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ウイスキーの「木樽熟成」と「エンジェルズ・シェア」《天使の分け前:前編》

■ウイスキーと木樽熟成

ウイスキーというお酒は「穀物を原料」として、「穀物の糖化酵素」によって糖化、発酵・蒸溜したのちに『木樽熟成』をさせたお酒です。

蒸溜直後の無色透明だったウイスキー原酒は、この『木樽熟成』の工程によって、琥珀色へと変化します。

ウイスキー 琥珀色の正体|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

したがって、「木樽熟成の神秘」こそが、ウイスキーが、ウイスキー足り得るための条件であると言っても過言ではありません。

ただ、中には「熟成させてなくてもOK」という、超・謎の規定のあるアメリカのコーン・ウイスキーなんて存在もあります。

アウトローな存在、コーンウイスキー!|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

ただ、コーン・ウイスキーは例外としても、木樽熟成はウイスキーにとって味の決め手となる超・重要な工程であり、この工程の期間が他の酒類に比べて圧倒的に長い(短くて3年、長くて50年以上)がために、ウイスキービジネスは楽しもあり、難しくもあるのです。

熟成工程が長いことによる・・・

◇楽しさ
・長い期間を経て、どんな美味しい原酒へ木樽熟成されるかな?


◇難しさ
・変な味わいに仕上がってしまったらどうしよう?

・木樽熟成という時間が必要なので、人気が出たとしても、すぐにの増産が難しい。

・土地を買って、蒸溜所を建てて、人を雇って給料を払い、原材料を仕入れて、仕込んで、樽に詰めて熟成させて、ドンドンお金は出ていくのに、シングルモルトで売るとしたら、3年間は全く売上が立たない(お金が入らない)。
 ⇒ キャッシュ・フローが極度に悪いビジネス

この木樽熟成については、今まで何度も記事にして来ました。


■木樽熟成とエンジェルズ・シェア

ウイスキー原酒を木樽熟成している間には、その原酒が蒸発するので、中身が減ってしまいます。これをエンジェルジ・シェア(天使の分け前)と言います。 
(人によっては、天使のピンハネじゃねーか!、と言う人もいますが・・・)

蒸発する液体は、アルコール分水分に分けることができます。
熟成環境=気温・湿度によって、
「アルコール分が先に蒸発するか」
「水分が先に蒸発するか」

に違いが生じます。

一般的に、スコットランドや日本では湿度が高いので「アルコール分が先に蒸発する」ため、熟成中に原酒のアルコール度数は下がります。

逆に、ケンタッキー州などでは熟成環境が乾燥しているため「水分が先に蒸発する」での、熟成中に原酒のアルコール度数は上がります。
そのため、アメリカンウイスキーには、他の5大ウイスキーにはない「上限樽詰アルコール度数」という規定があり、それは「上限Alc.62.5%」と法律で決められています。

スコットランドや日本では、蒸溜した原酒に加水をして63.5%くらいにアルコール度数を落としてから樽詰めすることが多いです。
それは、この63.5%前後が一番「樽材からの成分」が溶け出してくると言われているからです。

アメリカの上限樽詰アルコール度数62.5%は、このスコットランドや日本で一般的な63.5%をも下回っている度数となります。


■アルコール度数の低下に注意が必要!

一方、スコットランドや日本では、熟成期間中にアルコール度数が下がりますから、長期熟成中には注意が必要です。

と言うのも、ウイスキーは基本的には各国の法律で、「アルコール40度以上で瓶詰め」を定められているからです。

「よっしゃ! 
50年熟成のウイスキーができたどー!」

と思って、瓶詰めしようとしたときに

「あれ? 
アルコール度数35%しかねーんだけど」

となったら、そのままでは「ウイスキー」としては売ることのできないのです。ガビーン!
そんなこともあるので、熟成期間中の原酒のチェックは重要ですね。

これも以前に記事にしています ↓

スコッチ原酒がアルコール40%を下回ったら?|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)


■イーグルズ・ネスト

また、スコットランドや日本で「熟成中にアルコール度数は下がる」と言いましたが、あくまで傾向です。

以前に、ニッカウイスキーの尾崎チーフブレンダーのセミナーを受講した際に「宮城峡熟成庫でも、最上段の樽は熟成中にアルコール度数が上がる」と言っていました。

最上段は建屋の天井に近いので気温も高く、水分の方が優位に蒸発してしまうせいだと思います。

ちなみに、バーボンでは、ケンタッキー州の熟成環境に代表されるように「アルコール度数が上がるようなダイナミックな熟成」がその特徴です。

バーボンはダイナミックな熟成!|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

そのため、バーボン業界では「建屋の天井に近いダイナミックな熟成環境」のことを『イーグルズ・ネスト=鷹の巣』と呼んで歓迎しているのです!


■驚きのエンジェルズ・シェア

以前に記事化していますが特に、広島県:桜尾蒸溜所の「戸河内熟成庫」は、エンジェルジ・シェアが0%!というのには衝撃を受けました。

ハンパじゃないエンジェルズ・シェア 桜尾蒸留所《戸河内貯蔵庫》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

一方で、イスラエルのM&H蒸溜所の「死海のほとりの熟成庫」は、エンジェルズ・シェアが、年間25%!と聞いたことのないような蒸発の量で、「中身がなくなるのでは?」と余計な心配をしてしまいます。
(実際はある程度、その熟成庫で熟成させたら、他の熟成庫へ移します)

売るものがなくなっちゃうよ! 『ミルク&ハニー蒸溜所』|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)


■次回は

この「環境の違い」による「木樽熟成の違い」を、原酒のバリエーションとして積極的に活用している事例をご紹介したいと思います!

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