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#1「背景」”ただでは転ばない”

”あくまでもあなたがやめろとおっしゃられたために辞めるだけですので。”

ある日、SNSをチェックしていると、友人Mの投稿が目に留まった。

投稿の内容としては ”パワハラにあって会社を辞職した” という旨のもので、以前彼女とは同じ職場で働いていたこともあったため、良ければ、と彼女を食事に誘った。

詳しい日程等を電話で話していると、パワハラでやめたのは事実だが、自ら交渉をして提示された額の4倍の解決金を取り付けたとのこと。

興味を持った私は食事の代金を持つという約束で
彼女に取材をさせてもらうことにした。


ハラスメントの渦中へ


久しぶりに再会したMさんは想像よりも元気そうでけろっとしていた。

以前、一緒に働いているときもかなりあっさりした性格だったが、その雰囲気は健在で、パワハラでの退職を感じさせないほどだった。

軽い世間話をして、退職に至った経緯を尋ねた。

きっかけ


Mさんはとある下請け企業の事務職に新卒で就職。職場環境としては女性がほとんどで、先輩との相性も良かったが、従業員は少なく、風通しも悪い、”上が言うことは絶対” という雰囲気を持つ会社だったという。

それでも先輩や直属の上司は仕事を丁寧に教えてくれる環境にあったこともあり、着実にMさんも業務を覚えることができたという。

そんな中、Mさんが働き始めて少し経った頃。
”それ” は始まった。

きっかけはMさんが直属の上司に自分の体調についての相談をしたことだった。Mさんからの相談を受け、判断に困った上司はそのことをさらに上の役職者(以下A)に相談をしたのだという。

内容は自身の体調面で始業時刻や出勤に障りが出る可能性があるため、
そういった場合はどのような対応をしたらいいか、というもの。

現場判断だけでは答えることが難しかったのだろう。

それから数日後。
MさんはメールにてAに呼び出された。

Aからの話の中にはMさんの相談した内容も含まれてはいたが、
本質は一方的な難癖だった。

その中でも特に以前Mさんが取得した生理休暇が気に食わない様子だったという。

Mさんは ”体調のことだから” と配慮を求めたが、Aは話を逸らして難癖を続け、次第にAの話はMさんの人間性を否定するものへと発展していった。

ひとしきり言い終えたAはMさんに当月分の給与の前払いとの引き換えに当日中に退職するよう促したという。

事態の異常さを感じたMさんはその日のうちにパワハラの相談センターに連絡をし、一連のやり取りについての確認をしたという。

この時点ではあまり事態を深刻には捉えていなかったMさんだったが、相談員より「その話は労働基準監督署の管轄になるので…」と労働基準監督署へ相談するように促され、そこで初めて自分の置かれている状況の深刻さを理解したという。

結局労働基準監督署への連絡はせず、話し合いを続けたMさん。しかし、その後も退職を促すようなAとのやりとりは何度もあり、Mさんは二回目の退職勧告で退職を決意した。

小さい規模の会社でAとの関係を完全に遮断することは難しく、また、この現状もより悪い方向へエスカレートしていくと確信したことが理由だった。

「 話が通じる相手じゃないし、”金を払うなら辞めてやる” って啖呵切ってやりましたよ笑 」

「 生理休暇を取ったくらいで会社に大きな損失はないと思うんですけどね」

とMさんは笑っていた。

交渉

 
退職に当たっての待遇についての話し合いは幾度も重ねられたそのやり取りの最中で行われた。

最初にAから呼び出された際のやり取りではAから”再就職のための資金”という名目で試用期間内相当分の給与を支払う代わりに自己都合の退職をするように促された。

その後のやり取りでMさんがAに対し ”就職活動にかかる分の給与を出すのは本当か” と尋ねると、Aは交渉次第では当初の2倍までは検討しても良いと言った。

企業側として迅速な事態解決を望んだのだろう。

それを受けたMさんは再就職の資金にかかる相当分であるとして当初の"4倍"の額を請求。退職も会社都合であると主張。

今後も交渉が続くかと思われたが、後日Aから、
Mさんの要望を全て受け入れる旨のメールが届いた。

Mさんは、金銭面や退職の期日について、会社側はあくまで ”試用期間” という範囲内で退職をさせたい” という考えで設定をしているのだろうと推測していたという。

しかし、やり取りを重ねていくうちにAが ”(当初の)2倍まで出せる” と試用期間を超える期間相当の給与を言い始めたことから、”会社側も(費用を)上限なく出せるのではないか” と考えた。

そこで、再就職までの支援金なら、とMさんが実際に就職活動のために費やした期間分(最初に提示された額の約4倍相当)を請求した。

実際に就職には同程度の時間はかかっていたが、税金での手続き等も考慮した上での交渉だった。
 
それを受けAは、”辞めるうえで今までの反省などはなかったのか”
”今まで自分(A)が注意したこと(人間性など)についての反省はなかったのか” などとMさんをなじったという。

それに対しMさんは

「  ”あくまでもあなたがやめろとおっしゃられたために辞めるだけですので。”と言ってやりましたよ 」

と飄々と語り、紅茶を飲んだ。

今回のパワハラについては、早めに見切りをつけたこともあり、大きな精神的なダメージはないとのこと。現場の人間環境が良好で精神的な逃げ場になっていたこともあるようだ。

解決金と失業保険でしばらくはゆっくりしようかな、と
Mさんはにやにやと呟いていた。

#2「背景」 ”ハラスメントの変化” に続きます。

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