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『天魔恋玉(てんまれんぎょく)のコンペティション〜俺の魂は猫に奪われました〜』第14話
第14話 違うブラの方!!
「え〜連絡事項は以上。わかってるとは思うがお前らの本分は学生生活だ。色々あって不安もあるだろうが、ややこしい問題は大人に任せて青春をきちんと謳歌するように。何か心配事や相談事があれば言ってこい」
ホームルームが終わるとマイ先生は教室から出て行った。
「なんか今日のマイちゃんいつもと違ったな」
タケシが話しかけてきた。
「ん? そうか?」
「なんか言葉に筋肉がこもってた」
「言葉に筋肉がこもるってなんだよ」
「確かにちょっと変だったかも」
ユイも会話に入ってくる。
「言葉の筋肉が?」
「ユイも筋肉に目覚めたか!」
「いや、筋肉がどうのとかじゃなくて! なんか青春とかそういう言葉に力が入っていたというか」
「それは当然あれがあるからでしょ」
リオも会話に入ってきた。
「あれ?」
「あれと言ったら煉彩祭よ」
「煉彩祭って文化祭のようなイベントでしたよね?」
「さすが、サキ〜! その通り!!」
「もうそんな時期だったか! 俺の筋肉太鼓の時期だな!!」
「筋肉太鼓ですか?」
「ゴメン、サキ。タケシのことはスルーして」
「まぁ、テンションあがちゃうのもわからなくもないけどねぇ〜。ウチの煉彩祭は町全体がお祭りになっちゃうから〜」
「町全体がですか?」
煉彩祭というのはウチの学園の文化祭のようなものである。クラスや部活などがそれぞれ出店したり、出し物をしたりという点は普通の学園祭と変わらない。
少し特殊なのは町全体、煉玉市全体がこの時期に合わせてお祭りモードになってしまうのである。
学園祭の時期に合わせて、市全体が祭りを始めてしまったようなイベントなのだ。
「町全体で盛り上げてくれるから集客的には助かるんだけど、メイン会場はここになるからお金のことを考えると結構重要なのよね〜」
「でも、今年は大丈夫なのかな? あんな事故もあったのに」
「……」
「まぁ、それこそ大人に任せるしかないでしょ。でも、アタシはやると思うけどね」
「ああ、俺もそう思うぜ」
リオの言葉に、さっきまで寝ていたムラマサが同意する。
「ど、どうしてですか?」
「こういう時こそ、祭りを盛り上げろ! 祭りを楽しめ! ってのがオヤジどもの口癖だからな」
「そういうこと。大人はみんなそういう感じなんだよね、この町はさ」
確かにリオやムラマサの言うとおりだと思う。
カミ婆がいたらきっと俺も言われただろう。こんな時こそ、学生としてしっかりと祭りを盛り上げろって。
「……そうですね。やるからにはしっかり盛り上げましょう」
「サキ良いじゃん、その調子。けど、その前にやることがあんのよね」
「やること?」
「そう、1・2年合同球技大会がね!」
第14話ー2
《1・2年合同球技大会》は1・2年の結束を高めるために開かれる。
町全体を巻き込んだ文化祭《煉彩祭》で中心となる1・2年。
その1・2年に試合を通して結束を高めてもらおうというものである。
だがそれは理想論。
実際にはクラス対抗試合であり、1・2年は当然同じチームになることはない。つまり対戦相手。
2年であろうと、容赦なく1年を叩く。逆に溝が深まるのではないかというイベントなのだ。
しかも、今年の球技大会の様相は例年とはまったく違うものになっていた。
「両断くん!! キミのキャッチが完成するかどうかが、ウチが1位になるかの分かれ目なんだからガンガンいくよ~!!」
「両断さんいきますよ!」
「覚悟しろムラマサ!!おりゃああ!!」
「お、お前ら、ちょっとは加減しろ!! ごはぁああ!?」
「……はぁ~、両断くんって棒状の物がないとホントにダメだね」
ムラマサはリオ監督を中心に、サキとタケシにしごかれている。
ムラマサは運動神経抜群なのだが唯一欠点がある。それは棒状の何かがない競技は苦手なのだ。
特に玉、ボールを扱う競技はラケットやバットなど棒状の道具がないと壊滅的に不得手になってしまう。
特に玉のキャッチができない。
例えば、野球はバッターなら問題ない。だが、ピッチャーやキャッチャーは出来ない。
しかも今回の競技はドッジボールである。
優勝するためにも、運動神経抜群のムラマサをなんとかボールキャッチできるようにさせたいらしい。
俺とユイは少し離れたところで別メニューで練習をしていた。
「しっかし、気合い入ってるよな」
「しょうがないよ、スイパラが懸かってるだもん」
スイパラとは正式名《スイスイスイートパラダイス》といって、最近駅前にできたスイーツが食べ放題の店だ。
「あのお嬢様とんでもないもん、ぶっこんで来やがって」
「さすがは絢爛院財閥だよね。貸し切り券を景品にしちゃうだもん」
覚えているだろうか?
絢爛院麗子とはニーコ(と俺)とテニスバトルを繰り広げたお嬢様である。
あのレイコとかいうお嬢様は、今回の球技大会の優勝商品としてスイパラの貸し切り券を出してきたのだ。
もちろん、例年そんなものはない。今回が初である。
スイパラ貸し切り券と聞いた女性陣(一部の男性陣)は目の色を変えてしまったのだ。
当然、球技大会は単なる消化イベントから、ガチの戦いの場となってしまったわけである。
「しかし、サキまでなんであんなに優勝にこだわってるんだか」
「サキだって女子だもん、スイーツの食べ放題は魅力的なのよ」
「そうか?」
ん~、そう言えばそうかもしれないが、あんまりそういう物に興味ないように感じたんだよな。
抹茶も知らなかったし。
「でも、サキって1番にこだわってるみたいなとこあるかも?」
「なんかあったのか?」
「うん。100メートル走を授業でやった時、陸上部の娘の次にタイムが良かったの。でも、もう1回測り直してほしいってことになって」
「で、タイムが良くなったのか?」
「うん、陸上部の娘よりも良くなって1位のタイムに」
「でも、そんくらいならあるんじゃねぇの?」
もうちょっとイケると思ったら、測り直すくらいよくありそうな気もする。
「うん、そうなんだけど……その後サキに訊いてみたの。そしたらね、私は1番じゃなきゃ意味がないって。その時のサキ、ちょっと怖かった」
「そうか……」
1番じゃなきゃ意味がないじゃなくて、私は1番じゃなきゃ意味がない……か。
何かあるのかもしれないな。少し気にはなるが、今はそれよりも気になることがある。
「おい、ユイ」
「な、なに?」
「どうしてそんな隅っこにいるんだ?」
体育館に入ってから、ずっと隅っこから動こうとしない。
別にムラマサのようにガチの練習メニューがあるわけでもないから、テキトーに過ごしても俺はかまわない。
しかし後々リオやサキから、チクチク言われるのもイヤなので練習をしている風にはしておきたい。
だがユイが隅っこから動かないので、俺は立って話しをしているだけなのである。
「ユイはいつから隅っこぐらしになってしまったんだ」
「い、いいじゃない。隅っこぐらし可愛いし」
「そういう問題じゃなくてだな。サボるにしても練習してる感じにしとかないと後で怒られるぞ」
「べ、別にサボるつもりじゃないけど」
なんだ、煮え切らないな。
「何だよ、なんか困ってるなら話を聞くぞ。一緒に考えてやるし、俺が解決できなきゃ一緒にマイ先生とこにも行ってやるから」
「……忘れたの」
「はい? 何?」
「だから、下着を忘れちゃったの!!」
「え、ぱ、パンツをか?」
「違うブラの方!!」
な、なにぃ!?
じゃあ、今ボールで隠してるのはそういう?
待て待て落ち着け。冷静になれ。玉がまた出てきちゃうから落ち着け。深呼吸だ、深呼吸。
よ、よし。
「そ、そうか。わかったから、とりあえずリオかサキ辺りに言って何とかしよう」
「む、無理~!!」
「は? なんでだよ」
「だって、中に体操着そのまま着てきたからブラ忘れたなんて恥ずかしくて言えないよぉ~!」
たしかにプールの日にそのまま中に水着を着てきて、下着を忘れちゃう小学生みたいだもんな。
「でも俺にはバレちゃったんだから、サキとリオに話してもかまわな」
「シュンは別にいいの!」
別にいいってなんかひどくない? 気のせい?
「ふたりとも何してんの?」
「リオ、あっちはもう良いのか?」
「うん、向こうはサキがやる気だから任せてきた〜。ほら〜、こっちはシュンくんがサボっちゃうといけないしね」
「俺のほっぺをつつくな」
リオの奴、意外とするどいな。これがクラス委員の力か。
「で、ユイ大丈夫? シュンくんにイジメられた?」
「なんでだよ」
「う、ううん。大丈夫だよ!?」
「そう? じゃあ始めるよ〜。シュンくんとユイはボールを避ける練習ね〜」
リオは機械にボールをセットする。ドッジボール発射マシーンだ。
球速や球種を自由にセットできる。
「じゃあ、ちゃんと避けてね〜」
ビュオと俺の横をボールがかすめていく。
「おお!? あぶねぇ!! やるならやるって言ってくれよ!?」
「ジョーク、ジョーク。じゃあイクよ〜」
本来のドッジボールより柔らかいボールを使っている。本番も同様だ。
とはいえスピード次第では当たったら痛い。
「っと、あぶねぇ」
低めのボールにわずかにカーブがかかっていた。ストレートよりもああいうボールの方が怖い。
「シュンくん、やるね〜。そろそろユイもイクよ〜」
「う、うん」
ユイの奴、大丈夫か?
ボールがユイに向かっていく。
「んっと」
ボールを避ける。わずかに揺れる。
速いボールがユイに向かっていく。
「!? わっと」
ボールを避ける。たわわと揺れる。
ボールの動きが早く変則的になるほど、ユイのたわわが揺れていた。
「……(マ、マズイ、色々とマズイ!!)」
「良いね〜ふたりとも。じゃあ、どんどんイクよ〜」
幸か不幸かリオはまったく気づいていない。
「うりゃ! うりゃ!」
ボールのスピードと間隔が早くなっていく。
「く!? (マズイぞ……リオの奴、楽しくなっているな!?)」
じわりと汗をかき始める。
はっと気づきユイに目をやる。
「げ!?」
ユイの体操服が徐々に汗で透け始めてる。まだ大丈夫だがこのままではヤバい。
俺はとっさにユイに合図を送る。
「――っっっ!?」
それに気づいたユイの動きがわずかに鈍くなる。
「そこだ〜!!」
「きゃぁあ!!」
動きの鈍さに気づいたリオがユイにボールを畳みかける。
ボールに当たり、ユイの胸が揺れる。
「!?(ぐぉぉおお、マズイ!! ユイの胸が、俺の玉が〜!!)」
わずかにだが俺の玉が出てきている。このままではマズイ。
「も〜う、ムリぃい〜!!」
ユイは俺の背中に隠れると密着してきた。
「!!? (な、なにぃ〜!? なにをやってるんだお前は〜!?)」
ユイの柔らかな感触が伝わってくる。熱いほどの体温とたわわな感触が。
「おりゃ! おりゃ!」
そして、リオは身動きができなくなった俺に容赦なくボールを叩き込んでくる。
「が!? (ぐぁああ!! 痛いし気持ちいいし、ってそれどころじゃねぇ!? 玉が玉が出ちまう!?)」
クソ!! こうなったら!!
飛んできたボールをひとつキャッチ。
ボール発射の隙をついてボールを機械投げる!
「イケっ!!」
ボッっと音とともに機械が停止する。俺の投げたボールが機械の発射口に入り停止したのだ。
「あれ?」
「リオ!!」
「は、はい!!」
「俺はユイが熱があるみたいだから、このまま保健室行くから!! じゃ!!」
「あ、うん、わかった」
後ろにへばりついて静かになっているユイを背負う。俺は呆然としているリオをそのままに、脱兎の如くユイを背負って保健室へと向かった。
「な、なんとかなったか」
「ご、ごめんね、シュン」
なんとか保健室に着くと俺はユイをベットに座らせた。できるだけ見ないようにしながらバスタオルを渡す。
わずかに透けた谷間が見えた気がしたが、気づかなかったことにする。慌てて部屋の隅に行くと、ユイに背を向けて息を整えた。
あ、危なかった。俺もユイもどっちもポロリするところだった。
いや、ポロリは俺だけか。
「あ、あのね、シュン」
「ん?」
ユイの頬は赤く、息も荒い
「わ、わたしね」
ガラガラっと保健室のドアが開く。
「お? お前らどうかしたのか?」
「マイ先生、それが色々あって」
「ん? ユイどうした? 顔が赤いな」
マイ先生はユイのおでこに手をあてる。
「熱い、どれ? ……ふむ、熱があるな」
マイ先生は体温計を素早く取り出し熱を測った。
「え? は、はい」
「ふむ、私が車で送って行こう。シュン、教室でユイの荷物を取ってこい。ああ、自分のもな、お前も付き添え」
「わ、わかりました」
ちょうどいい、悪いが俺も帰らせてもらおう。ユイの付き添いなら誰も文句は言わないだろうし。
ユイはさっきなにを言いかけたのかと思ったが、本当に熱があったのか。
それなら、そうとすぐ言ってくれれば良かったのにな。
ちょっとドキッとしちまったよ。
俺は自分のそういうことへの免疫の無さに呆れながら、帰り支度をするのだった。
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