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熊のワーブの物語

息子が冬休み中に読んでいた一冊に、シートン動物記の灰色熊ワーブがありました。私も昔シートン動物記は好きで読んだなぁ~と思いつつ、軽い気持ちで先日読んでみたら、子どものときと違う感想が色々と湧いてきて、すごく心に沁みました。

子どもの時は、シートン動物記といえばオオカミ王ロボの話が印象的で、未だに話をよく覚えていますが、熊のワーブの話は正直なところあまり覚えていませんでした。でも、今回は何日か経っても思い出してしまいます。そのくらい、深い話でした・・。

どんな話か書いてみます。思いっきりネタバレしますのであしからず。

ワーブは3兄弟の末っ子で、優しい母熊と楽しく暮らしていたのですが、人間に銃で撃たれてワーブ以外みんな死んでしまいます。ワーブは餌の取り方も何も教わっていない子熊のうちから、誰にも頼れずに一人で考え、何度も怪我をしながら必死に生き、その地域の動物の中で一番大きく、強く、賢い熊になっていきます。人間からも、罠にかかっても開けてしまうし、怒ると人も殺してしまう恐ろしい熊なので一目置かれる存在になります。誰しもワーブが森の王者だと認めるのです。

ワーブは戦いが好きではないけれど、幾度か死に瀕して、戦わなければ平穏な生活ができないと学び、いつも一人で戦います。でも必要ないときは戦いません。温かい環境は王者になっても一切ありません。友達も、家族も、誰もいません。

段々ワーブも年を取っていき、幾度も怪我した古傷が痛むようになってきます。体調の悪い日が増え、温泉を見つけて、その温泉に入って痛みを消しながら生活するようになります。

そんな時、ワーブよりずっと小さく若い熊が、なわばりの中に現れます。ワーブとその熊は会ったことはありませんが、お互いに臭いで存在を知っています。若い熊は、もしワーブに会ってしまったら一撃で殺されてしまうでしょう。でも若い熊は会わないように逃げながら、ワーブの臭いがついている木に、何かの上に乗って、わざとワーブより高いところに臭いをつけるのです。それで、ワーブは自分のなわばりの中に、自分より大きい熊がいるのだと思うようになります。

ある日ワーブは、戦えば勝てる相手とは知らず、その臭いの熊と戦うのが怖くなり、自分のなわばりの一か所を後にします。戦ってもいないのに、自ら負けたのです。その日を境目に、その場所だけでなく、他の場所も、餌の取れる場所は全て若い熊の臭いがあるので、ひとつ、またひとつと行けない場所が増えてきます。

もう、ずいぶん遠い所へ移動しなければ餌をとれなくなってきました。その途中に、毒が噴き出す場所があり、以前のワーブならそこで毒が危険だとすぐに察知し回避するのですが、ワーブは、もう遠い所へいくのが億劫になってきて、そこで横たわって寝たくなってしまうのです。それが一生の終わりになるとも知らずに。

こういうお話なのですが、もう私にはこれは熊のお話とは思えませんでした。まず周りがみんな敵の中で、家族を亡くした小さい子が一生懸命生きていって、誰よりも苦労して、一番強く賢く育った時点で号泣ですが、そういう強さを誇る熊でも、老いは、自分自身に負けるところから始まるのだなと思いました。

若い熊に世代交代するときが来るのは必然かもしれませんが、戦えば老いていても実力はあるのに、自ら諦めたり、やる気を出せなかったりすることが負けを決定づけてしまうのですね。相手に負けるというより、自分に負けるところから始まるのです。人間もそういうものなのかもしれないなあと思いました。

そして、若い熊は、体の大きさも、強さも全然勝っていないのに、賢さだけで森の王者となりました。それも含蓄あるエピソードですよね。

ワーブは、王者になっても幸せな時はありませんでした。だって、家族もいないし、友達もいないし、誰かに優しくされることは一度もないまま死んでいったのです。そんなワーブと自分や色んな人の人生を重ねて色々と考えてしまいます。

たった80ページ程度の平易な文章の物語に、人生のすべてがギュッとつまった、ものすごいストーリーじゃないでしょうか。シートン動物記は本当に名作ですね。ほぼ実話というのもすごいです。動物も、人間も、死に物狂いで一生懸命生きて、そして老いて死んでいく様は変わらないですね。




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