51 エラーと生きる
一週間前に、私の知っている母は死んだ。
何も食べない。
会話ができない。
喋らない。
目も見えない。
反応もない。
耳だって聞こえてるかわからない。
朝36度だった体温は、昼には39度。
上がったり下がったりを繰り返す。
ここに横たわる人は誰なんだ?
母はもう、母ではないじゃないか。
でも、それでも、、
生きていてくれと想いを捧げる。
と同時に
母をこの重い身体から、早く解放してあげてくれ
早く自由にさせてあげてくれ、とも願った。
人って時には呆気なく死ぬけど、そう簡単には死なないようだ。
声も瞬きも、体温調整すらお休みにして、
少しでも長く生命を維持しようとするこの身体。
「飲み食いしなくても、こんなに生きるなんて…人間って生きようとする力がすごいね」と、私は姉に呟いた。
姉はすかさず
「でも、ガンって自分の細胞のコピーエラーだよ。」
自分の細胞で死ぬって考えたら、人間ってあっけない。
そのくせ、こんなにも粘ってこの世にしがみつく。
あぁ、今はその往生際の悪さが愛おしい。
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