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エッセイ #7|ええやんの話

人間味-【にんげんみ】
〘名〙 いかにも人間らしいあたたかい持ち味。「ーにあふれた人」

 人間味を垣間見る瞬間は、いい。

 本来ただの風景に過ぎない、街人Aや街人B。そんなモブキャラに対しても、人間味が垣間見えると印象が変わる。彼ら彼女らに対してぐっと親近感が湧くし、人間という種族の目撃者になっている"覗き見感"があるし、何より少しあたたかい気持ちになる。

 先日、近所のカフェに行った時のことだ。カウンター席で本を読んでいると、今風の女子2人が店に入ってきた。2人とも20代中盤くらいのように見える。その日はとても暑かったので、きっと店の前の暖簾に書かれた「氷」の文字に釣られてやってきたのであろう。あっという間に注文を済ませ、しばらく商品を待っている2人。そしてその刹那、

「生ビール大2つ、お待たせしましたー。」

という店員さんの声が店内に響き渡った。
このカフェは昼からお酒も提供している、シャレた店である。まさかと思って顔を上げると、先ほどの女子二人それぞれが、両手で大事そうにビールを抱えているではないか。

 日曜の昼下がりのカフェ。カフェラテでもかき氷でもなく、生ビール。しかも"大"ときている。自分ら、ええやん。


この、ええやんを感じる瞬間は日常の随所に転がっている。

 以前勤めていた会社には、毎朝満員電車に揺られながら出社していたのだが(東京の朝は戦争だ)、コワモテのサラリーマンが駆け込み乗車をしできたことがあった。入口付近に立っていた僕はどんどん体が小さくなっていく。コワモテサラリーマンが僕の目の前でスマホを触り出すと、待ち受け画面には3歳くらいの男の子が写っており、2秒くらい眺めてからホーム画面を立ち上げた。うんうん、ええやん。

 他にも。

スーパーから出てきたギャルが、持っている袋から長ネギを飛び出させているとき。平日の昼間のラーメン屋、隣の席のおじさんが割り箸を手に挟み、小声で「いただきます」とつぶやくとき。パン屋で、腕にカゴを通して肘で抱え、トングを持ちながらパンを眺める客の全員。

ええやんええやんええやん!

 人間味が垣間見えた人は、かわいいというか憎めないというか、そう、なんだか愛おしいのだ。

 これからも僕は、街ゆく人の人間味を探す。

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