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日本産酒類の「産地規定」にも種類が色々 《産地規定:後編》

■前回のまとめ

日本における「ワイン」「日本酒」「泡盛」「ウイスキー」は、どれもまずは『酒税法としてのお酒の定義』が誕生。

その後、それぞれのお酒の流通が増えとともに、『産地規制』が導入されたという歴史をたどっています。

しかし実は、それぞれのお酒で『産地規制の根拠』が異なります。

これについて今回、確認してみたいと思います!


■産地規定の根拠

日本ワイン、日本酒、琉球泡盛、ジャパニーズウイスキー。
どれも、「日本でつくらなければいけない」という産地規定があります。

ただ、その根拠(≒強制力)が、それぞれで異なります。

◇日本ワイン 2018年~ 
 法律(=果実酒等の製法品質表示基準)

◇日本酒 2015年~ 
 国税庁によるGI(地理的標示)指定

◇本場泡盛 1983年~ 
 公正取引委員会が「公正取引規約」を承認
※ この時に「泡盛」「本場泡盛」の文言使用を同時承認(それまでは沖縄の1972年の本土復帰以降は焼酎乙類に分類)

◇琉球泡盛 2004年~ 
 国税庁によるGI(地理的標示)指定 ほか 

◇ジャパニーズウイスキー 2024年~ 
 日本洋酒酒造組合による定義

それぞれの業界が歩んできた歴史が違うので、産地規定についても「法律」「公正取引委員会」「国税庁のGI指定」「業界団体の定義」といった違いがあるのだと思います!

それでは、最近、話題となっているGI(地理的標示)について、少し掘り下げて確認してみたいと思います。


■GI(地理的標示)とは?

オフィシャルな説明を引用します。

◇地理的表示(GI)保護制度とは(農林水産省)

「地理的表示保護制度」は、その地域ならではの自然的、人文的、社会的な要因の中で育まれてきた品質、社会的評価等の特性を有する産品の名称を、地域の知的財産として保護する制度です。
ビジネスにおいては、その地域ならではの要因と結び付いた品質、製法、評判、ものがたりといった、産品の強みや魅力が見える化され、国による登録やGIマークと相まって、効果的・効率的なアピール、取引における説明や証明、需要者の信頼の獲得を容易にするツールになります。
農林水産省は、本制度によって、国内外における模倣品対策によりGI産品の名称・ブランドを保護するとともに、GIマークという統一ロゴの下、成功事例の横展開、市場展開を通じ、GIそのものの認知を高め、「GIブランド」を確立してまいります。

農林水産省HPから引用

地理的表示(GI)保護制度:農林水産省 (maff.go.jp)


酒類の地理的標示(国税庁)

酒類の地理的表示制度とは、地域の共有財産である「産地名」の適切な使用を促進する制度です。
お酒にその産地ならではの特性が確立されており、産地からの申立てに基づき、国税庁長官の指定を受けることで産地名を独占的に名乗ることができます。
産地にとっては、地域ブランド確立による「他の製品との差別化」、消費者にとっては、一定の品質が確保されていることによる「信頼性の向上」という効果があります。
WTO(世界貿易機構)の発足に際し、ぶどう酒と蒸留酒の地理的表示の保護が加盟国の義務とされたことから、平成6年に国税庁が制度を制定。平成27年に見直しを行い、すべての酒類が制度の対象となりました。

国税庁HPより引用

酒類の地理的表示|国税庁 (nta.go.jp)


■日本ワインのGI指定

日本でつくられた葡萄100%でつくられるワイン(もっと細かい規定もありますが)が『日本ワイン』ですが、その中でも5地域が「その土地特産の日本ワイン」として、国税庁からGI指定を受けています。

◇日本ワインのGI指定

・山梨県
・北海道
・山形県
・長野県
・大阪府

お酒の地理的表示(GI)とは?|日本ワインを学ぶ|JWINE 公式サイト

失礼ながら大阪府って、ちょっと意外ですね。


■日本酒のGI指定

日本ワインと同様に、日本でつくられた米100%でつくられる清酒(もっと細かい規定もありますが)が『日本酒』ですが、その中でも「その土地特産の日本酒」として、国税庁からGI指定を受けているのが、下記の通りです。

さすが、日本酒はワインよりも日本国内での歴史があるだけに、登録地が多いです!

◇日本酒のGI指定

・新潟
・山形
・利根沼田(群馬県)
・長野
・山梨
・白山(石川県)
・三重
・滋賀
・はりま(兵庫県)
・灘五郷(兵庫県)
・萩(山口県)
・佐賀

日本酒の地理的表示(GI) - 日本酒 |日本酒造組合中央会 | JSS (japansake.or.jp)

新潟や、灘(=灘五郷)が入っているのは、やっぱり!という感じです。

ただ、伏見(京都府)って、入っていないんですね。
これも意外・・・

あと、山形・山梨・長野は、「日本ワイン」も「日本酒」もGI指定されている『2冠達成』です!

県がお酒や県産品へのブランディングに熱心なのかも知れませんね。


■ジャパニーズウイスキーの国内GI指定

まだ、都道府県別などでGI指定をされているケースはありません。

それは、ジャパニーズウイスキーの定義が2024年4月から正式に始まったところという歴史の短さが影響していると思います。

また、「穀物のお酒」は「果実のお酒」よりも、原材料の産地が酒質に与える影響は小さくなりがちです。
そして、「蒸溜酒」と「醸造酒」と比べると、蒸溜酒の方が、製造産地が酒質に与える影響は小さくなる傾向があります。

そういった意味では「穀物のお酒」の「蒸溜酒」であるウイスキーは、原酒(ニューメイク)ができた時点では、原材料の生産地の影響は受けづらいと言えます。(もちろん影響は受けるのですが、影響を受ける程度が「果実のお酒」とはかなり異なります。)

ただ、ウイスキーには木樽熟成があります。
熟成は、環境(=産地)の影響をモロに受けます。

そういった意味では、スコットランドの「スペイサイド」「ハイランド」「アイラ島」のように、日本でも近い将来、「HOKKAIDO」とか「Mt.FUJI side」とか、ウイスキーに産地区分ができるかも知れませんね!


■ウイスキーの熟成環境と人的管理

最後にちょっと話がズレてしまいますが、ウイスキーの熟成では(主にバーボンにおいて)熟成庫をヒーターで暖めたりすることがあります。

また、バーボンの話ではありませんが、熟成環境の湿度を管理することもあります。
これは以前に記事化しています ↓
あれれ?もうやってるじゃん!?《熟成庫の湿度調整》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

地球温暖化など様々な要因もあるとは思いますが、ウイスキー熟成環境の「気温調整・湿度管理」が高度化すると、「狙った味わいが作り出せる楽しみ」が増える一方で、「その土地ならでは」を感じづらくなる可能性もあるのかなと思います。それは、少し寂しいですよね。

ウッドフィニッシュ(後熟)させる場合には、「シェリーカスクフィニッシュ=最後にシェリー樽に入れて仕上げました!」とか製法を飲み手に伝えることがほとんどです。

同様に「気温調整・湿度管理」するなら、『気温調整しました!』とか『湿度調整しました!』とか、情報がきちんと飲み手に伝わると良いなーと、個人的には思います。

もちろん根底には、「美味しいウイスキーをつくり出したい」という情熱があった上でのお話ですが!

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