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是々非々ニュートラル / 創作

" 海月に脳みそはないから…… " から始まる構文を道端に咲くタンポポくらい目にしてきたけれど、ここ最近 海月も海月なりに悩んだりするのでは? なんてことを考えるようになってきた。あれだけ狭苦しい円形水槽の中にぎゅうぎゅうに押し込められているのを見ると、それが妙にリアリティで見ているこちらが息苦しく感じてしまう。
同じような話で「魚には痛覚なんてものはないから、痛みは感じない」と言われている。たった一度だけ、昔の恋人に連れられて行った海鮮料理屋で見た魚の顔。今まさに〆られている青魚の顔は間違いなく苦しそうで、その頃からそいつと生魚が揃いに揃って苦手になってしまった。私たちと同じような痛みはないにせよ、刻一刻と続いていた呼吸を即時的に止めてしまうのだから、何かしらの苦しみみたいなものはあるはずなのだ。この真相が気になって気になって仕方がない割には、如何せん生魚そのものが怖いが為に突き詰めることができない。昨日も今日も、そしてこれからも、きっとできないと思う。
パッキングされた加工済みの魚の切り身を手に取りながら、私という人間は酷く愚かだ、と思ったりしている。

" 常連 " という称号を欲しいが為にバイトの合間を縫って近所のカフェへ頻繁に通っていた。始めこそ日替わりのケーキセットなどを頼んでいたけれど、こうしていると料金が馬鹿にならないのはもちろんのこと、 " いつもの " という文言はまかり通らなくなるから、アイスティー一択へと注文は移行していった。ガムシロップや砂糖といったサービスは申告制だったからここで印象づけてやるしかない、と思いながらアイスティー1杯あたりスティックシュガーを4本、といった具合に頼み続けた。半年が経った頃にやっと「いつものですね」という言葉を貰い、常連認定を果たす。私が入店すると水とおしぼりと共に、小さな編みかごの中にスティックシュガーが4本入った状態で出てくるようになったのだった。
たった漢字ふた文字で収まる称号を貰うために費やした半年間、週3から週4の頻度。日にちに直せば700日ほどにもなる。長いスパンで大量のミルクティーを浴び続けた身体は限界だったらしく、糖尿病予備軍の診断を受け、前線撤退を余儀なくされた。本当に、愚かなのだ。1周まわってカフェの方々には糖尿病云々で有名になってしまい、だいぶ気を遣わせてしまった。悲しいことに甘ったるい食べ物はもちろんのこと、飽和脂肪酸もアウト!と告げられてからというものチーズや肉も食べられなくなり、こうして苦手な生魚を手に取りながら買い続けている。

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