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【エッセイ】泣く子も黙る弱肩

自慢じゃないけれど、僕はびっくりするほど肩が弱い。

小学3年生から野球をはじめ、ひたすら野球に打ち込んだ。高校野球部では、自らピッチャーを志願。

入学早々、僕は気付いた。

「僕の投げた球、やたら失速してない?」

と。それからというもの、「肩を強くする方法」関連の文献を読み漁り、フォームの改善、走り込み、筋力トレーニングなどを試した。

自分なりに研究し、行き着いた結論が、下半身の強化。走り込みとスクワットで、ひたすら下半身強化に励んだ。

確か、スクワットは高校2年の冬時点で180kgを記録した。当時の体重は、60kgあるかないかだったので、実に自分の3倍もの重さのバーベルを持ち上げられるようになった訳だ。

それでも肩は強くならなかった。

さすがに、ピッチャーへのこだわりよりも、とにかく試合に出たい。左投げなので、ピッチャーの他にファーストか外野しかない。選択肢は限られていた。

身長170cmの僕にファーストは務まるはずもなく、残る選択肢は外野のみ。得意のバッティングで試合の出場機会は増えたものの、相変わらずの弱肩ぶり。

連携プレーの時は、内野陣がやたら近づいてくる。セカンドやショートには肩の強いメンバーが揃っていたので、ありがたかった。

向かい風の時は、投げた瞬間から球が失速していた。まるで走馬灯のようにスローモーションで。さながらドラマのワンシーンのようだった。

2年生の秋は3割ちょっとの打率を残したが、ベンチに入ることはできなかった。自分でもわかっている。肩が弱すぎるのだ。

打率5割くらい打たないと採算が合わない肩の弱さ。しかし、僕はホームランを打てるタイプではない。

3割程度ヒットを打てる能力では、割に合わないのだ。「どこに出しても恥ずかしい」くらいの弱肩だった。体力測定のハンドボール投げでは、肩の強い文化系のヤツに負けていた。

シートノックの際、レフトからバックホーム時はショートのちょっと後ろくらいまでチャージをして投げていた。いま思えば、あれはほとんどショートへの打球だった。

僕の弱肩さを配慮した監督・コーチによる「忖度ノック」である。

おそらく、中2あたりから肩の成長が止まっている気がする。中学時代はセンターを守っていたが、いまとなってはどうやってセンターを守っていたのが不思議なくらいだ。

グランドにずっと追い風が吹いていたのかもしれない。

小学校の時から肩は強い方ではなかった。それは自覚している。でも、ここまで弱肩だったのかは甚だ疑問が残る。

いつから弱肩になったのか。これは自分史上最大のミステリーだ。

日々のトレーニングで効果を実感できず、フォーム改善に注力した時期もある。とにかくキャッチボールをした。

一部のメンバーからは「キャッチボールオタク」と呼ばれたこともある。その通りだ。野球部を引退してからも、キャッチボールオタクは健在。

野球のキャッチボールから言葉のキャッチボールまで、キャッチーボールの日々を送っている。

しかし未だに肩は弱い。

「どなたか肩を強くしてくれる方はいませんか?」

おそらく、やりがいがあると思う。伸び代しかないのだから。このミステリーにはまだオチがない。

もしかすると、僕には生まれももった「肩弱い遺伝子」を引き継いでいるのかもしれない。その証拠に、バスケをやっている妹も「肩が弱い」と言っていた。

だとしても納得がいかない。「にしても」の弱さだ。小学校から高校までずっと野球をやってきたにしては弱い。サッカー部なのにリフティングが10回しかできない」レベルの肩の弱さなのだ。

肩だけでいえば、コールド負けの弱さだ。

僕は肩が強くなりたい。別に遠投100メートルを目指している訳じゃない。遠投75メートルで十分。球速でいえば110キロで大満足。

このミステリーにエンディングはあるのだろうか。なかったとしても、カタがない。

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