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なぜ介護福祉士から看護学生になったのか? 〜その2〜

なぜ介護福祉士から看護学生になったのか? 〜その1〜

のつづき。

 

私はその方が入浴しないことが正しい

と言いたいわけではなく、

その方の「風呂に入りたくない」という

思いを実現させる必要が在宅生活にはある

そう強く感じていたからだ。

 

入浴し清潔を保つのは良いことだと、

介護福祉士である自分は分かっている。

 

バイタルサインには異常がない事を、

私自身も確認し、

看護師も確認していた。

入浴しても問題はないであろうと判断できた。

 

しかし、週2回の訪問入浴であったが、

その日を入浴ではなく清拭にしたところで、

その方に実害があるわけではないとも判断できた。

 

この方は、

要介護5、障害支援区分6。

たかが数字だが、

この時点で大変な障害を持っている事はだれでもわかる。

 

余りにも多くの事に介助が必要なこの方は、

嫌いな言葉ではあるが「寝たきり」で、

言葉を発するのも困難である。

 

ともすると、

介護を受けるだけで、1日が終わってしまうのだ。

 

食事は経管栄養で、

決まった時間に注入が行われる。

食べたいものを食べたいときに、

は失われてしまった。

気候のいい時に稀に散歩に出かけられる程度で、

行きたいときに行きたい場所へ、

も失われてしまった。

言葉を失い、

言いたいときに言いたいことを言うことさえも、

自分の望みをいつでも実現するチャンスさえも、

失ってしまった。

 

その方が必死に訴えて来て、

運よくこちらが汲み取れた、

「風呂に入りたくない」

たったそれだけの、

でもかけがえのないその意思を、

第3者のくだらない決定によって実現を阻止してしまう

その判断が犯罪的に思えたのだ。

 

だから実現した。

でも、なぜそれほど大事なことか、説得できなかった。

でも、看護師A氏は、わかってくれた。

 

看護師A氏の言葉。

あなたのように、最も長い時間を過ごしている

介護福祉士の方々がキャッチしたサインを、

私たち看護師が受け取って医者に届けなければならない。

自分たち看護師がきた時に十分に利用者さんをみて、

介護福祉士の方たちの情報を整理して、

なによりも利用者さんの為に、

医者を、ケアマネを、動かさなければいけない。

日々、支援そのものを見直していかなければならない。

 

A氏はその利用者さんに向かって、

「お風呂を阻止してくれてよかったね(笑)。

 入りたくないときはいつでも言ってね。

 でもお風呂に入ってもらったほうがよいときも

 あるからその時はお願いしますね。」

 

しっかりとしたまばたきで答える利用者さん。

 

その後、看護師A氏は

数種間のバイタルの変動、介護福祉士の記録を

手早くチェックしていく。

難病による呼吸障害だけではなくて、

既往の心不全もすすんでいるかも。

肺の持病が進んで影響してるかもしれない。

加齢による体力低下も進んできていて、

そもそも浴槽に入ること自体が

かなりキツくなってきているのかもね。」

正確に覚えていないが、そんなことを言っていたと思う。

当時の私にはどう因果関係があるのかわからないし、

看護学生の今でも自信はないが、

そんなアセスメントをしていたと思う。

 

そして、私にこう言った。


「すごい大事な気づきだよ!」

 

その後、裏でどう動いてくれたかはわからないが、

その方の入浴は、

事後報告のみで随時、清拭に変更可

となった。

 

自分で言った通り、

医者とケアマネを動かしてしまった。

 

自分にもそのチカラが欲しい

 

そう感じずにはいられなかった出来事だった。

 

数年後、その方は安らかにこの世を去った。

死の7日前に、

看護師Aさんと意識のないその方のケアをしながら

看護師を目指す事を話した。

 

「やっと決心したか!

 あたし達が勧めてあげてるのに、2年遅れたね。」

「でも、今からでも遅くはないからね。がんばりな。」

「〇〇さん(利用者さん)、聞こえてるよね!

 看護師になるってよ。

 いい年した妻子持ちだけど、応援してあげようね(笑)」

 

この看護師さんは、今でもたまに連絡をくれる。

 

 

そのうち、後日談として、看護専門学校の無謀な受験、しゃべりっぱなしの面接試験、奇跡的な合格をメインに書いていきます。

 

 

看護専門学校、あわただしい受験、そして奇跡の合格まで。

につづく

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