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ウイスキー1樽をつくるのに、大麦麦芽はどれほど必要なの?

■答え

大麦麦芽(モルト) 400kg

これで今回の記事が終わってしまいそうな勢いですが、
【大麦麦芽 400kg】
を暗記してもつまらないので、ちょっと解説してみたいと思います。


■ウイスキー樽のサイズ

ウイスキー樽の詳細については別途で記事化したいですが、スコッチウイスキーには、バーボンで使われたバレル樽を、中古で使うことが大半です。
(他にも色々な樽を使うことがあります。)

以下の2つが、その大きな理由です。

・バーボンのバレル樽は、アメリカンホワイトオークからつくられるが、この木材はウイスキーにバニラ様のプラスの香味を与えてくれるから。

・アメリカの法律でバーボンづくりには「ウイスキー樽は新樽で1回しか使っちゃダメ!」という規定があるので、中古樽が超いっぱいあるから。

そして、そのバレル樽は、現在は200Lが標準サイズとなっています。
(もともとは、40UKガロン=182Lでした。今もバレル樽という場合、180L~200Lくらいの幅がありますが、最近は200Lが多いようです。)

なので、
【答え:大麦麦芽400kg】は、
【バレル樽=200L】のウイスキー
をつくるのに必要な量ということです!


■200Lのウイスキーをつくるには、何Lのモロミが必要なの?

◇答え
モロミ/ウォッシュ/WASH 2,000L

これは前回の記事を読んでいただいた方には、わかる問題でした!

モルトウイスキーは2回蒸溜《その3/最終回》初溜釜と再溜釜の大きさは違う?|チャーリー / ウイスキー日記|note

モルトウイスキーをつくる場合、2回の蒸溜を行いますが、最初に投入されるモロミ(ビール的なもの)約10%が、ニューポット(ウイスキーの赤ちゃん)として回収され、木樽に詰められるのです!


■2,000Lのモロミをつくるためには、何kgの麦芽が必要なの?

◇答え
大麦麦芽 400kg

これは糖化工程を説明しないといけないのですが、説明が難しいので、ざっくり解説すると、

2,000Lのモロミ(ウォッシュ:ビール的なもの)をつくるには、
→ 2,000Lの麦汁(ワート:甘い麦茶的なもの)が必要。
2,000Lの麦汁を(ワート:甘い麦茶的なもの)をつくるには、
→ 400kgの大麦麦芽が必要。

400kgの大麦麦芽を粉砕して、
そこに水を加えて煮てから濾して「一番麦汁」をとる。
もう一回水を加えて「二番麦汁」をとって、それを合わせると、
2,000Lくらいになります!


■《まとめ》モルトウイスキーの製造工程における容量の流れ

大麦麦芽 400Kgを粉砕。
 →仕込水を入れて煮て、一番麦汁と二番麦汁を取ってガッチャンコして、麦汁2,000LをGET!
麦汁 2,000Lに酵母を添加
 →2~3日で、Alc.7%程度のモロミ(ビール的なもの)になる!(2,000L)
モロミ 2,000Lを約2回蒸溜
 →1回目の全量回収、2回目の「よいとこ取り=ミドルカット」を経て、ニューポッド(ウイスキーの赤ちゃん:無色透明)200LをGET!

※ 1回の蒸溜にかかる作業時間は、それぞれ約5~8時間。
ニューポッド 200Lを木樽に詰める
 →バーボン・バレル樽では、ちょうど1樽分!!


■モルトウイスキーの生産の規模感を知る!

その蒸溜所のモルトウイスキーの生産規模を、ざっくり知る上で、以下の2つのポイントを押さえておくと便利です!

ポイント① ポットスチルの大きさ(≒張りこみ量)
→ 初溜釜 2,000Lが最小クラス
ポイント② 1回で使う麦芽の量
→ 1batchの最小クラスの麦芽仕込量 400kg
 (仕込1回分を1バッチと言います)

1バッチ・400kgの大麦麦芽を投入して、
2,000Lのモロミを初溜釜に投入して、
200Lのバレル樽に詰める。

これが、最小規模の生産サイズとなります。
・ウイスキー1樽分を、1バッチでつくるサイズ感。
・これより小さいサイズで仕込をしている蒸溜所もありますが、その場合は、2バッチ分を1樽に入れたりすることになります。

この「1バッチが400kgで、バーボン樽1樽分(200L)をつくる」を覚えておくと、あとは「これの何倍か?」で、その蒸溜所の大体の生産規模感がわかります。

そして、この最小サイズで生産している蒸溜所で、おさえておきたい蒸溜所が2ケ所あります。


■エドラダワー蒸溜所(スコットランド:ハイランド)

現在は、シグナトリーという有名なボトラーの傘下となっている蒸溜所です。
ここの蒸溜所は、長らくスコットランドで最小の規模でした。
そして、ここで使っている初溜釜のサイズが、2,000Lなのです!

スコットランドでは、法律では決まっていないものの、前例的に「政府が認可する公式蒸溜所で使うポットスチルのサイズは2,000L以上」とされていました。
この2,000Lの基準のもととなっていたのが、このエドラダワー蒸溜所のポットスチルだったのです!

ちなみに、2013年にストラスアーン蒸溜所という、クラフト蒸溜所がスコットランドにできました。
創業者のトニー・リーマン・クラークさんが、スコットランド政府と長い交渉を経て、2,000Lよりも小さいポットスチルを認めさせたという画期的な蒸溜所です。

以前に記事化しています。

法改正までのパッション! 世界で急増、クラフト蒸溜所!!|チャーリー / ウイスキー日記|note

ちなみに、ここのストラスアーン蒸溜所を見学して、「こんなに小さくてもできるなら、ウチでもできるんじゃね?」と思って、ウイスキーづくりをはじめたのが「長濱浪漫ビール」さんであり、今の「長濱蒸溜所」さんです。

そのため、長濱蒸溜所のポットスチルは、ストラスアーンと同じく、通常はブランデーで使用することの多い「アランビック型」です。


■秩父第1蒸溜所(日本:埼玉県)

ベンチャーウイスキー:イチローズモルトが、日本のウイスキー消費のどん底だった2008年に生産を開始した蒸溜所です。

そんな時代でしたので、生産量も最小規模!
そして、ここでは、1batch=麦芽400kgの仕込みで、使っている初溜釜のサイズが2,000Lです!!

ちなみに、2019年にできた秩父第2蒸溜所は、1batch=麦芽2トンの仕込みで、使っている初溜釜のサイズが1万Lです。
生産規模は、ちょうど5倍ということになります。

ちなみに、ウイスキーづくりで使われる麦芽は、輸入されることがほとんどですが、その際には1トン単位で袋詰めされていることが多いみたいです。
(先日、動画を見ていたら、長濱蒸溜所は1回の仕込みで、25kgの袋詰めを17袋使用=1バッチ425Kgでしたので、色なサイズの袋詰めがあるみたいですね。)

そして、その2袋分にあたる「1batch=麦芽2トン」で仕込みを行う蒸溜所が、スコットランドの伝統的かつ中規模の蒸溜所では、比較的多い感じです。
(逆に最近の日本のクラフト蒸溜所では400Kgより小さい、1batch=250kgなどの仕込みサイズも見かけます。)


■蒸溜所ごとの「麦芽仕込量」「ポットスチルのサイズ」を比較!

◇山崎蒸溜所
 1batch 4~16トン
 初溜釜サイズ 1万~1万5,000L(8基)

◇余市蒸溜所
 1batch 6トン
 初溜釜サイズ7,700L~1万1,000L(4基)

◇秩父第1蒸溜所
 1batch 400kg
 初溜釜サイズ 2,000L(1基)

◇秩父第2蒸溜所
 1batch 2トン
 初溜釜サイズ 1万L(1基)

《参考》
JWIC-ジャパニーズウイスキーインフォメーションセンター

比べると「秩父第1蒸溜所、小さいぞ!」という感じですよね?

1batch=400kgで、ポットスチルも1対(2基)ですから、1日でつくることのできるのはバレル樽=1樽分
年間300回の仕込として、年間生産量は、300樽ということになります。


■最後に

1バッチ・400kgの大麦麦芽を投入し、
初溜釜に2,000Lのモロミを投入して、
200Lのバレル樽に詰める。

これが最小サイズで、あとはこれの何倍のサイズであるかで、ざっくりと蒸溜所ごとの生産規模感を知ることができるようになったのではないでしょうか?

今回は、これにておしまいです!


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