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社会科=地理+歴史+公民ではない

3つに分けられる社会科

中学校では社会科は,地理,歴史,公民の3つの分野に分かれている。自治体によっては,分野ごとに教科書も違う。だからだろうか。教える側も学ぶ側も,「社会科」という科目より,それぞれの分野が意識されてしまう。

小学校のときに比べて,「地理の勉強」とか「歴史の勉強」ということは増えても,「社会科の勉強」というくくりで意識することは薄れてきたのではないだろうか。

それでは技術・家庭科のように,地理・歴史・公民科でも良いはずだ。そうなっていないということは,「社会科」とは,単なる足し算のように地理+歴史+公民=社会科ではない。

実は,「社会科」には,「社会科」として成立させなければならない独自の原理があるのだ。社会科として学ぶ意義がそこにはあるのだ。

社会科の目標

社会科には目標がある。国が定めた『学習指導要領』には次のように書かれている。

社会的な見方・考え方を働かせ,課題を追究したり解決したりする活動を通して,広い視野に立ち,グローバル化する国際社会に主体的に生きる平和で民主的な国家及び社会の形成者に必要な公民としての資質・能力の基礎を次のとおり育成することを目指す。

文部科学省,2018,『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編』

ここでは,社会科を通じて「公民としての資質・能力」を育成することが掲げられている。

「公民」とは社会のなかで自主・自立した個人として権利を行使し,義務を果たす「市民」と,歴史や伝統を共有する1つの国家にまとまる「国民」の2つの考えをあわせもつ存在である。これが「平和で民主的な国家及び社会の形成者」という意味である。

すなわち,社会をより良くしていくために,現代社会をどのように理解(分析)するのか,そしてそれをどのように実現しようとするのか,ということを「公民」という2つの視点から考えていくということが求められているのだ。

桑原敏典,2020,「中学校社会科・高等学校公民科教育の意義と課題」を参考に,筆者作成

このように社会科とは,公民性育成という目標から,現代社会の研究のために社会科学のいくつもの分野が,地理,歴史,公民として編成されていることに本質があると言える。

だから単に地理と歴史と公民を学習しても「社会科」にはならない。「これからのよりよい社会をつくる人」という核があり,そこにたどりつくために,地理・歴史・公民がつながっていくという順番があるのだ。

地理は「ここ」から視野を広げ,「ほかのところ」との関係をさぐる。
歴史は「いま」から視野を広げ,「過去」との関係をさぐる。
そして,公民で,地理と歴史の学習を振り返りながら,自分と現代社会とのつながりを広げ,現実の社会での活動に結び付けていくのである。

社会科の歴史

社会科の歴史は新しく,アメリカ産だ。

社会科は,20世紀初め,アメリカ合衆国で成立したソーシャル・スタディーズ(Social Studies)が起源である。直訳すれば,社会研究科となる。

これが第二次大戦後,民主化されていく日本において,民主主義社会の担い手を育成するために設置された新教科のモデルとなり,「社会科」という教科名となった。

アメリカでは社会構造が大きく変革するなかで,社会の教育力が低下し,それまで生活のなかで培われていた市民性を,学校で育成しなければならなくなったという。こうして1916年に,「全米教育協会中等教育再編審議会社会科委員会」の報告書によって,社会科が誕生した。

同報告書では,社会の目的が次のように書かれている

社会科の意識すべき不断の目的として「良き市民性(シティズンシップ)」の育成をかかげていくべきである

渡部竜也訳,2016,『世界初 市民性教育国家規模カリキュラム』春風社,pp. 119-120.

ここでいう「市民性」とは,
・「社会生活の性質や法則の正しい認識」
・「社会の構成員である一個人としての責任感」
・「社会をもっと今以上に良くしようという動きに効果的に参画する知性や意思」
のこととされている。

このように「社会科」は誕生当時から,社会をより良くしていくための「市民性」の育成がねらいだったのだ。

まとめ

アメリカの市民教育をモデルに誕生した日本の「社会科」は,公民性育成という目標から現代社会を3つの分野から理解し,現実の社会での活動に結び付けていこうとしている。

地理,歴史,公民をバラバラにしてしまうのではなく,(そういう授業を先生がしているかはひとまず置いといて)それぞれのつながりを発見したときの「あ!」を大切しながら,「社会科」の楽しさを味わってほしい。

参考文献

唐木清志編,2016,『「公民的資質」とは何か――社会科の過去・現在・未来を探る』東洋館出版社.

社会認識教育学会編,2020,『中学校社会科教育・高等学校公民科教育』学術図書出版社.

文部科学省,2018,『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 社会編』


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