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【ウイスキーの熟成】 同じ敷地内で熟成環境を変える! 《天使の分け前:後編》

■前回に引き続き

ウイスキーの木樽熟成と、エンジェルズ・シェア(原酒の熟成中に蒸発して無くなってしまう分)のお話です。

ウイスキーの「木樽熟成」と「エンジェルズ・シェア」《天使の分け前:前編》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)


■熟成環境と酒質

熟成環境=気候風土は、木樽熟成を経て、ウイスキー原酒の酒質に反映されます。

ジャパニーズウイスキーは、日本の四季が育むお酒。|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

例えば、海の近くなら「潮の香り」のニュアンスが加わりますし、南国での熟成なら「トロピカル」なニュアンスが原酒から感じられるようになります。

この潮のニュアンスとして有名なのでボウモア蒸溜所で最古のNo.1ヴォルト(ヴォルト=貯蔵庫)です。
ちなみに、ボウモアは現存するアイラ島最古の蒸溜所なので、そこの第1号貯蔵庫=No.1ヴォルトはアイラ島最古の熟成庫と言うことになります。

というか、スコッチ蒸溜所の中で、現存する最古のウイスキー貯蔵庫となっています!

ボウモアヴォルト/スコッチ最古の貯蔵庫のシーソルト [ウイスキー&バー] All About


話を戻して、そのボウモア蒸溜所の第1号貯蔵庫=No.1ヴォルトでの原酒の熟成についてです。

ボウモア蒸溜所の敷地内には、3棟の貯蔵庫がある。特に有名なのは「No.1 Vaults(ヴォルト)」、つまり第1貯蔵庫だ。海に面して建つボウモア最古の貯蔵庫で、海抜は実に0メートル。天候によっては、外壁に大西洋の波しぶきが容赦なく打ちつける。周囲にはいつもスプレーのように海水のアロマが舞い上がり、貯蔵庫内にもかすかに潮の香りが漂っているという環境だ。

下記のWHISKEY MAGAZINEより引用

極上のピートが香る「ボウモア ヴォルト」の新エディションが数量限定発売 | WHISKY Magazine Japan

No.1ヴォルトはこのような海辺の環境のため、ウイスキー原酒に潮のニュアンスが感じられるようになると言われています。(潮のニュアンスの要因は熟成環境の違いだけではないとは思いますが)

このように熟成庫の立地によってウイスキーの酒質に影響が出ます。


■複数のウェアハウス(桜尾/本坊)

原酒の熟成に多様性を持たせるために、蒸溜所は1つでも、複数ケ所の熟成庫(=熟成地)をもつケースも、結構あります。

例えば、

◇桜尾蒸留所 = 1蒸溜所
 桜尾貯蔵庫 / 戸河内貯蔵庫 = 2熟成地


◇本坊酒造
 マルス駒ヶ岳(旧名:信州)蒸溜所
 マルス津貫蒸溜所     = 2蒸溜所

 信州貯蔵庫:長野県
 津貫貯蔵庫:鹿児島県
 屋久島エージングセラー:離島= 3熟成地

桜尾の戸河内はエンジェルズ・シェア0%の超多湿な熟成庫ですし、マルスの屋久島は世界遺産でとても降水量の多い場所の熟成庫です。

それぞれ、その土地の気候風土の宿った面白い熟成をします。


■同じ敷地内の熟成庫でも(白州)

また白州蒸溜所では、東京ドーム17個分の「広大な森の中」の敷地内に、20近い熟成庫が点在しています。

サントリー 白州の森 | SUNTORY Hakushu Sanctuary

1つの熟成地ではあるものの、これだけ広範囲に熟成庫が分散していると、当然、その熟成庫毎で熟成の傾向に違いが出るそうです。

現状として、白州シリーズで「熟成庫」にフォーカスした商品は発売されていません。

ただ、熟成庫の違いによって「個性が際立った面白い原酒」ができあがった際には、限定品でも良いので、「シングルモルト白州 第〇熟成庫」みたいな感じで、熟成庫をアピールした商品が発売されたら面白いでしょうね!

※ タイトル写真は白州蒸溜所がその麓に立地する甲斐駒ヶ岳です。


■同じ敷地内の熟成庫でも(インド)

桜尾やマルスの事例は、「違う立地」に「複数の熟成庫を持つ」という事例です。

そして白州は「同じ立地」ですが、その敷地が広大なため、その熟成庫のある場所によって熟成の傾向が異なるという話でした。

ただ白州のように敷地が広大というわけでなく、「同じ立地」で「異なる熟成環境の熟成庫を持つ」というケースがあります。

どういうことでしょうか?

インドの有名な本格ウイスキー「ポール・ジョン蒸溜所」の事例です。

ゴアは年間の気温も約30℃と一定なので、同じ敷地内でも異なる環境をつくるために地上と地下、2つの熟成庫を用意しました。地下は温度も湿度の低めなので、原酒はエレガントでフローラル、飲みやすい仕上がりになっています。反対に地上はより直に外気の影響を受けるので、ボールドで強い香味になります。

ウイスキーガロアJune.2024 vol.44号 P89
発行:ウイスキー文化研究所

同じ敷地内に、あえて違う環境の熟成庫をつくるという、この工夫は面白いですね!

ポールジョンについても、以前に記事化しています。

世界が注目! 本格インディアン・ウイスキー「ポール・ジョン」 《インド③》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)


■熟成技術の高度化

ウイスキーの味わいに決定的な影響を与える木樽熟成という工程。

この熟成工程の高度化が止まりません。

◇一丁の樽での変化

・木材の材質
・前歴(前に何のお酒が入っていたか?)
・何回目の充填か?
・樽の大きさは
 など

◇樽を詰め替えることによる変化

・カスクフィニッシュ(=ウッドフィニッシュ)
・ダブルエイジ製法(=デュワーズでの製法)
・ダブルマリッジ製法(=ホワイト&マッカイでの製法)
 など

◇熟成地による変化

・桜尾蒸溜所の2貯蔵庫体制
・マルス本坊酒造の2蒸溜所/3貯蔵庫体制
 など

◇熟成庫毎による変化

・ボウモアのNo.1ヴォルト
・広大な白州の貯蔵庫郡
 など

◇熟成庫内の場所による変化

・ポールジョンの地上&地下貯蔵庫
・バーボンのイーグルズ・ネスト
 など

◇熟成庫内の環境コントロールによる変化

・バーボンの熟成庫の温度調整
・キュロ蒸溜所の熟成庫の湿度調整
 など

あれれ?もうやってるじゃん!?《熟成庫の湿度調整》|チャーリー / ウイスキー日記 (note.com)

熟成工程はまだまだ進化することでしょう!
楽しみですね。

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