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何度でも忘れさせてくれる人

何年か前に、どこかで、誰かに、はじめましての挨拶をした。その日のぼくにとっては初めて会う人だったからだ。ただ、ぼくはその人に、3度目のはじめましてを言ってしまったらしい。消えて無くなりたい。もう人と喋るのは今日で最後にしよう。忘れっぽい私は途端に自己嫌悪に陥る。しかし、その彼/彼女は、

あなたとは会ったことあるよ。
でも、私は何度でもはじめましての挨拶をするよ

と、自然と口にした。それはジョークのような会話だった。しかし、いや、だからこそ、心底ぼくの記憶は彼/彼女に惚れてしまった。ぼくはこの人のことを何度でも忘れられる。そして、何度でも、時間をかけて思い出したい。思い出したい人が出来た。忘れることを許容してもらった。これは素晴らしいことだ。顔も名前も思い出せないその誰かに、ぼくは強く惚れている。

もう一度彼/彼女に会いたい。そして、初めましての挨拶をしたい。そして、前のことを指摘されたりしながら、少しだけ相手のことを思い出したりしながら、恥ずかしくなったりしながら。その凍結された記憶を温め直して、も一度思い出して、その誰かに、とびきりのはじめまして(!)、を伝えたい。もう一度、出会わせてはくれませんか。名前もわからない、どこで会ったのかわからない、はじましてだったあなたに。


忘れさせてくれてありがとう。でも、また思い出したいあなた。


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