見出し画像

「馬鹿なアイデア」が出ないプロジェクトは成功しない

新規プロジェクトの会議で、頻繁に良いアイデアが出ていますか?

「あまりない」と回答する方が、かなり多いのではないでしょうか。

この記事では「良いアイデアが出ない」原因は、「悪いアイデアを出せる環境」が整っていない事が大きな原因の一つ、ということを考えてみたいと思います。

さて、皆さんの会議では「チームリーダーや他のメンバーに馬鹿にされるようなアイデア」がどのくらい出ていますでしょうか?

機長に向かって反対の発言をするより死を選ぶ

「権力者の前では自由な意見を出しにくい」ことについては、面白いというより、深刻な弊害の実例があります。

『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』という本からの抜粋ですが、悲劇的な飛行機事故の分析によると、

機長は問題がないと考えているが、問題に気づいておらず、副操縦士は何かおかしいと思っていたが、機長の権限に反するような意見を言わなかった

というのが原因で事故に結びついたケースが、かなり多数あるということです。

これは特に機長の権限が絶対と見られていた、1970年代くらいまでの事故に多いそうです。

機長に反対・進言するより死を選ぶ。そんなことはないと思うかもしれませんが、データ的には証明されているそうです。

以下、本からの抜粋

「結果、クルーの反応を観察していたある心理学者はこう言った。『副操縦士らは機長に意見するより、死ぬことを選んだ 」  この話をちょっと聞いただけでは、上司に意見するより死ぬほうを選ぶなど、おかしなことに思えるだろう。自分ならそんなことはしないと」

考えてみると恐ろしいですね。現代ではこの傾向が減っていることを願うばかりです。

会議でもそうではないか?

ところで日本企業の会議ではどうでしょうか。

筆者は米国在住で、日本企業のクライアントが多いという事情から、日本人が出席する会議、外国人の(※米国人だけではなく、いろいろな人種が混じっている)会議の両方への出席経験が多数あります。

特に近年、ワークショップや会議がオンラインになったため、出席者が世界中に散らばっているというケースもたくさんあります。

その中で、「出席者がどれだけ頻繁に発言するか」というのが、日本の会議と米国を中心とした会議の大きな違いの一つです。

例えば、スタンフォードの生涯教育の「スタートアップの成長法」のクラスでは現在36名ほど生徒がいますが、メキシコや中米アジア、ウクライナまでに至る世界中の生徒が参加し、それぞれに訛りのある英語ながらも頻繁に発言しています。

質問や発言については皆が手を上げ続けており、先生がしっかり把握してみんなに順番が回るよう注意しなければ、発言の機会が回ってこないほどです。日本で言えば小学2年生ぐらいまでの、みんなが「はーい、はーい」と競って手を上げているクラスのイメージです。

また、友人がやっているシリコンバレーの「オープンアイデア・ハブ」の毎月のウェビナーでは、基本的に参加者全員が日本人(または日本語が分かる人)で、そのうちシリコンバレー在住・駐在している人が約半分です。ここでもかなり頻繁に、質問がコメント欄へ上がります。

これらに対して、主に日本の社内研修などのセミナーをすると、質問を募ってもまず絶対に出ないので、あらかじめ主催者側で質問を用意しておく必要がある、ということが殆どです。

この「質問が出ない」ことへの対策として、

あらかじめ人事部などから、発言することを人事考課の対象とすれば良いのではないか

というヒントも貰いましたが、人事考課の方法としては良いのかもしれませんが、これではおそらく良いアイデアは出てきません。

なぜならば、「発言が評価の対象になる」という時点ですでに、

バカバカしいアイデア

を出す機会が損なわれているからです。

大抵の参加者はバカな発言をして同僚から馬鹿にされるとか、上司からの評価が低くなるのを恐れて何も言わないことが多いのです。すると他人の発言を聞かずに頭の中で、次の自分の意見はもっと良いものを出すようにと考えるようになります。

これも安心して自由な意見を述べることが難しい原因です。

イノベーションのアイデア出しでは、「良いアイデア」を出すことが重要ではない

アイデア出しで重要なのは「良いアイデア」を出すことではなく「アイデアの数を出す」ことで、現実には殆どが悪いアイデアになります。ただその中に一定の確率で良いアイデアが混じっているので、それを抽出する作業になります。

なので究極的には、バカなアイデアがどのくらい出たかというのが成功の一番の要因(いわゆるKPI)になるようです。

なぜかと言うと、アイデアの総数に比例して良いアイデアが見つかるということが多いので、総数が多い、すなわち悪いアイデアが多いことが成功の秘訣だからです。

とすると、アイデアが良いかどうかについてその場では評価しない、ということが非常に重要です。

アイデア出しの会議で、バカバカしい発言をすることが上司や人事部からのマイナス評価の対象になっていると、当然そのような発言や アイデア は出ません。

すなわち、それに比例して良いアイデアも出ないということになります。

これも「多様性の科学」からですが、

「1972年以降に実施された300件超のビジネスプロジェクトを分析してみると、地位の高いリーダー(シニア・マネージャー)が率いるチームより、それほど高くないリーダー(ジュニア・マネージャー)が率いるチームのほうがプロジェクトの成功率が高かったのだ」

つまり、それほど地位の高くない人がリーダーの時の方が、評価を恐れずに発言できるので、チームとしての成功率が高いのです。

誰のアイデアか分からないようにする

もう一つ、馬鹿にされるのを恐れずにアイディアを出す方法があります。

これは、Googleのベンチャー投資部門であるGoogleベンチャーズで採用されている手法で、「Sprint」という本の中に出てきます。

それは、アイデアや解決方法を出す会議の際に、

各自発言せず、まず一定の大きさの紙にアイデアを書く。
そして各自の紙を混ぜ合わせ、無作為に一人一枚取り、自分の取った紙のアイデアを読み上げる

というものです。

この方法ですと、そのアイデアが誰から出てきたものか分からないので、馬鹿なアイディアだと言われるリスクは無く、自由に意見を出すことができます。

もちろん誰からのアイデアかわからないので、良い発言を人事評価の対象にすることは不向きですが、アイディア出し会議の目的が「たくさんアイデアを出して良いものを選ぶ」ということであれば、大変有効です。

また同じ本の中にもう一つヒントとして、会議で意見やアイデアを出す時は、「一番地位の高い人が最後に発言する」というのもあります。これは、最初に上司が発言するとその意見に皆が引きずられるので、それを避けるためです。

ただし前述の「自分のアイデアが馬鹿なアイデアだと思われるのを避ける」という意味では、効果は薄いですね。

バカバカしい意見が出る土壌

これまで見てきたように、イノベーションを目指す企業・プロジェクトでは、とにかく考えたことをどんどん発言すること、バカバカしいアイデアがどんどん出せるような雰囲気と土壌を作ることが、まず第一の前提なのです。


関連ブログ記事

極めて無能なリーダーの7つの条件

コロナを経てますます必要な新規事業発見の方法3つ

米国ベンチャー企業をヒントにした新事業の発想法


サポートの代わりにフォローやシェアをしていただけると筆者はたいへん喜びます☺