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1.19 tue ちょっと手ぇ洗ってきます
しばらく前、友達とごはんを食べているときだった。話がひと段落して、その中の一人が席を立とうとする。
「ちょっととい」と言いかけて動きごと止まる。
「どうしたの」
「や、お手洗い行ってくるわ」
お手洗い。言い直した、と思っていると、誰も何も言わないうちに彼は「最近トイレのことお手洗いって言うように心がけとるんよね〜」と照れくさそうに去っていった。
あまりに素直で感動した。応援したい気持ちでいっぱいだ。「ちょっと失礼します」で済むのでは?と思ってかぶりを振る。そうじゃない。彼はWC=「お手洗い」の図式を体に染み込ませようとしているのだ。たぶん。頑張れ。志がある人はかっこいいと思った。
お手洗い。あまり意識していなかったけど、その後からアンテナを立ててみると、私の知り合いの男性は「トイレ」と呼ぶ人が多かった。「お手洗い」派は後輩が大半を占めている。し、私の家のWCを指す場合が多い。あなたの持ち物の、というニュアンスでお手洗いと言ってくれているんだろうか。あと少数派だけど、男女問わず「おしっこ」派の人もいる。これは意識的にだな。
とかなんとか考えている時期があった。意識し始めると気になってしょうがない。人がWCに向かう度に「あっこの人はトイレ派なんだなあ」と頭の片隅にメモしてしまう。そんなときだ。
バイトの昼休憩が終わって、続きやりますか〜と作業場に向かう途中、一人の先輩がすっと列を離れた。
「ちょっと手ぇ洗ってきますー」
「!?」
驚愕した。ちょっともう一回言って!?と叫びたくなるのを堪えている間に他の人が「おれもトイレー」と言って、二人はWCへ入っていく。
目から鱗だ。本当に手が洗いたかっただけかもしれないけど、それでもついでに用は足すはず。私ならわざわざ「手洗ってきますー」じゃなくて「お手洗い行ってきますー」と言う。絶対。妙にスマートなところのある人だったので、「手ぇ洗ってきます」を常用していてもおかしくない。してそう。
すごいなあ、と一人で勝手に感動する。「お手洗い」という字面をこれだけ眺めてきて、その表現に気付かなかったことを恥じた。お手洗い習慣を付けようとしていた友達には申し訳ないけど、この言い方のほうがかっこいいと思うよ。私は。
それから自分も「手ぇ洗ってきます」を使おうと思ってはみたものの、力が入ってしまう気がしてなかなか言えない。他の人から「え?手洗ってくるの?今?」って聞かれたら恥ずかしいでしょ。
ああもなめらかに手洗い宣言をした先輩は、いつも力まず堂々としていた。思い出しながら、私もそこまで行きたい、と決意を固めた火曜の夜だった。
「便器」より「便座」のほうが清潔に聞こえるわけを話したりした
(2019.2)
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