見出し画像

珍しいタイプのグレーンウイスキー(ポットスチル蒸溜)

■一般的なモルトウイスキーとグレーンウイスキ-の定義

【A】
・大麦麦芽(モルト)100%
・単式蒸溜器(ポットスチル)で蒸溜。
 → モルトウイスキー

【B】
・大麦以外の穀物(小麦・トウモロコシetc.)が主原料
・連続式蒸溜機で蒸溜。
 → 一般的なグレーンウイスキー

【C】
・大麦麦芽(モルト)100%
・連続式蒸溜機で蒸溜。
 → 珍しいタイプのグレーンウイスキー①(カフェ式モルト等)

【D】
・大麦以外の穀物(小麦・トウモロコシetc.)が主原料
・単式蒸溜器(ポットスチル)
 → 珍しいタイプのグレーンウイスキー②

前々回と前回は、この中の【C】の「珍しいタイプのグレーンウイスキー①」について、カフェ式モルトを中心にお話しさせていただきました。

創業者:竹鶴の流れをくむ珍しいスペック! 『ニッカ・カフェモルト』|チャーリー / ウイスキー日記|note

カフェ式モルト 新しい展開|チャーリー / ウイスキー日記|note

今回は、【D】の「珍しいタイプのグレーンウイスキー②」を解説させていただきます。


■なぜ大麦麦芽以外を使いはじめたの?/ビール編

そもそもウイスキーづくりは、【A】の「大麦麦芽(モルト)100%」を、「単式蒸溜器(ポットスチル)で蒸溜」する製法がはじまりです。

では、この「大麦麦芽(モルト)100%」ではなく、【D】「大麦以外の穀物(小麦・トウモロコシetc.)が主原料」で「単式蒸溜器(ポットスチル)で蒸溜」するというウイスキーづくりは、どこで、どういう理由からはじまったのでしょうか?

普通に考えれば、「そこに大麦以外の穀物があったから」という答えが導き出されそうです。

例えば、大麦麦芽(モルト)100%が原料であるドイツ・ビールですが、ドイル南部のバイエルン地方ではヴァイツェンという淡い色味のビールがあります。
これは、小麦麦芽を原料の50%以上使用しているビールで、白みがかっていることが多いです。そして、小麦由来のやさしいフルーティーな味わいが特徴で、女性にもとても人気です。
ビール純粋令のドイツで、小麦麦芽を入れて良いのか?という声も聞こえて来そうですが、このヴァイツェンが美味しすぎて、「王家のブルワリーだけ小麦麦芽を使ってOK」という、ちょっとずるい法律があったそうです。


■なぜ大麦麦芽以外を使いはじめたの?/ウイスキー編

この「そこに大麦以外の穀物があったから」パターンのウイスキーづくりは、バーボンがそうです。
アメリカンウイスキーは、もともとは入植がはじまったアメリカ東部において、ライ麦がよく採れたため、それを原料にしたライウイスキーがメインでした。
その後、西部へと入植が進む中、トウモロコシがよく採れるケンタッキー州付近でトウモロコシがメインのバーボンウイスキーが生まれ、ライ麦よりも柔らかい味わいが受け、その後のアメリカンウイスキーの中心となりました。
ちなみに、アメリカでは現在、再びライウイスキーの人気が高まっています!

でも、【D】「大麦麦芽以外の穀物(小麦・トウモロコシetc.)が主原料」で「単式蒸溜器(ポットスチル)で蒸溜」するというウイスキーづくりの「はじまり」は、ちょっと様子が異なります。

簡単にいうと、それは「税金対策」だったのです!


■お酒と税金

『お酒』というものは、「生活に根付いた、歴史がある嗜好品」であるが故に、税金を掛けられやすい代表的な商品です。世界各国では、昔から重要な税源として酒に税金を掛けてきました。

アメリカでは、1783年の独立戦争終結の直後、国の債務を減らすため1791年にウイスキーに課税がはじまりました。しかし、1794年にはウイスキー戦争という大規模な反乱がおこります。この反乱に対してアメリカ政府が動員した兵力は、独立戦争とほぼ同数と言われるほど、とても大きな騒乱でした。

日本では、1899年(明治32年)に酒税が、地租を抜いて国税の税収で第一となります。そして、1902年(明治35年)には国税に占める酒税が36.0%に達し、酒税収入割合のピークに達します。
その後、税制も多様化し、現在は国税・地方税の合計に対して、1%程度となっており、その重要性は薄れていますが、日本でも、世界各国でも、100年ほど前までは、酒税は政府にとって切っても切り離せないものだったのです!

そして、ウイスキー発祥の地と言われ(まだスコットランド説との論争の決着はついてないですが)、1900年頃まで、スコットランドよりも圧倒的なウイスキー生産シェアを誇っていたアイルランド
そのアイルランドでは、もちろんウイスキーに税金がかけられました。具体的には、「原料である大麦麦芽」に対して、高い税金がかけらたのです!

大麦麦芽(=大麦を発芽させた後に乾燥させて「酵素力」と「保存性」を持った大麦)に対して高い税金がかけられたわけですから、どうにか節税しようと考えるのが人の常。

そこで編み出した裏技が、

・大麦麦芽
・収穫したままで麦芽にしていない大麦
を混ぜ合わせて使用するという製造方法です!

なんか、今までビールしか存在しなかったけど、「ホップスという発泡酒をつくりました!」的な発想ですね。

そして、アイルランドで「ポットスチル蒸溜」によって、「大麦麦芽」+「麦芽にしていない大麦」+「その他の穀物」からつくられるウイスキーを、『ポットストル・ウイスキー』と呼びます。

・アイルランドの法律で定義するポットスチル・ウイスキーは、各穀物の使用比率や、大麦麦芽は「ノンピート麦芽」でないといけないなど、細かな規定があります。
・「麦芽にしてない大麦」は、『大麦麦芽』と区別するため、「生の大麦」「未発芽の大麦」などとも表現します。

この、ポットスチル・ウイスキーという呼び名やカテゴリーは、「アイルランド」にしかありません。
そして、普通は、アイルランド以外では、こういう「大麦以外の穀物(小麦・トウモロコシetc.)が主原料」で「単式蒸溜器(ポットスチル)で蒸溜」することはありません。

それにしても、ポットスチル・ウイスキー、聞き慣れない名前ですよね? もし、すでにご存じでしたら、相当なウイスキー通かと。。


■ポットスチル・ウイスキー=珍しいタイプのグレーンウイスキー②

このアイルランドの「ポットスチル・ウイスキー」は、「スコットランド」の法律では、「グレーンウイスキー」となります。
そして、今回の記事の最初に記載しているタイプでは、【D】=珍しいタイプのグレーンウイスキー②に該当します!

次回は、この「珍しいタイプのグレーンウイスキー②」のポットスチル・ウイスキーについて。もう少し詳しくお話ししたいと思います!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?