることになる。

今まで、映画監督やプロデューサーの板挟みになりながら自分のやりたい仕事を実現してきたのだが、ロマン・ポランスキーとの仕事はやりにくかったそうで満足いく仕事ができなかったことが伺える。しかも、映画は成功したが彼が出世することはなく、細々とB級映画を作り続けていた。

Shanksで共演することとなるパントマイム・アーティスト、マルセル・マルソーと会った際に「君の映画良かったよ。『ローズマリーの赤ちゃん』いい仕事だったね。」と言われているのだが、その時の複雑な気持ちが読み取れ、結構辛い思い出なんだなと感じた。

本書は邦訳されていないのですが、面白い内容かつ、エンターテイメントビジネスに活用できそうなアイデア盛りだくさんなので、興味ある方は是非手にとってみてください。

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