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WORK #7 / 2020.11

 散歩が好きだ。歩くのも、自転車や車で走るのも全部。それぞれの縮尺に見合った楽しみがある。出発前に向かう方向だけふんわり決めて、ナビを使わずに行ってみる。地図は見るけどそれだけでは十中八九迷う。さんざん迷った後で、その日どこを通ったのか地図でなぞっていくのが好きだ。ああここをまっすぐ行ってたらここに着いたんだとか、あそこから見えたのはここかとか、自分の体感と地図をすり合わせていくのは楽しい。
 たまに近所をぶらぶらする程度の散歩好きだったのが、昨年の引っ越しを機に、道のつながりや地名を意識する、要するに地図を使った散歩を楽しむようになった。それまで5年間金沢に住んでいたとは言え、生活圏はたかが知れている。大学もスーパーも家から徒歩圏内にあったため、家周辺~バイト先のある繁華街(歩いて30分)くらいの地理しか知らなかった。行動範囲は半径2キロがいいところだ。引っ越し先はそこから出て、うっすらとだけ知っている、繁華街の少し外側にしようと決めていた。漠然と興味があった。
 住宅情報サイトを見ると、町名がずらりと並んでどこがどこだか全く分からなかった。聞いたことのある町名もあるが、具体的にどのあたりを指すのか分からない。マップアプリで町名をかたっぱしから見て、今まで「あのへん」と呼んでいた場所を「○○町」と呼べるようになるのが嬉しかった。人の名前を覚えるのも好きだし、固有名詞に対する執着が強いのかな。地元の人と町の話をすらすらできると話が進みやすくていい。一つ町を覚えると、そこから芋づる式に他の町のこともなんとなく分かっていく。面白かった。地図で見た場所に実際に足を運んで、地図なしで闊歩できるようになるのが誇らしかった。
 金沢市は案外広い。観光に訪れる人が行く先は私の旧生活圏よりもずっと狭い、本当にごく一部だ。住宅街や商業施設の集まる大通りを進んでいくといつの間にか農道を走っているし、うっかりサイレントヒルみたいな山道に迷い込んでしまう。と思っていたらまた大都会に着く。特急列車に乗っていると感じる「日本ってほとんど山なんだな」感が短い時間で味わえるのがいい。日本どこでもそんな感じだとは思うが、実感としてそれを知ったのは車を運転するようになってからのことだと思う。

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