マガジンのカバー画像

WORK

16
毎月20日くらいに配信する短歌とエッセイのネトプリ、の、note版。有料記事です。
運営しているクリエイター

2021年1月の記事一覧

WORK #9 / 2021.1

 感染の話を身近なところで聞くことも増えた。今となってはいちいち驚かない。ただ職場の無事を祈る気持ちで、健康に気を付けながら生活している。普通に当たり前に。  何が変わったのか?  あのとき感じた不可能感がどんなものだったか、今になっては思い出せない。それでも何も変わっていないとは全く思わない。  新型ウイルスの再流行。この連載を始めた4月、わけもわからないまま動揺していたが、そのときの焦燥感は霧散した。除菌・対策、そういうことは変わっていないけど、もうすっかり習慣だ。それが

有料
100

WORK #8 / 2020.12

 異世界転生物が多すぎませんか? 最近。きちんと読んだり見たことがないので大口は叩けないが、転生してのし上がったり人生やり直す系の漫画をインスタグラムの広告でよく目にする。なろう小説ブームからの流れなのか。あまりにそればっかりおすすめされるとなんだか反発したくなるものだ。広告が作品を食っていくような感じがして、ムッとしてしまうのかもしれない。てか読み手や時代はそこまで転生物を求めているのか? みんな人生やり直したくてたまんないのか? と神妙な気持ちになるのである。物語に作品と

有料
100

WORK #7 / 2020.11

 散歩が好きだ。歩くのも、自転車や車で走るのも全部。それぞれの縮尺に見合った楽しみがある。出発前に向かう方向だけふんわり決めて、ナビを使わずに行ってみる。地図は見るけどそれだけでは十中八九迷う。さんざん迷った後で、その日どこを通ったのか地図でなぞっていくのが好きだ。ああここをまっすぐ行ってたらここに着いたんだとか、あそこから見えたのはここかとか、自分の体感と地図をすり合わせていくのは楽しい。  たまに近所をぶらぶらする程度の散歩好きだったのが、昨年の引っ越しを機に、道のつなが

有料
100

WORK #6 / 2020.10

 この夏から勤め先でコーチングを受けている。バリバリキャリアアップの訓練という感じではなく、最近どうですかーというざっくばらんな話を月に一回、コーチと一対一で話す。はじめは身構えていたが、今では素直に人と喋れる貴重な機会だと楽しみにしている。  先月、目的がどうのと書きましたが。うっすらと悩み続けていたので、今日のコーチングでもその話をさせてもらった。先月かなりぼんやりとした書き方になってしまったので、改めて。志自体は確実にあるのに、それを明確な名前に置き換えられないというこ

有料
100

WORK #5 / 2020.9

 先月、久しぶりに美術館に行った。おそらく半年以上ぶりだ。最後に何を観に行ったか思い出せない。そもそも閉館していたということもあるけど、卒業する前もしばらく何も観に行かなかったんじゃないだろうか。徒歩圏内に美術館があるという恵まれた環境に住んでいながら、何やかんや他のことばかりしていた気がする。  展示がどうだったというよりもまず、その場の自由さに驚いてしまった。今まであまり気にしていなかったけど、足を進めるテンポも引き返すのも自由で、何を要請されるわけでもない。究極観ないで

有料
100

WORK #4 / 2020.7

 おい! 二十四歳女性の生活がお花や爽やかさでいっぱいだと思うなよ‼︎  あ、こんにちは。最近女子力や映えという圧力に負けそうな私です。そんなもの過去の言葉だと思っていたけどそうでもないらしく、なかなか言えないことが多い昨今、皆さんどうお過ごしですか。今回は真面目な話は置いておいて、職場やインスタグラムでは語れない私の話を聞いていただきたい。

有料
100

WORK #3 / 2020.6

 季節も変わって、外に出やすくなった。6月に入って、通勤路に車の往来が増えたのを感じる。春先はあまり意識していなかったけどずいぶん減ってたんだな。生活音が増えたと思う。涼しくなったので窓を開けると、営みの気配が溢れていて嬉しい。  スクラップアンドビルド。やっぱり街は何食わぬ顔で変わっていくし、それって結構速いんだなーと思う。街だけでなく人との関わりだってそうなんだろうな。当たり前に。分かっていても、新生活の季節はそういうことを考えておセンチになりがちだ。  大学を卒業してそ

有料
100

WORK #2 / 2020.5

 店に入ると煙の香ばしい匂いがした。網が埋め込まれたテーブルが並び、先に入っていた後輩が手を挙げる。既に肉は頼んであるようで、ちょうどタンが焼かれているところだった。 「あいこさん生でいっすか?」 「あ、うん」「俺も生ー」 「すいませーん生二つくださーい」「はいよー」  接点があるようでないような面々がぎゅうぎゅうに押し込まれている座敷には、家族の食卓とは違う安心感がある気がする。何の義務感もない感じが嫌いじゃなかった。 「ほんじゃみんさんお疲れ様で~~す!」「わ~い」  カ

有料
100

WORK #1 / 2020.4

 中学校の卒業式の日、夕食はすき焼きだった。  受験中は魔法少女まどかマギカを観るのが唯一の楽しみで、毎週録画しては父親と一緒に観ていた。よく覚えている。卒業式の前日に十話の放送があって、ファン同士では「まどマギの十話がさ〜」と言うだけで伝わる、めちゃ面白い有名な回なんですけど。私と父も例に漏れず、衝撃でぶっ飛ばされた。やばいものを見たと震えた。二人してニヤニヤしながら「すごいことになったね〜!」と地上波にチャンネルを戻した。  街が消えていた。三月十一日のことである。

有料
100