見出し画像

50年前のベッドの寝心地とは

私はブルガリアのプレヴェンという田舎町に住んでいた。ブルガリアでの毎日は驚きに溢れていて、安らぎの場所である自宅での生活も例外ではなかった。私の部屋をめぐって起こった事件をいくつか紹介しよう。

新オーナーに変わってアパートの強制退去問題が勃発した時に、新オーナーが間取りを見に私の部屋に来たことがあった。私の部屋に入った途端、新オーナーが絶句した。

『このベッド、うちのじいちゃんが使ってたやつじゃないか!』

50年前のベッド、ボトムがメッシュになった1枚のばねの板で出来ていてめちゃめちゃ沈む上、マットレスもいつのものか分からないくらい古かった。寝心地はよくはないけれど、自分自身どこでも寝れるタイプなので、マットレスをこまめに干して上にシーツを敷いていればあまり気にならなかった。

ただ、友達が遊びに来た時に私のベッドを貸すと腰が痛いと本当に不評だった。私もある朝、ベッドから起き上がろうとしたらぎっくり腰になって、1週間寝込んだこともあった。

そんな50年前のベッドだけれど、アパートに引っ越したのがブルガリア生活2年目だったから、ブルガリアのベッドってこういうもんなんだと思いこんでいたのと、生活にこだわりがないからどうでもよいと思っていた。
正直、古いもの好きの私はこのベッドを気に入ってさえいた。だって、日本じゃこんなベッドに寝るなんて絶対あり得ないし、訳の分からない体験って外国だからこそ出来るものじゃない。別に気になんないんでいいです』という私の言葉を遠慮と取ったのか、新オーナーに本気で同情のまなざしを向けられた。

『これから新しい人に貸し出す時にどうせ改装するから』と言って、後日新オーナーが新しい良いベッドを買って持ってきてくれた。50年前のベッドが回収されて、私の部屋に新しいベッドが据え置いて満足した新オーナーが私の部屋を離れた時には、すでに夕方になっていた。夕飯の買い出しのために外に出た私の目に、ゴミ捨て場でバラバラになったベッドが目に入った。
なんだか少し悲しかった。

そんなベッドとの別れの話。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?