見出し画像

I love 陣内♡『チルドレン』

※注 ネタバレあり


小説の登場人物に"惚れる"ことがある。

トップバッターは、伊坂幸太郎 著『チルドレン』陣内。

陣内は全くもっておすすめできる人物ではない。滅茶苦茶な理屈で相手を黙らせ、言い切る様はとてもじゃないが尊敬できない。(それどころか つっこみ所が多すぎて脱力してしまう。漫画によくある、目が横線一本の状態になる)

たとえば、こうだ…

眼鏡の行員は、「営業時間は終わりなんです」と必死に説明をしていた。傲慢さを感じさせない物腰の柔らかい対応で、好感が持てた。     「客が来たのにシャッターを降ろすとはどういうことだよ」と陣内はいきり立っていた。「三時ぴったりに閉める必要性がどこにあるんだよ。今、ここで三時ちょうどに営業を終了することで、誰が得をするんだよ。俺を追い出して、誰が幸せになるんだ。教えてくれって」
「急用でいらっしゃいますか」眼鏡の行員は、弱々しい口調だった。二十歳にもならない若造である陣内を邪険にもしない。客商売の鏡だった。「急用なんだよ」陣内は声を荒らげる。    鴨居は内心で溜め息をついた。陣内がやりたいのは、振り込まれたばかりのバイト代を授業料支払いのために引き出す。それだけのことだった。銀行が閉店しても、現金自動支払い機は使えるのだから、むきになる必要はまったくないはずなのに、陣内は引き下がろうとしなかった。    「閉店時間が何だって言うんだよ。時間よりも客のほうが大事だろ。タイム・イズ・マネーと言うじゃないか。時間は金ってことは、金を預かるのが銀行なんだから、ここには時間だってあるんじゃないか。そうだろ?」

・・・・・・。               陣内の屁理屈をご理解頂くため、長めに引用しました。

物語の中でこういう場面がたくさん出てきます。

「これでどうして陣内に惚れるわけ?」

ご説明します。


理由その① 犬に一目置いている。いや、単純に 大好き。いや、やっぱり、尊敬に近い。

「盲導犬ってのは賢いんだっての。座ってろ、と言われたらずっと座ってるんだからな。すげえな、まさかあそこにいたとは思わなかった」
陣内は惚れ惚れした顔でうなずく。「盲導犬ってのは、賢いって言うけど、本当なんだな」とそれはまるで、友人の自慢をするかのような言い方でもあった。「な、鴨居、さすがだろ」                 「知らないよ」                                                     「知っとけよ」
陣内は、ラブラドールレトリーバーの身体に耳を当て、心臓の音を聞き、鼻が濡れているのを確認し、犬の健康チェックに余念がない。「犬がいると分かっていたら、もっと張り切ったんだけどな」とも呟いた。
おそらく陣内は、人間よりも犬に近いのだ。だいたいが陣内は、初対面の犬にも、「元気にしてたか?」と声をかける。まるで、旧知の人と再会したかのように。ああ言われると犬のほうだって、悪い気はしないのではないだろうか。

犬と陣内のエピソードが好きすぎて、たくさん引用してしまいました。            私自身、人間よりも犬寄りと自負している手前、陣内には大変共感する次第です。


理由その② 常人ばなれした発想力・行動力

ご理解頂くため、陣内の名言を集めてみました。

「パンクロックってのは、立ち向かうことなんだよ」
「何なんだ、陣内は」                                       「俺は俺だよ。鴨居」
「緊迫した空気を、歌が和らげるんだ」
「俺が優勝!おまえら、さっさと帰って寝ろ」
「大事なのは何を読ませるかじゃない。何かを考えさせることだ。」
「『絶対』と言い切れることがひとつもないなんて、生きている意味がないだろ」
「失恋した俺のために、今、この場所は時間が止まっている」
「世の中のことには全部興味があるからな」
「そんなの、関係ねえだろ」
「それは白じゃない。薄い黒だ」
「俺たちは奇跡をやってみせるってわけだ。ところで、あんたたちの仕事では、奇跡は起こせるのか?」
「そもそも、大人が格好良ければ、子供はぐれねえんだよ」
「いいか、これだけは言っておくけどな、俺は生まれてこの方、ダサかったことなんて一度もないんだよ」
「人が人を殴ると洒落にならねえけど、熊が殴る分にはいいだろ?」


どうですか?わかりませんね(笑)いいんです。でもちょっと気になりませんか?少しでも興味が湧いた方に、是非ともこの本を読んで欲しいです。 そして素敵な物語の中で躍動する、勇猛果敢な陣内を味わって下さい!            きっとあなたも陣内が好きになる。絶対に。


「読まないなんて、どうかしてるぞ」



※"登場人物に惚れる"シリーズ化しようかな…   求められてないけど…そんなの関係あるか?陣内の影響力、凄まじいな(笑)

この記事が参加している募集

#読書感想文

190,092件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?