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竹生島へ

前回の記事の続きです。

今回、竹生島を訪れたかった理由は2つあり、どちらも「水」に関係しています。

海も川も池も見慣れているけれど、湖を見た記憶は片手以下。
それも、色の記憶はあるけれど、湖面に注目したことはありませんでした。

以下の記事でご紹介した、3名のクリエイターさんの湖面の写真を何度も眺めているうちに、湖面の表情を自分の目で見たくて、たまらなくなりました。

湖と空に挟まれていると、
「神様みたいな、人間をかるく超える大きな存在」はあるのだと
あたりまえのように感じられました。

こんな景色の中で暮らすと人間は、
声高に叫ぶまでもなく自然の中の1つと思えるんでしょう。
一人腑に落ちました。

巳白「絵事常々 -すきな風景②-」

この言葉を、巳白さんに語らせた景色のなかに、身を置きたい。
海でも川でもなく湖を見たい。
巳白さんやannon さんが、写真を通じて何度も見せてくださった琵琶湖に行きたい!

それを麦畑とセットで見られるなんて。
まさにハッピーセットです。

そしてもう一つ、竹生島に行きたかった理由は「波兎に会いたい」でした。

私生活で、神楽に多少ご縁があります。
いくつかの演目を舞う際につける鳥兜。
和紙に黒漆を塗り、押絵でおめでたい図柄をほどこした鳥兜は、とても貴重なものなので、まともに踊れるようになって、ようやくつけさせてもらえる、というものです。
でも鳥兜の重みや、両横に垂れ下がる羽のような部分を跳ね上げる動作は、やはり練習でも体感したいと、練習用鳥兜を試作したことがありました。その時に写し取った図柄が波兎でした。

波と兎という、ちょっと不思議な組み合わせ。その時には、因幡の白兎の図案なのかな、と軽く考えていたのですが、偶然見つけたこの記事に、目を吸い寄せられました。

以下は、波兎が生まれたとされる、謡曲 竹生島の一節です。

緑樹影沈んで魚木に登る気色あり 
月海上に浮かんでは 兎も波を奔るか 面白の島の景色や

謡曲 竹生島(部分)

緑の樹々の影が湖面に映り、まるで魚が木に登っているよう。
月が湖面に浮かび、兎が波の上を走り抜けていく。
島の景色のなんと趣のあることか。

そんな意味かと思います。
立ち昇るような情景にググッと引き寄せられました。

謡曲『竹生島』の「ウサギ」は湖面に映った「月のウサギ」。
そこから更に「波しぶき」としての「波のウサギ」、「波頭として見立てられたウサギ」の側面も、波兎にはあるんでないかと思います。

【卯】ウサギの社寺彩色の話

謡曲で表現されているのは、月に住むと言われる兎と、湖面に立つ白い波を重ね合わせた月夜の景色です。観光船が出るのは昼間ですので、月兎と魚たちが波間で戯れる姿を見ることは叶いません。
それでも、竹生島の近くまで行けば、波しぶき、波頭に跳ねる兎を見ることができるかも!

続きます。

少しだけ脱線の話

せっかく、巳白さんの記事に出演していただいているので、巳白さんの記事の私的おすすめポイントを、ひとつ紹介させてください。
それは、私が勝手に「おいといて怪獣さん」と呼んでいるイラストです。
今日ご紹介した記事にも出てきます。
探してみてくださいね。

参考

月と兎は、飛鳥時代まで遡る古い文様なのだそうです。

『今昔物語集』(十二世紀前半)の仏教説話には、善行により、帝釈天によって月に移された兎の話があり、飛鳥時代の天寿国繡帳には月とおぼしき円のなかに兎が薬壺とともにあらわされている。

並木誠士「日本の伝統文様」東京美術

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