マガジンのカバー画像

小説

44
運営しているクリエイター

#ショートショート

【3分小説】わたしたちの秘密基地

友達ができた。じっとりと蝉が鳴く、八月のことだった。

校庭の隅にはトタンでできた体育倉庫があり、その倉庫裏とフェンスの間には、樹齢の高い八重桜の木が生えていた。春が終われば人気を失うその場所は、私だけが通う秘密基地だった。夏が近付くにつれ葉の緑が不気味なほどに色味を増すことも、この時期のこの場所に誰も寄り付こうとしない理由のひとつだ。
八月の西陽に焼かれた校庭の隅、生い茂った葉のおかげで幾分かひ

もっとみる

【短編小説】想いの種【所要時間:3分】

ときに人というものは、頭に花を咲かせるものである。そしてそれを知っているのは、どうやら僕だけらしいのである。

「今度の土曜どこ行く?」
「んー、どこでもいいよ」
彼女の言葉の裏に(将暉と一緒なら)という含みを感じて頬が緩む。僕の彼女、愛佳の頭には、小さくて健康的な向日葵が咲いている。学校の帰り道を二人で歩きながら、カフェの窓に映る自分を何気無く見る。僕の頭の上に咲く向日葵は、愛佳のそれと同じよう

もっとみる