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成長企業の人事に必要な鳥の目と虫の目

このnoteは、LINE人事の青田さんにお声がけいただいたHRアドベントカレンダー「○△に大切な□×」の22日を担当させていただくことになり、執筆いたしました。
ここまでの方々のnoteがあまりにも示唆に富むものばかりで緊張しておりますが、私なりに日々考えていることを書いてみようかなぁと思っています。

お前は誰なのだ?

私は、合同会社YUGAKUDOという会社で人事・組織のコンサルタントをしています。主にスタートアップ領域で顧問という形で支援に入っています。あとは組織開発のプロセスファシリテーターとして携わることが多いです。
キャリアでいうと、後に上場しましたが”ド”がつくベンチャー企業からのスタートで、その後外資系を一社はさみ独立しました。
しかも、最初から人事だったわけではなく、事業系のスタートで、新規事業→事業開発→事業戦略ときてから人事系に移りました。途中に総務や上場準備、M&A、コンプライアンスといった仕事の経験を積むことができたのは、豊かな経験だったなぁと思います。

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なぜ、スタートアップなのか?

私がスタートアップに興味をもったのは、キャリアのはじめがこのベンチャー企業であったことに端を発します。実はその企業は社員30人ほどから数万人、全世界で5位の規模にまで成長したのですが、全盛期からたった1年強で廃業となってしまいます。おぉ、まさに栄枯盛衰。私は創業期から廃業までを共にしました。
いっとき、社会に価値を提供していたのは間違いなく、なぜ、どこで間違ったのだろう?という思いが頭から離れませんでした。それが尾を引き、大学院まで行き様々な学びを得ました。
そんなことがきっかけだったのですが、今となっては、スタートアップこそ、世に新たな価値を生み出す、まさに支援すべき企業フェーズだと確信しています。

組織成長のモデル

大学院で辿り着いたのは、企業組織の成長の仕方には一定の類型があるということでした。

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こちらは、50年近くも前の論文ですが、未だに引用され続けているお化け論文であり、”グレイナー研究”という言葉まであるほどです。(批判も含めて)私自身、修士論文でいくつかのスタートアップ企業の調査を行い、概ねこちらの類型に当てはまりました。現在支援している企業も概ね該当するところがあり、普遍性が高いと実感しています。(まぁ、実際は指揮による成長が長かったり、リーダーシップの危機がなかったりときれいにはならないのですが)
※こういった内容に興味がある奇特な方には、このあたりをお勧めいたします(^^♪

●高島克史(2009)「ベンチャー企業の成長モデルに関する考察--Greinerの説をもとにして」, 人文社会論叢 社会科学篇 (21)
●Flamholtz, E.G. and Y. Randle(2000) Growing Pains: Transitioning from an Entrepreneurship to a Professionally Managed Firm, 加藤隆哉監訳(2001)『アントレプレナーマネジメント・ブック』
●Penrose, E. T. (1959) The Theory of the Growth of the Firm 3rd edition, 日高千景訳(2010)『企業成長の理論』ダイヤモンド社.
●Timmons, J. A. (1994) New Venture Creation, 4th edition, 千本倖生・金井信次訳(1997)『ベンチャー創造の理論と戦略』ダイヤモンド社.

グレイナーモデルで言われていることは、成長の要因が次の停滞の原因をもたらすということです。例えば、指揮による成長と自主性の危機では、

①強いリーダーシップで組織が成長すればすると、組織では分業化が起こり、専門性が高まります。(初期分業化)
②そうすると、その専門性が高まった組織では、自分たちである程度判断して進めた方が早いし、根源的な欲求である自立性も高まります。
③しかし、リーダーは指揮命令による成長という成功体験があるため、なかなかこの指揮・権限を手放せません。任される方も慣れていません。
④そうすると、結局、リーダーの判断リソース不足や判断できない専門性の登場で事業判断はスタックしはじめ、また社員のモチベーションは弱まり、成長は停滞し始めます。

他の「成長要因と停滞要因」も同様の関係にあります。図を眺めていただくと、皆さんの組織でもなんとなくあてはまるところがあるのではないでしょうか?

スタートアップ企業は成長がはやい!

そして、昨今のスタートアップ企業では投資環境がひと昔前に比して格段によくなってきたこともあり、この成長がずば抜けてはやいという特徴があります。それ故停滞要因に至るまでも飛び抜けて早く、常にカオスといっても過言ではありません。
上記のモデルでいうと、組織のマネジメント能力が十分に育つ前に、組織成員が急増化することで、強制的に自主性の危機に突入することが多いようです。

スタートアップ企業の人事の状況

こうした環境下では、人と人のもめ事を含め、人事には常に対応せねばならない事項が山積みとなります。どんどん増える社員の受け入れ、いつの間にやらチームが増えたり逆になくなったり、明日入社する人がいますと急に言われたり笑、誰それさんがどーしたと、それはまあ大騒ぎです笑
だからこそ、今何がおきているのか?それはなぜ起きているのか?を俯瞰して捉えることと、事象を丁寧に捉えることの2つの視点が必要になります。
前置きが長くなりましたが、次にこの2つの視点についてまとめます。

鳥の目で大局をみる①【組織のクセ】

山積みの課題の大半は、上記のような日常の差し込み仕事だったりします。こうした日常のタスクはもちろん重要なのですが、その対処に追われるあまりに、なぜこうしたことが起きているのか?を見失合いがちです。結果、もぐらたたきの日々になってしまったなんて経験は皆さんにもないでしょうか?(ぼくは結構ありました。今日一日何やってたんだろう?みたいな)
この「なぜこうしたことが起きているのか?」を捉まえに行くことは、構造的且つ根源的な打ち手を検討する上でも大事なのですが、それ以上に組織のクセ”みたいなものが見えてくるんです。これは組織風土と呼ばれたり(あえて文化と呼ばない)、現在の組織能力の限界と呼ばれたりします。

この”クセ”が見えてくると、「次、〇〇をしようとするとこうなるよなぁ。。なので、××のような手を打たないと。。」と次のオペレーション上の落とし穴が見えてくるんです。この落とし穴を回避するだけで、後の効果検証はだいぶやりやすくなります。我々は、施策の効果そのものを議論・確認したいわけで、オペレーションの仕組みの瑕疵で議論を終わらせたくないわけです。

鳥の目で大局をみる②【その施策は事業成長に向かうのか】

このように構造的な組織のクセがみえてくると、施策が打ちやすくなります。その時に鳥の目Againです!
なにかというと、「その施策は事業成長に向かっているのか?」ということです。我々は、すぐに施策に走りがちではないかと。隣がやっている施策は、すぐに事例を知りたくなったり、自社でも採り入れねばならないのではないか?と考えたり。(こういう流行り施策にとびついてしまうのを、ファッション理論というそうです)
人事のリソースに余裕がある企業は多くはないと思いますが、スタートアップ企業は一層余裕がありません。(ボッチ人事は結構多いですよね)
こうした余裕がない中で、我々が優先すべきは、事業課題の解決であり、事業成長に資するか否かであるべきだと私は強く信じています。事業が伸長してなんぼだろうと。「そのアクションは事業成長につながるのか?」という問いは真ん中に置いておきたいと思っています。

以上のように、変化が早くカオスであり、且つ資源の少ないスタートアップ人事こそ、鳥の目を意識しないと気がつくと1年・・・なんてことが起きているのを目の当たりにすることがよくあるのです。

虫の目

では、その逆の虫の目はなにか?
それは、将来の”課題の芽”を見つけることです。

ーSlack上の何気ないやり取り、ちょっとした言い合いー

こんなことが気になったことないでしょうか。
そして後々、「あぁ、そういえば・・・」なんて、そのSlackのやりとりを思い出したことはないでしょうか。

・退職者の最後のあいさつ中の一言
・朝、おはようへの返しがない
・最近、遅刻が増えた、欠勤が増えた
・□□さんは、〇〇さんといつも目をあわせない
・××チームのゴミ箱がいつもあふれている

課題は、突然湧いて出るものではなく、実は日々その芽をいたるところにのぞかせているのだと私は考えています。これに気づくか否か。私のお師匠様の一人である宮川雅明氏は「小さなことに気がつかない人は大きなことにも気がつかない」と言われました。後から思い出し、あぁこういうことかと忸怩たる思いにかられたこともあります。
こうした芽は時間軸とともに大きくなり、後に数倍の工数がとられるばかりか、時に事業を止めてしまうリスクに発展してしまうこともあります。

鳥の目・虫の目、どちらにウェイトを置くべきか?

もうこのタイトルで読み飛ばされそうですが、結論はバランスですよね。どちらに偏ってもダメなんではないかと。虫の目で見つけたことは、解き進めるうちに鳥の目でみることが必要になりますし、鳥の目で考えるには虫の目での具体が必要です。鳥の目と虫の目はつながっていますよね。

ウルリッチ先生の4象限にあてはめると、鳥の目・虫の目はこのような整理になるのかなぁと考えています。(もちろん異論あると思います)

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右下の象限の「Community Manager」は私が勝手に付け加えました。虫の目は、「具体」「事実」「今」こういったキーワードが並びます。そしてフォーカスするのは主として個人です。
また、これも大事なことだと思っていますが、「人事でござい」としていては、組織の中にもぐっている課題の芽は見つけにくいと思っています。時にそれぞれの組織に溶け込みに飛び込むからこそ、見つけられる虫の目があるよなぁと考えることから、右下の象限でCommunityManagerと呼称していました。(再掲:異論あると思います)
(HRBPについて論じられている方は世にたくさんおられるので割愛します)

終わりに

ということで、真逆のように見える鳥の目と虫の目を行ったり来たりしながら、事業成長の一助となりえることこそが、成長企業(スタートアップ)の人事に必要な要点だと考えています。(※この2つの視点での見方は、組織規模の伸長とともに一人が同時にできなくなります。そうした意味でもスタートアップの特徴といえます)
勿論、一つ一つの眼前の課題をやっつけていくスキルは必要不可欠です。始めるべきはむしろこちらからだとも思います。
そうしたスキルをすでに習得された方には、一つ視点を変えた見方というものもおすすめしたく、このテーマで筆をとった次第です。

年末調整も終わった、賞与も終わった、来年の勤務カレンダーも終わった、年末あと少し!みなさん、がんばりましょうね~(^^

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