創業者:竹鶴の流れをくむ珍しいスペック! 『ニッカ・カフェモルト』
■一般的なモルトウイスキーとグレーンウイスキ-の定義
前回のおさらいです。
今回は、この中の【C】の「珍しいタイプのグレーンウイスキー①」について、解説させていただきます。
■カフェ式? CAFFEE式??
このスペックの代表的な商品では、ニッカの「カフェモルト」があります。
このカフェとは、スタバのようなCOFFEE(カフェ)ではなく、COFFEY(コフィー)のことで、人の名前です。
コフィーさんは、イーニアス・コフィーというアイルランド人で、商業的に使えるレベルの連続式蒸溜機(コフィー式スチル)を開発した人の名前です。
カフェ式スチルですが、日本人初のウイスキー技師:竹鶴政孝さんが、最初のスコットランド留学で、実際に操作を学ばせてもらった連続式蒸溜機となります。イコール、日本人が初めて学んだグレーンウイスキーの蒸溜機です。
ちなみに、ウイスキーの教科書では「コフィー式スチル」と書かれていることが多いですが、竹鶴さんが「コフィー式」でなく、「カフェ式」と呼んできたため、現在の日本ではコフィー式でなく、カフェ式という呼び名の方が一般的になっている感じがします。
また、このイーニス・コフィーさんが発明した連続式蒸溜機は、開発当時に「特許(パテント)」を取ったため、パテント・スチルとも呼ばれます。
このカフェ式の連続式蒸溜機で、原材料に大麦麦芽100%を使用した商品が、ニッカ・カフェモルトです。
・正確には、宮城峡のカフェモルト原酒に加え、ニッカがスコットランドに所有するベン・ネヴィス蒸溜所のモルト原酒を輸入し、宮城峡のカフェスチルで再蒸溜した原酒を含むそうです。
・繰り返しますが、連続式蒸溜機を使用しているため、麦芽100%であったとしても、スコッチウイスキーの法律においては、グレーンウイスキーに定義されます。(日本ではそのような法律はありません)
■竹鶴政孝のカフェ・グレーンへのこだわり
竹鶴さんは、余市蒸溜所(1936年)=モルト蒸溜所の次は、「このカフェ式スチルのあるグレーン蒸溜所を!」と考えますが、連続式蒸溜機は、「やかん」的なポットスチルに比べて、巨大なコンビナートのようなもので、ケタ違いに導入費用が掛かります。
実際に西宮工場のコフィー式スチルを導入できたのは、1963年(蒸溜開始は1964年)となります。これには、当時、ニッカの株式の過半を取得していた当時の「朝日麦酒会社社長の山本為三郎さんが、積極的に援助してくださった※1」と竹鶴自身の著書に書かれています。
※1 ウイスキーと私(竹鶴政孝著)P158
連続式蒸溜機では、さらに純度を高められるアロスパス式というものもあります。サントリー知多蒸溜所などで導入されている連続式蒸溜機です。
こちらの方が、よりクリーンな酒質の原酒を得られますが、逆にカフェ式の方が、ポットスチルまでではないものの、連続式蒸溜機の中では「原材料の穀物の風味が残りやすい」という特徴があります。
竹鶴は、このカフェ式スチルに、かなりのこだわりがあったようで、「熟成カフェ・グレーンのおかげで、一級のウイスキーでも、さらにうまいと自負できるものが生まれた※2」と語っています。
※1 ウイスキーと私(竹鶴政孝著)P159
■竹鶴の意志を引き継いだ新しいチャレンジ、ニッカ・カフェモルト
このニッカ・カフェモルトのスペックは、「大麦麦芽を、連続式蒸溜機で蒸溜」するもので、大変珍しいスペックです。
基本的に、スコッチウイスキーや、ジャパニーズウイスキーでは、こういったつくり方はしません。
カフェモルトには、ニッカ創業者から引き継がれる、このカフェ式蒸溜機に対する並々ならぬこだわりを感じます!
■カフェモルトを生み出す日本のウイスキーづくりの多様性
スコッチウイスキーづくりには、なかった発想=「大麦麦芽(モルト)100%、連続式蒸溜器で蒸溜」が日本で生まれたことは、日本のウイスキーづくりの「多様性」、「自由度の高さ」「チャレンジ精神」と示すものではないでしょうか?
この珍しいスペック「カフェ式蒸溜機でつくられる、大麦麦芽100%」のカフェモルトは、新しい展開が始まっています。
次回の記事で、もう少し解説してみたいと思います。
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