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5.9 sun そうだったらいいのにな、ってあの歌が怖い

「100万あったら何する?」
 上司に聞かれた。なんですか藪から棒に、と思いながら考える。
「仕事用の服買います」「そして」「きれいなお鍋を買います」「さらに」「電子レンジをオーブン付きのにするとか…」「小せーよ!」
 叱咤。ローン返せばいいじゃんと言われて「たしかに」と頷く。
「じゃあ1億あったらどうする?」「えええ」
 1億円って何円なんだ。100万がいくつあれば1億なのかもすぐ分からない。「たまにケーキ買って帰ったり」「ええ」「銭湯に行ったり…」「100万より規模小さくなってない?」ほんとだ。額が増えたから生活そのものが変わることを考えての答えだったけど、自分にとっての豊かな生活ってこんな感じなのかと、安心するような侘しいような気持ちになるのであった。
「1億あって、Yさんはどうします?」
 上司に聞き返すと、「株か土地」と即答された。違う意味で現実的だなと思った。

 お金がないないと言っているくせに、いざあったらどうするかと問われると困ってしまう。家にも困ってないし、完食やコンビニ飯に浪費することがないおかげで健康である。たしかにお金があれば本やらCDやら買えるけど、正直今生活をしながら膨大な文化を咀嚼しきる自信はない。自分に足りないのはお金でなく、心や時間のゆとり、それらがもたらしてくれる力ではないだろうか。知識や技術(何に関しても)、それを身につけるには資本が必要だけど、身につけるキャパがないと話になんねえんだよな、とか。あとは情熱がなければ何もできまい。お金の問題はでかいけど心の問題もでかいのだ。

 絶対に叶えられるとして、どんな理想を思い描くか。学生のときにも友達と話したことがある。キテレツにハッピーな回答をできた試しはない。すごく頑張って「色んな県に住んでみる」とかである。理想の生活、理想の恋人、理想の家、そういうことを考えるとあまりの思い付かなさにヘコんでしまう。興味ないんじゃん…と思うからである。何の理想なら語れるだろうか、それを考えた方が賢明かもしれない。

上司との会話の続き。
「一個だけ、なんでも願いが叶うよーって言われたら何お願いする?」
「コロナやめてって言います」
 なんとなく今日は即答できた。これは結構本気だ。

日々の糧しんしんしんと切り崩せ時給1000円の夢と魔法を
(2020.3)

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