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「パンズ・ラビリンス」

内戦後のスペインは、独裁政権とそれに反抗するレジスタンスの戦闘がまだ続いていました。そんな時代、物語が大好きな少女オフェーリアは、母の再婚相手のビダル大尉の拠点である深い森にある要塞に母と引っ越します。彼女は、きな臭く残酷な現実と、不思議なおとぎ話の世界が混在した世界を生きていました。彼女には、妖精の姿が見えていたのです。

妖精の存在や、迷宮の番人パン、そして彼らから告げられるオフェーリアは地下王国の姫であるということ。これが、現実のことなのか、それとも辛い現実から逃避するために生まれた幻想なのかは観る人によって変わるのかなと感じました。

想像力の豊かな彼女にとって、ビダル大尉の残酷な姿や、戦火の匂い、そういった厳しすぎる現実の中で頼れる大人も友だちもおらず、物語に乗って現実を彩ることで自分を守っていたんじゃないかと思います。彼女も気づかぬうちに。

パンは、オフェーリアに三つの試練を与え、王国の姫であるための力が失われていないかを試します。その二つ目の試練に登場するのがペイルマンです。
ペイルマンのいる部屋にはご馳走が盛り沢山。けれどちょっとでも食べてはいけないとパンは忠告します。しかしオフェーリアは一粒くらいならと誘惑に負けてブドウをつまんでしまいます。
すると、大人しかったペイルマンが写真の二枚目の姿になり追いかけてくるのです。

ペイルマンかわいい。手に目玉があると不便だね。

ファンタジーではなく、ダークファンタジー。大人が乱す現実の世界では、目を伏せたくなるような凄惨な出来事が続いていて、フランコによる独裁政権とそれに対抗するレジスタンスの攻防もヒリヒリと描かれています。

その現実はオフェーリアの幻想の世界にも影響を及ぼしているのか、不穏な展開が幻想の世界でも広がってゆきます。

今も、世界では子どもには辛すぎる現実がたくさんあって、その子たちがオフェーリアのように心を傷めているのだろうと考えると、何十年経ってもなにも進歩していない人間に呆れます。

大人の在り方と、物語の力を考えます。

読書離れなんてもう何年も前から言われていますが、読書にかぎらず物語は、心を柔らかくするエッセンスが含まれています。

最後に私の好きな言葉を。エルマーの冒険の翻訳者の渡辺茂男さんの言葉だそうです。

「実在しない生き物が子どもの心に椅子を作り、それらが去った後に実在する大切な人を座らせることができる。」

物語の力を私も信じています。

監督 ギレルモ・デル・トロ
制作国 メキシコ/スペイン/アメリカ
日本公開 2007年

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