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法改正までのパッション! 世界で急増、クラフト蒸溜所!!

■ウイスキー蒸溜所の急増は、日本だけではない!?

角ハイボールにはじまった2008年から続く、日本におけるウイスキー市場の伸長の中、蒸溜所の新規開設が続いています。

そして、ウイウキー蒸溜所が増えているには日本だけのトレンドではなく、世界的にも2000年頃からウイスキーの販売が上り調子となり、5大ウイスキーと呼ばれる、スコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダでも蒸溜所は激増中です。(5大ウイスキーの残りのひとつは日本)

また、それら5大ウイスキー以外でも、インド・台湾をはじめ、イングランド・フランス・イタリア・ドイツ・スイスといったヨーロッパ各国、オーストラリア、韓国・中国など、本当に様々な国で、本格的なモルトウイスキー蒸溜所が立ち上がっています。


■世界中で増え続ける蒸溜所 《まずはアメリカ》

最初に、小規模なウイスキー蒸溜所(以前はマイクロ蒸溜所などと呼びました。正式な言葉の定義はありませんが、今はクラフト蒸溜所と呼ぶことが多いです。)が増え始めたのはアメリカです。

これはアメリカにおけるクラフトビール醸造所の成功&新規開業の流れを受けたものだと思います。アメリカのクラフトビール業界は、1979年に自家醸造が解禁されたことも後押しとなり、1980年代に一気に開花します。

特に、

西海岸:サンフランシスコ
 アンカーブリューイング
(2017年:サッポロビールが買収)

東海岸:ボストン
 ボストンビール
(2021年:サントリーがRTDでパートナーシップ締結)

が、2トップとしてクラフトビール界の台風の目となり、その大手と異なる、伝統的な独特の味わいが大人気となりました。
そして、1990年代には大手ビールメーカーも、脅威を抱くような勢力となったのです。

このように「小規模であっても消費者から支持を得れば、ビジネスとしてやっていける」とクラフトビール業界が示してくれたこともあり、2008年、シカゴにクラフト蒸溜所の「コーヴァル蒸溜所」が立ち上がります。

コーヴァルのつくるクラフトウイスキーやクラフトジンは人気を博し、蒸溜酒でもビールと同様に、クラフトでも大手とは一線を画したビジネスとして成立することが証明されました。

その後、このコーヴァルの創業者ロバート・バーネッカーさんは、自分の成功・経験を必要な人に伝えるため、クラフト蒸溜所を開業したい人向けのスクール(講演や実技)を開催します。アメリカのクラフト蒸溜所を開業した人の中には、このコーヴァルのスクール出身者が多くいるそうで、150社・2,500人以上とも言われています!
(ただし、アメリカではクラフト蒸溜所はすでに飽和し、淘汰の段階に入って、閉業するクラフト蒸溜所も出てきているらしいですが・・・)


■お酒と法律

このコーヴァルは、1920~1933年のアメリカ禁酒法以来、シカゴで初めて立ち上がったウイスキー蒸溜所です。この立ち上げに際してまずおこなったこと。それは、イリノイ州の法律を改正するロビー活動でした。
というのも、当時の法律では、蒸溜所に「小売店舗やバーの併設」「蒸溜所見学ツアー」が許されず、「事業のライセンス料」も非常に高かった、昔ながらの大手メーカー向けの規定でした。とても、クラフト蒸溜所が経営していける内容ではありませんでした。
このロビー活動は成功し、法律が改正され、新規開業にこぎつけることになったわけですが、その情熱たるや、すごいですね!

日本も特区という形で、「どぶろく特区」「ワイン特区」がありますが、お酒に関する法律は、まだまだ昭和(下手したら明治?)を引きづっているお堅い状況が続いています。

ちなみに、日本における「お酒の特区」というものですが、特区内では、そのお酒の製造免許が、比較的取得しやすくなったりします。例えば、通常の酒税法で定められている「最低年間生産量」について、「この特区内だけは、かなり少なくてもOK」とかです。

海外でも、もともと酒税は、政府の重要な財源であったので、密造酒は厳しく取り締まられてきました。
しかし、最近では、自家醸造や、クラフト醸造所・クラフト蒸溜所に対して、寛容な内容へと改正されてきています。

例えば、ビールのホームブリューイング(自家醸造=自宅で飲む分のビールを自分でつくる)は、前述の通りアメリカでは1979年に解禁となりました。そしてホームブリューイングは、イギリスをはじめ、ヨーロッパでは広く認められています。

しかし、日本では「自宅で飲む分だけ」だとしても、酒造は法律で禁止されており、密造酒製造として捕まってしまいますので、超NGです!

2019年、三重県のクラフトビールメーカー「伊勢角屋麦酒」の鈴木社長さんが会長となり『日本ホームブルワーズ協会』が立ち上がりました。
まずは、「ホームブリューイング特区」の実現を目指しているそうです。こういった動きの中で、もっと日本における「お酒づくり」が自由になればいいな、と思っています。

そもそも日本では、1899年に、自家醸造が禁止されるまでは、どの農家でも「漬物」と同じレベルで、「どぶろく」をつくっていた伝統があります。
(1894年の日清戦争後の政府の税制破綻の回避と、日露戦争への準備のため、酒税の強化で税収を確保するために、自家醸造は禁止となったようです。)
そのため、個人的には、どぶろくについては、自家醸造がもっと認められたらよいかなと思います。


■世界中で増え続ける蒸溜所 《そして本場スコットランド》

本場スコットランドで、前例のない小規模な蒸溜所を開業したのは、2013年にストラスアーン蒸溜所を開業したトニー・リーマンクラークさんです。
法律ではないのですが前例的に、それまでスコットランドでは、2,000Ⅼ以下の容量の蒸溜器は認められていませんでした。

当時に営業していた最小蒸溜所が、南ハイランドのエドラダワー蒸溜所(現在も元気に蒸溜中!)で、そこの蒸溜器が2,000Ⅼだったので、慣例的に2,000Ⅼ以下の蒸溜器は認められてこなかったのです。
これは、小さな蒸溜器は、ポータブルで持ち運べてしまうので、徴税官がガサ入れに来ても逃げることが容易で、「密造に便利」なため、認められてこなかったという歴史が背景にあります。

ただし、トニーさんは、地元の人を雇用し、蒸溜所見学なども充実させて、「地域経済に貢献する」という大義をもって当局と交渉し、2,000Ⅼ以下の容量の蒸溜器を認めさせたのです。
確かに、大手の蒸溜所は生産量が多い(蒸溜器のサイズが大きい)反面、オートメーションで製造している部分が多く、そもそも従業員数が少なく、地域経済への貢献は限定的になるそうです。

この、トニーさんの2013年のストラスアーン蒸溜所の開業後、スコットランドでもウイスキー蒸溜所の開業が続いています!


■必要なのはパッション!

シカゴのコーヴァル蒸溜所や、スコットランドのストラスアーン蒸溜所は、誰かの真似ではなく「クラフトウイスキーづくりを最初にやった」ということが、本当にすごいと思います!
それも当局と「法律改正の交渉」をしてまでです!!

「余剰農作物からつくった」という流れではなく、「よし、ウイスキーをつくったろうじゃないか!」というビジネスとしてのパッション

そういった0からウイスキーづくりをはじめるパッションは、コーヴァルのロバート・バーネッカーさんや、ストラスアーンのトニー・リーマンクラークさんといった海外の方だけでなく、サントリーの鳥井信治郎、そしてベンチャーウイスキー・秩父蒸溜所の肥土伊知郎さんなど、日本人も持ち合わせています!

(鳥井さんも、当時の山崎蒸溜所の工場長の竹鶴さんと一緒に、国税局にウイスキーの課税方式を造石税でなく、蔵出税に変える交渉をして、認めてもらった経験の持ち主です。ちなみにこれは、貯蔵期間にエンジェルズシェアによる目減りが発生するためです。)

私も、そういうパッションアントレプレナーシップを忘れずに、日々の仕事をしたいと思います!


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