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『天魔恋玉(てんまれんぎょく)のコンペティション〜俺の魂は猫に奪われました〜』第15話

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第15話 昨日もこのやり取りをしたがな

「話は聞かせていただきましたわ!」

煉彩祭での出し物を、演劇で決めようかというところで乱入者が現れた。

絢爛院麗子けんらんいんれいこことレイコだ。
クロイツとニーコも後から続いて入ってきた。

「先輩方の実力は球技大会で理解しています。そこで、ここに合同出展の提案をさせていただきます!」

「おいシュン、ごうどうしゅってんってなんだ?」

「まぁ、一緒にチームを組んでやらないかってことだな」

「おお、それはマッスルな展開だな」

レイコの提案というのは単純に一緒にやろうというものではなかった。演劇と喫茶の合同出店という内容だった。

演劇の場合は小規模に教室でやるか、メインステージでやるかの2パターンがある。

前者は複数回上演できるがお客を一度にたくさん入れることができない。
後者は客の数は前者の比ではないが基本的に1回のみ上演になる。

俺たちの場合は後者にする予定だったが、これには集客の問題がある。1回の上演にどれだけ人を呼べるかが鍵になるのだ。

この集客の問題を解決するために喫茶店を開き、そこで上演の宣伝をしようということだった。

「でもそれだとお客が分散しちゃわない?」

「ええ、リオ先輩の言う通り普通にやっては分散してしまいます。ですので、上演前に喫茶店をステージの前に移動します!」

レイコの提案はこうだ

1、演劇の世界観を再現したコスプレ喫茶を出店

2、演劇の前に喫茶店を移動

3、ステージを見ながら喫茶のメニューを楽しめるようにする

4、演劇の進行に合わせて特別メニューを提供する

喫茶で演劇の宣伝をしつつ、演劇が喫茶の宣伝にもなるという戦略だ。演劇の時間にもよるが、この戦略なら演劇後も喫茶店で客を集めることができる。

「なるほどねー。コンセプト喫茶とディナーショーの合わせ技ってとこね」

ユイがつぶやくと、それにサキが反応する。

「ユイはそういうことにも詳しいんですね?」

「あ、うん、この間テレビでやってたの〜。あはは」

「そうですかテレビで」

ユイは変な笑いをしているが、サキは考え込んでブツブツと言っていた。

「なるほど、ノってみる価値はあるかな……」

リオが思案するようにすると、ニーコが前に立ちクラスに向かって話しはじめる。

「こっちにはレイコっちとスーパー執事のクロイツっちもいる。ニーコとサキっち、そこに先輩方も加わればお客はガッポガッポで成功間違いなし! 一緒に煉彩祭の1位を獲っちゃおうぜぇ〜!」

ニーコの演説に歓声と拍手が起こる。

「これは決を取るまでもないね。それじゃ合同開催ってことでよろしく」

「ええ、絢爛院の名に掛けて必ず成功させて見せますわ!」

リオとレイコが握手を交わすと再度歓声と拍手が起こった。
ニーコが俺たちの方にやってくる。

「シュン先輩! 先輩方もチーッス! というわけで今度は仲間ということでよろしくお願いしゃっす!!」

「お、おう」

「おお! マッスル、マッスル!!」

「よろしくなー……じゃなくって、よろしくね」

「グー、ガー」

「ちょっと、あなた」

サキがニーコに寄って行くとふたりでヒソヒソと話し始める。

「一体どういうつもり?」

「やだなぁ、サキっち。純粋に1位を取るための戦略だよ」

「確かに理にかなってるとは思うけど、それだけ?」

「やだなぁ〜サキっち、そんなわけないじゃん。言ったっしょ? 悪魔なんかにシュン先輩は渡さないって」

「彼は私と契約してるのよ。どうするつもり?」

「それがそもそも気に入んないだよね。勝手に契約しといてさ〜」

「彼の同意も得ているわ。それに色々と彼の方から協力もしてくれてるわ」

「どうせ契約を盾に脅したか、シュン先輩の人の良さに漬け込んで利用してるだけっしょ?」

「な、なんですって!?」

「まぁ、荒事にする気はないから安心してよ。ただ、シュン先輩はニーコたちのものにするから」

サキとニーコが何を話しているか周りの声が騒がしくて聞き取れない。

ニーコは笑顔で、サキは少し睨むように振り向いてきた。

なんだかわからないが、ふたりの表情に不穏な空気を感じるのだった。


第15話ー2

【ある日の夜】

シュンたちが学園祭《煉彩祭》に向けての日々を送る中、マイたちエクソシストは一連の黒幕を追っていた。

「おいマイ! そっちに行ったぞ!」

怪物は素早い動きでレインの銃弾、聖別BB弾の雨を避ける。
逃げようとする怪物の進路をマイがふさぐ。

「グルルル」

怪物は低くうなる。
怪物はゴリラのような獅子のような異形な姿。捻じれた角はそれが普通の動物ではないことを証明する。

「どうした? 言葉を扱うだけの知能はないのか?」

マイが構える。
怪物はマイを警戒し木を足場にして縦横無尽に飛び回る。
凄まじい動きで目で追うことができない。

「……(動き回って撹乱かくらんする気か……だが)」

マイは視界に頼ることをやめた。
目を閉じ、構えを保ったまま意識を集中する。

怪物はマイを目掛けて凄まじい勢いで突進してくる。
鋭利な角で突き刺されればただでは済まない。

「!!(ここだ!!)」

マイは脱力し風に舞う木の葉のように、怪物の突進をかわした。

「今だ! レイン!!」

「おおよ! 喰らいなデカブツ!!」

レインがスマホを操作すると地面に突き刺さった円筒状の物体が炸裂する。
空き缶くらいの物体は一瞬光を放つと炸裂し、聖別BB弾が四方八方の広範囲に散る。
怪物は躱しきれずに無数の弾に被弾する。怪物の被弾した部位にはやけどのような跡がついていた。

「このまま押し切る!!」

マイはすかさず追撃のために怪物に接近する。怪物は被弾の傷で動きが鈍っていて先ほどの比にはならないほど鈍足になっていた。

「グォオオオオ!!」

マイの接近に気づいた怪物は獅子のような咆哮を上げると、無茶苦茶に腕を振り回した。
怪物の腕はむちのようにしなり、接触した地面は砕け散る。

「ちっ!!」

怪物の腕を避け、思わずマイは後方に跳躍する。
かすりでもすれば霊的守りがあるエクソシストでも簡単に肉が裂けてしまう。

「まだだ!! 突っ込め! マイ!!」

レインは手榴弾の形をした玩具を怪物目掛けて放り投げた。
玩具は炸裂し聖別BB弾が怪物を強襲する。

「ガァアアアア!!」

怪物は腕でガードしたことで腕が焼け動きが鈍くなった。
マイは一息の間に怪物に接近し拳の連撃を叩き込んだ。

最後に放った拳が怪物を貫くと、怪物の身体はドロドロと泥になり溶けていった。

「あ〜クソッ! 結局またハズレかよ!!」

「みたいだな。ハヤテさんからは連絡あったか?」

「オヤジの方もハズレだってよ」

「そうか……」

「あのバケモンどんどん強くなってるぞ、今日だってアタシらふたりがかりだ。しかも、倒しても倒しても現れやがる。これ以上は手に負えなくなるぞ」

マイはポケットから棒付きアメを取り出す。

「レインにしちゃ弱気だな。アメ食べるか?」

「いらねぇ。そりゃお前、アタシはまだまだいけるぜ? ただ副業でやるような内容をとっくに超えてる、この弾だってタダじゃねんだ。本部なりなんなり連絡して、応援なり本職の連中なり寄越してもらうべきだろ」

マイは棒付きアメを舐めはじめる。

「連絡ならしてる……だが電話は通じんしメールの返信もない」

「は? 本部で何かあったのか?」

「本部は絶賛稼働中だよ。ただ連絡手段がない」

「何言ってんだよ。今どき電話やメールじゃなくたって連絡なんかいくらでも取れるだろ」

「そう思って連絡係の連中に連絡した。けど、連絡したことが無かったことになってる。本部に伝えると言われたが、翌日にはそのやり取りの記録すらなくなってるんだ」

「ち、ちょっと待てよ。誰かに記録を消されてるってのか?」

「消されてるのは記録だけじゃない、記憶もだ。連絡員の連中もやり取りのことを忘れてる。記録のデータも消えてるから証明しようもない」

「は? そんなことあるわけねぇ、どうせソイツらがボケてるだけだろ! だったらアタシも、オヤジにも言ってあらゆるルートで連絡してやるよ」

「ああ、ぜひそうしてくれ。ただなレイン、このやり取り昨日もやってるんだぞ」

「は、そんなわけ……冷たっ!?」

マイはポケットから小瓶を取り出すと、レインに中身をぶちまけていた。

「何しやがんだテメェ!! …痛っ!?」

顔や頭を液体で濡らされたレインは頭を抱える。

「浄化の水だよ。どうだ、思い出したか?」

「思い出した……。おい、おい、一体どうなってんだよ!? なぁ!?」

「私にもわからん。だから、今はできることをやるしかない。この煉玉市に張り巡らせられた霊脈を辿って、怪しい場所をしらみ潰しにな」

「けど、怪物エルキドゥもどきが居るだけで黒幕の姿なんてねぇぞ。こんな調子で本当に良いのかよ。それにマイの生徒どもは大丈夫なのか?」

「わからんが最低限の保険はある。学園には前の時よりも強力な結界が張ってある。条件付けで学園の中に怪物どもは入ってこれん。それにこうして黒幕を追いつつ霊脈にも仕掛けをしてるしな」

「そうか……。結局やれることやるしかない……か」

「ああ、そうだ」

マイはレインやハヤテと協力し霊脈を辿り黒幕を追っていた。
敵は霊脈を利用して何かする気だとマイは考えていたのだ。今までの噂の場所や目撃談、悪魔憑きとの遭遇地点などの全てが霊脈上にあった。
ゆえに霊脈のどこかに黒幕の根城があり、そこに行方不明者もいるだろうと。
おおよそマイの予想は間違っていない、その証拠として行く先々で怪物たちが現れている。

ただ他に決定的な何かが見つかったわけではない。
それでもこうするしか今は手がなかったのだ。

「マイは昨日の話をなんで覚えてたんだ?」

「ん? 毎晩、浄化の水を風呂に張って聖句せいくを唱えた。その後、暗号化した内容をそこら中に書いておいた、ほれ」

マイのバンテージの内側には暗号が書かれていた。

「ちなみに水の風呂に浸かって聖句を唱えてたってのはどんくらい?」

「だいたい2時間くらいかな」

「そっか。ア、アタシもやってみるかな〜、それ」

「おお、そうしてくれ。ちなみに昨日もこのやり取りをしたがな」

レインはただ黙って沈黙していた。この沈黙が何を意味しているかはマイにしかきっとわからないだろう。

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#創作大賞2023 #小説  #ライトノベル


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