見出し画像

ブレンディッド・ウイスキー時代がもたらせた『分業化』の影響とは?


■前回までのまとめ

・モルトウイスキーは、もともとブレンドされることなく、そのまま飲まれていた。
(今でいうところのシングルカスクのカスクストレングス)
・樽ごとによる味のバラつきがあったので、モルトウイスキー同士をブレンド(ヴァッティング)するようになった。
(今でいうところの、ブレンディッド・モルトウイスキー)
・安価に大量生産できるグレーンウイスキーが誕生し、モルトウイスキーとグレーンウイスキーをブレンドするようになった。
(今でいうところの、ブレンディッド・ウイスキー)
・こうして19世紀後半から20世紀のはじめにかけて、ウイスキーといえば「ブレンディッド・ウイスキー」を指すような、圧倒的ブレンディッド・ウイスキーの時代が到来。

『ブレンディッド・ウイスキー』、はじまりは雑貨屋のオヤジの閃きから!|チャーリー / ウイスキー日記|note

有名ブレンディッド・ウイスキーの銘柄は、街の商店発!|チャーリー / ウイスキー日記|note


■ブレンディッド・ウイスキー全盛の時代が意味するもの

消費者が求めるウイスキーが、「圧倒的にブレンディッド・ウイスキー」という時代になると、「ウイスキー原酒生産者=蒸溜所」は、原酒をつくっては、せっせと「ブレンディッド・ウイスキーをつくっている街の商店(後のブレンディング会社)へ納品する」という流れが確立します。

この「生産会社」と「購入会社」の『分業化』の流れって、何かに似ていませんか?

そう! 個人的には、

農家さんが、JAさんに出荷する流れ

に、とても似ていると思います。

一旦、この分業が確立されると、バランス的に「購入者側=ブレンディング会社」の力がドンドン強くなります。

生産者自身では、つくったものを現金化できないため、購入者側に頼らないといけないので、自然とパワーバランズがそうなって行くからです。

一方で、生産者側は、「購入者側に原酒を納品する」という『作業的な仕事』へ陥ってしまう傾向もあります。

なぜなら、生産者が「自分のつくった商品」を、『ブランド認知』してもらって、「お客様が口にする姿」を見ることが難しいため、自分の仕事に『やりがい』を見出しづらいと思うのです。


■自分の生産した原酒が「ブランド認知」されないことによる弊害

例えば、クセの強いアイラ島のモルトは、スコッチのブレンディッド・ウイスキーには少量だとしても、「味のアクセント」として、必ずと言って良いくらい入っているものです。

ここで、ボウモア蒸溜所でつくった原酒が、すべて、ブレンディッド・ウイスキーをつくる会社へ納品されると仮定します。(=シングルモルトとしては販売しないと仮定)

ボウモア蒸溜所の製造スタッフがBARに飲みに行った際に

「あの人が飲んでいる、ブレンディッド・ウイスキーの中に、少量だけうちの原酒が入っているはずなんだけどなー。 でも、あのブレンド会社へ納品しちゃってからの具体的な流れはわからないけど。」

というのでは、「ウイスキーづくりへのモチベーション」を高い状態で保ち続けることは難しいのではないでしょうか?

そして、ブレンディッド・ウイスキー用の原酒供給だけしているとしたら、お客様に「自分のつくったウイスキー原酒」のブランドが認知されないため、仕事へのクリエイティビティが刺激されず、どうしても作業的になってしまう傾向がある気がします。


■自分が生産した原酒が「ブランド認知」されることによるやりがい

一方で実際には、ボウモア蒸溜所からはシングルモルト・ボウモア12年が販売されています。

同じくBARに飲みに行った際に、ボウモア12年を飲んでいるお客さんと見かけたらしたら、

「あの人は私がつくったボウモアを、笑顔で飲んでくれている! 嬉しい!! 明日からも美味しい原酒をつくり続けるぞ!」

と、おなじウイスキー原酒づくりでも『仕事へ取り組む姿勢』が変わってくると思うのです。

そして、

「とりあえず怒られたくないから、ブレンディング会社から指定されたフレーバーの原酒をつくって、さっさと出荷!

というのでなく、

「お客さんは、もっとこういう味だったら喜んでくれるんじゃないかな!?」

と、お客様が飲んでいるシーンを思い描きながら原酒をつくるでは、仕事への

・モチベーション
・ワクワク感
・チャレンジ精神

が全く違ってくると思うのです。

実際、20世紀の100年間は、スコッチといえばほぼ「ブレンディッド・ウイスキー」のことであり、「ブレンディッド・ウイスキーしか存在しなかった」と言っても過言ではありません。

もちろん、「これはうちしかつくることのできない原酒だ」高いモチベーション矜持を持って、原酒づくりをされていた人も大勢いたことは間違いないでしょう。

しかし、「ブランド認知の有無」はその仕事が「作業的」になるのか、「クリエイティブ」な仕事になるのかに、かなりの影響を与えるものだと思うのです。

そのため、「シングルモルトウイスキー」が存在せず、ほぼブレンディング会社による「ブレンディッド・ウイスキー」しか存在しなかった20世紀は、スコットランドのモルトウイスキー原酒の生産者にとって、厳しい時代だったのではないでしょうか?


■そんな中、業界の商慣習に立ち向かう会社が現れます!

このように「強い購入者=ブレンディング会社」と、「弱い生産者=モルトウイスキー生産会社」の関係に、大きな一石を投じる会社が現れます。

次回へ続きます!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?